精神科Q&A
【0603】擬態統合失調症?
Q:
47歳女性です。25歳の息子は、都会で、心の病気を抱えながら、一人暮らしをして働いていましたが、1年前に会社を辞めて実家へ帰ってきました。その後、イライラ・会社を辞めた空しさ・やる気が出ない・夜、眠れないということで心が痛くなるというので、近くの精神科へ行きました。前の病院の紹介状に、統合失調症と記入されていたそうです。
医師から、「この病気は糖尿病や高血圧のように慢性で根気の要る病気なので、時間をかけていくことが必要」といわれました。
それから4ヶ月たっても就職が決まらず、症状も治まるどころかひどくなるので、援助を受けるため近くの地域生活支援センターを紹介されたそうです。そこでは、就労の相談や家族へ病気を理解してもらおうという活動をしているとのことでした。
さらに2ヶ月たち、事態は変わらないので、デイケアに通い始めました。今から半年前になります。
そのときに、息子が、
「経費を抑えるため32条の手続きをしてきた」
と言ったのです。
私は、32条と言う言葉すらも知らなかったので、息子に聞いてみたら、
「申請をすることによって、医療費の95%を国と都道府県で負担し、5%が実費負担になるもの」
とのことでした。
私は愕然としました。なぜ親に黙ってそんな勝手なことをしたのか…
役場に精神障害であることを知られてしまったら、格好悪いもいいどころか、うわさが広まり、レッテルを貼られ、恐い…
さらに、息子は、障害者手帳・障害年金も考えているそうです。
驚くことにその窓口も役場だそうですね。
息子は、
「失業保険も終わり、そろそろ経済的に底をついてきたので、障害者手帳で割引になるものはしたいし、最悪障害年金で収入を得ることも考えている」
といいます。
しかし、私は、障害者として認められて料金割引なんて格好悪いし、これ以上役場から広まる周囲に「息子が精神障害者である」レッテルを貼られたくないので、これらを使ってほしくないのです。できれば、32条も使って欲しくなかった。
お金が欲しいなら、早く就職して欲しいのです。
今現在も息子はデイケアに通っていますが、休みの日は家でゴロゴロ・部屋は汚い・布団は乱れっぱなし・就職のために職安へ通おうとしない・で、だらしなくしている様にしか思えないのです。それで、自分で「心が痛い」といっているのです。
そんなある日、林先生のHPに、「擬態うつ病」という言葉を見つけました。
息子は、自分で病気を主張する「擬態統合失調症」としか思えません。
林先生のご意見お願いします。
林: 息子さんの今の状態は、統合失調症(精神分裂病)の陰性症状だと思います。決してご自分で病気を主張しているとか、さぼろうとしているとかいったものではないでしょう。あなたのおっしゃる「擬態統合失調症」でもありません。
統合失調症(精神分裂病)の典型的な経過は、幻覚・妄想などの陽性症状と呼ばれるものが目立つ形で発症し、その後意欲低下などの陰性症状が目立ってくるというものです。(あくまでこれが「典型的」ということです。実際にはこの病気の経過はさまざまです。こちらもお読みください)
息子さんの現在の状態は、当初の陽性症状が治療の成功によっておさまり、陰性症状が出てきている時期だと思います。こうした経過については、【0568】もご参照ください。一般に、陽性症状には抗精神病薬がよく効くのですが、陰性症状には薬は効きにくく、したがって息子さんの主治医の先生がおっしゃるように、根気よく治療を続けていくことが必要になります。
それを支援するためのものとして、地域生活支援センターがあり、デイケアがあり、32条があり、障害者年金制度があるのです。
さらに、息子は、障害者手帳・障害年金も考えているそうです。
驚くことにその窓口も役場だそうですね。
あなたはこう言っておられますが、残念ながらあなたの認識はひどく誤っていると思います。いや、制度そのものをご存知なかったことは仕方がないともいえますが、これらの窓口が役場であることを驚かれているということは、障害者への公的な支援制度そのものを否定する考えを持っておられるということだと思います。息子さんのためにもぜひここで認識をあらためていただきたいと思います。
さらに、あなたの認識の誤りは、制度だけでなく、統合失調症(精神分裂病)、さらには精神障害者全般に及んでいることが、メールの文章の端々から読み取れます。あなたが認識をあらため、デイケアや32条など、支援制度を活用しつつ回復の努力をしておられる息子さんの力になっていただくことを強く願いたいと思います。