精神科Q&A

【0364】向かいの家から悪口が、私だけに聞こえる


・・・続きです (2003.7.5.)

 前ページの回答(2003.1.5.)から半年がたちました。あなたが治療を受け、また無事に出産されたことを前提として、あらためてここに回答します。

 治療を受けて、良くなられていれば、今ではあなたにもおわかりのことと思います。あなたの症状は、幻聴被害妄想です。かなり典型的なので、間違いないと思います。そして、幻聴と被害妄想が見られる代表的な病気は、統合失調症(精神分裂病)です。

被害妄想や幻聴ではないということは、声の男女の区別がつくこと(老夫婦でいっている)、声の聞こえるタイミング(うちが物音をたてた後など)、うちの様子を話していることから明らかです

とあなたは書いておられます。これも、幻聴や被害妄想がある方が、自分の体験していることは事実であって幻聴や被害妄想ではないと主張する根拠として、非常によくあげられることです。つまり、幻聴や被害妄想のある方の多くは、あなたと同じことをおっしゃるということです。

私は前のうちの人がなぜそんなことを言うのか、どこからうちの様子を見ているのかもだいたい見当がついています

これも同じように、典型的です。

ですから、相手が本当に言っていることが聞こえてしまうという前提で回答を頂きたいのですが

という一文から、あなたには病識(ご自分が病気であるという認識)がなかったことがわかります。

 ただしここは微妙なところです。病識がない人が、なぜ精神科医に相談するのか。また、おそらくあなたは薬を飲まれたことと思いますが、なぜ飲むのか。本当に病識がなければ、医者の言うことなどに文字通り耳も貸さないでしょう。

 ですから、病識には、実は段階があるのです。

(1) 自分が病気であるとはっきりわかっている。これは、「病識がある」ということになります。

(2) 「自分は病気ではない」とはっきり言いながら、すすめられれば病院を受診する。薬も飲む。これは、「病識はないが病感はある」ということもあります。「半ば病識がある」というべきかもしれません。さらにいえば、言葉で表現することと、本当の気持ち(この「本当の」という語には深い意味があります)は、必ずしも一致しないということもできます。
たとえば【0335】の方は、「私は、家族が私の悪口を言っていると思っていますが、それは本当のことなんです」とおっしゃる一方で、精神科医である私に質問されている。これは(2)の状態とも考えられます。

(3) 「自分は病気ではない」とはっきり言い、医療は完全に拒否する。これは「病識がない」といっていいでしょう。
【0223】【0396】【0397】の方がこれにあたります。このなかで、【0223】の方は、自分の行動が監視されていちいち何か言われているという症状で、あなたに近いものといえます。また【0397】の方の症状が自宅とその周辺に限られている点もあなたに似ています。

 実際にはこの(1)(2)(3)の間にさまざまな段階がありますし、また一人の人が(1)(2)(3)の間を揺れ動くこともあります。【0364】を質問されたとき(2003.1.5.)のあなたの状態は、(2)であったといえるでしょう。そして現在は治療を受けて(1)になっておられることを期待してこのようにお答えしています。

 つまり、病識については、治療によって(3)から(2)を経て(1)になるということです。【0300】の方がその実例になります。また、【0157】は、治療によってそのように改善することを予想して回答しています。逆に、治療しなければ(2)の段階でもまもなく(3)になり、ますます治療が難しくなるということです。早く治療をはじめなければいけない理由のひとつがここにあります。


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