精神科Q&A
【0397】 マンションの隣や上下の部屋からガスやガソリンを吹き付けられると言っている妻
Q: 50歳の私は、41歳の妻とマンションの10階に二人暮らしです。妻は専業主婦で一日中部屋に居ます。
一年半位前から下記の内容で意味のわからないことを口走り、普段はなんともありませんが、突然、この時に顔の人相が変わり別人のような態度を示します。まず、マンションの両隣、上・下部屋から排気ガスやガソリンを吹き付けてくるといい、しかも部屋の壁に配管が埋め込まれていてそこから吹き付けてくるのだと言います。また、部屋の中に盗聴器がつけられていて、自分が部屋を出て買い物やパソコン教室に行くとバイクでつけてきて、家を出たら合鍵で部屋に入っていると言います。
町内の人が皆で自分を嫌っていやがらせをすると言います。バイク、自動車がマンションの前でエンジンを吹かし排気ガスを部屋に充満させてくると言うので、私は10階まで排気ガスが届くわけないよと言いますが妻は聞く耳を持ちません。
部屋の壁に傷があるとそこを指差して、ここから排気ガスが出てくると言います。しかもそこを写真にとって証拠にすると言います。本人に病院に行き診察を受けることを勧めたのですが一切受け付けません。本人に対し、言っている事がおかしいし、気分がすぐれないのであれば医者に見てもらおうと強く言えば「田舎に帰る」「離婚して」と言い出す次第です。
この部屋に居ると頭が痛くなり気が重くなり住めないと言うので、年末に妻の田舎に帰しました。今は田舎の両親と一緒に住んで気持ちも落ち着き気分は良いと言って正常に生活をしているようです。
しかし、二度とこのマンションには戻れないと言い、引越しをして違う場所に住む時に戻るからと言っています。病院に連れて行きたくても連れて行けない状況でこのままほっとく訳にも行かずどのようにすれば良いか悩んでいます。
林: 奥様は、妄想性障害か、統合失調症(精神分裂病)だと思います。
自宅あるいは自宅周辺だけで、被害妄想が出る、というのは、主婦の方に比較的よく見られる症状です。こういった症状には薬がよく効くことが多く、したがって治療を受けることができれば大部分は良くなります。
しかしご本人に病識がない(つまり、自分が病気であるという認識がない)ことがほとんどですので、なかなか治療を開始できないのはむしろ普通です。
そして大部分のケースで、ご本人は転居することを主張されます。自分ではなく、周囲が悪いのだから、転居すれば解決すると考えるわけです。まれには周囲に対して逆襲に出ることもありますが(たとえば【0396】、【0178】のようなケース)、ご本人が転居を考えることのほうが多いでしょう。
転居した場合、いったんは良くなったかのように見えることが多いものです。
けれども間もなくまた同じような被害妄想が出てきます。たとえば【0697】のようなケースです。したがって、転居しても一時的な解決にしかなりません。
あなたの奥様も、かなり典型的な症状と経過をたどっています。
転居しても解決しないということは、私に解説されるまでもなく、あなたもそう考えておられるのだと思います。
こうすれば良いというような、明快な対応方法はありません。
「病気でないと信じている」のが基本的な症状ですから、「納得させて病院を受診させる」というのは、論理的に不可能です。
といってしまうとミもフタもないのですが、論理的にはそうだということは出発点として認識する必要があります。論理的にそうである限り、そうそういい方法は無いのです。
ただし、【0359】や【0364】にも書いたことですが、病識というのは不思議なもので、いくら自分は病気でないと言い張っていても、何かのおりに病院に行くことに納得することがしばしばあります。
そんな悠長なことを言っていられないケースももちろんありますが(たとえば【0396】)、あなたの奥様のケースでは、少なくとも実家におられる限りは落ち着いた状態のようですので、もう少し様子を見てもいいように思います。
ひとつ確実に言えることは、最終的には病院を受診して薬を飲む以外に対応法はなく、そして薬の効果は十二分に期待できるということです。これを常に頭におかれて、日々の対応をお考えください。