精神科Q&A
【0488】私の意志に沿わない進路変更を主治医がすすめます。病院を変えるべきでしょうか。
Q: 私は37歳の男性です。医療系の資格取得を目指し、仕事を辞めて再び大学に入学しました。大学のカリキュラムの忙しさや扱う内容の重さによるプレッシャー、級友たちと年齢が離れており親しく相談できる仲間がいないこと、慣れない土地での単身生活の寂しさなどから体調を崩し、1年半前にうつ病と診断されました。抗うつ薬を服用しながら何とか通学を続けていましたが、臨床実習に入ると体力も気力も使い果たしてしまい、半年前から休学を余儀なくされました。
現在は身体症状はほとんどなくなりましたが、何をするエネルギーもわかず家に引きこもっている状態です。
そういう私の状況を見て、精神科の主治医は、退学などの進路変更を勧めます。私の性格や体力が目指している職業には向いておらず、就業しても大変な思いをするだろうから別の職業を選ぶ方がよいと、断定するようなことを言うのです。確かに私の不調の原因が学生生活への不適応であることは認めますが、適応できないから避けて解決する、という考え方は受け入れられません。前職での経験を通して明確な目標を持って始めた学生生活なので、休学せざるを得ないと決まったときは本当に悔しく、何としてでも治って早く復学したいと思いました。その気持ちは主治医にも話していたのですが、治療が長引くにつれ「実は自分も大学を辞めたいのかもしれない」などと考えるようになってしまい、受診するたびに混乱し落ち込みます。治療期間が思っていたより長くなり、私自身も焦っていますが、主治医の方も治療効果が上がらずイライラしているように感じることもあります。
このように医師が本人の意に添わない進路変更を勧めたりすることは、精神科の治療の上では一般的な考え方なのでしょうか?それとも私は、もっと前向きに元の環境への復帰を支援してくれる医師を探すべきでしょうか?
林: 一般論でかたづく問題ではないと思います。当然ながら、あなたの病状と、あなたが求めている進路によって判断されるべきことです。ですから
「医師が本人の意に添わない進路変更を勧めたりすることは、精神科の治療の上では一般的な考え方なのでしょうか」
というご質問に対しては、「一般的な考え方というものはありません」という答になります。
また、
「もっと前向きに元の環境への復帰を支援してくれる医師を探すべきでしょうか?」
というご質問にも、イエス・ノーでお答えすることはできません。あなたの病状からいって、元の環境への復帰は良い結果を招かないかもしれない(あなたの主治医はそう判断されているのでしょう)。逆に、頑張って復帰することがあなたの成長につながり、ひいてはあなたの目標を達成できるかしれない。どちらも可能性であって、100%正確な予測は誰にもできないところです。
そこで一般論でお答えします。さっき一般論で片付く問題ではないと言ったばかりではないかと言われそうですが、まあお聞きください。
まず第一に、自分の希望にそぐわない指示をされるというだけの理由で医師を変えていたら、治療を受ける意味はありません。これは【0356】や【0473】でも言ったことです。
怒る前に次をお読みください。
第二に、職場復帰にせよ、進路決定にせよ、本人の希望が誰から見ても明らかに無理だというケースはしばしばあります。そういう場合でも、無理だからやめろと実際に言ってくれる人はめったにいません。医師がそれを言う唯一の人間ということもあります。ご家族や職場の人や学校の人から、無理だということを先生(医師)の口から言ってほしい、と頼まれることもよくあることです。頼まれたから言うとか言わないとかいうことではありませんが、本人のためを思って本人の希望を否定する、というのは現実にはなかなか言いにくいことです。それでもあなたの主治医がそうおっしゃったということは、それなりの重みがあると思います。逆にあなたの希望を受け入れ支援する医師のほうが、当然あなたからは信頼されるでしょう。しかし結局、たとえば二年後三年後になって、やはり無理だったということになったら、どうでしょうか。最初から無理だと判断しなかったことで、無駄な年月を費やすことになったともいえるでしょう。
けれども二年三年努力したという事実は決して無駄ではなかったという考え方も可能でしょう。こうなると、37歳というあなたの年齢も、判断のための大きな要素になってきます。
一般論のつもりがあなたの話になってしまいました。これ以上言うことはあまりありません。
「もっと前向きに元の環境への復帰を支援してくれる医師」
は、探せばもちろん見つかるでしょう。そうするべきかどうかは、上の回答をお読みになったうえで、あなた自身がお決めください。