精神科Q&A

【1865】嫌がらせを妄想と決めつけるのはおかしいと思います(【0942】への感想)


Q: 52歳の専業主婦です。【0942】妻と隣人のトラブル を読んで感じたことを書かせていただきます。私も含め数人の方より(専業主婦)近所の方からのいやがらせ行為で困っているというお話を耳にします。
 たとえば
・不自然な時間帯(明け方近くまたは深夜)にペットの散歩をしながら(猫でも散歩させています)他人の庭をジロジロと覗き、ときには犬や猫の糞を庭に投げこんだり玄関付近に排尿をさせる。
・べランダで洗濯物を干していると隣の家からタバコの臭いがただよって来たり、ベランダと向かいあった側の勝手口サッシのドアーを不必要に何回も開けたり閉めたりする。
・外にわざわざ出てきて勢いよくペットボトル潰して大きな音を立てる。
・ほとんどの人が寝静まっている時間に一年中開けっ放しの窓(台風が来ても)のそばで家族と大きな声で話す。    
・隣との境界や通りに面した昨年まで花や実をたくさんつけた庭木の葉が原因も分からず突然枯れはじめる等です。
このような状況では、音、臭い等で近所から理由もなく毎日攻められている気持ちになります。【0942】の妻の方も同じ気持ちではないかと察します。
 隣人の行為にどの様に反応するか(感じるか)はその人の育った環境や隣人との人間関係によるところが大きいとわたしは思います。家族であっても感じかたが違うこともありえます。当人が(妻)一人で家に居るとき執拗に隣人からの嫌がらせ行為があった場合隣人の行動に過敏になってしまうのも当然だと考えられます。精神科の先生の御立場としては日常生活に支障がある限り混乱状態にある妻は患者になってしまうのは分かりますが、この方は夫に気持ちを分かってもらえないで苦しんでいる妻でもあるとも言えなくもありません。
 あたり前ですが、人間だれしも毎日気分よく暮らしているわけではなく、気持ちが沈んだり、辛い立場にいる時は他人のことを羨ましく思い、幸せそうに見える人に絡む人もいます。人間関係が傷つくのが怖くて強くNOと言えない人に、面白がって迷惑行為を続けている人もいます。【0942】の隣人もそんな人かも知れません。
 以上私が日々の暮らしの中で感じていることを書かせていただきました。


林: 嫌がらせで困っているという相談があった場合、それが妄想であるかの判断を安易にすることはできません。その背景には、
・嫌がらせは事実としてもあり得ること
・被害妄想の中で、「嫌がらせを受けている」は、典型的で頻度も高いこと
という二つの事実があります。
そのような事情のもと、妄想かどうかをいかにして判断するかは【1864】に詳しく説明しましたのでご参照ください。
ですから、妄想かどうかの判断を安易にすることは間違いであるという質問者のご指摘そのものはもっともです。しかし【0942】の回答は変わりません。すなわち、

この方は夫に気持ちを分かってもらえないで苦しんでいる妻でもあるとも言えなくもありません。

違います。【0942】の奥様は統合失調症です。
そう判断できる理由は【0942】の回答と【1864】をご参照ください。

それはそうと

私も含め数人の方より(専業主婦)近所の方からのいやがらせ行為で困っているというお話を耳にします。

で始まるこの【1865】のメールには不可解な点があります。
「近所からの嫌がらせ行為で悩んでいる主婦が多い」ということまでは、事実であるとしても大きな矛盾はありません。けれども、このメールに箇条書きで書かれているような内容は、統合失調症や妄想性障害の妄想内容によく一致するもので、単なる嫌がらせとは質の違うものです(【1864】のB.(3)にあたります)。もちろんどれも到底あり得ない内容とまでは言えませんが、この質問者の周りにたまたまこのような被害を実際に受けている人がたくさん集まっているとは考えにくいことです。あるいは、これら嫌がらせをしているのは特定の一人の人物であって、これらの被害はすべてその人物の嫌がらせによるという解釈も考えられますが、メールの内容からすると、そのような解釈には無理があると思います。

すると、このような質問メールとなっていることの背景として考えられるのは以下のようなものになります。

(1) 単に誇張して書かれている。

近所の主婦から聞いた嫌がらせの内容を、質問者は誇張して書いているという解釈です。誇張の理由はわかりませんが、たとえば、質問者は、精神科Q&Aで嫌がらせを妄想と判断している回答に義憤を抱いており、「嫌がらせは実際にあり得る」ということを強く訴えたい気持ちがあり、その気持ちが事実を誇張させている。
しかし、質問文に箇条書きで挙げられている内容は、単なる誇張と解釈するには無理があるでしょう。通常の嫌がらせとは質の違う内容だからです。


(2) 質問者は特定の集団と交際している

誇張でないとすれば、質問文に箇条書きされている内容を、質問者の知人が実際に語っているということになります。その知人とは・・・ここで質問文をもう一度よく読んでみますと、そこには次のように書かれています。

私も含め数人の方より(専業主婦)近所の方からのいやがらせ行為で困っているというお話を耳にします。

ここで気づくのは、この「困っている」という話をしているのは、質問者の近所の人であるとはどこにも書いていないということです。もっとも、質問者がそこまで厳密に文章を綴っているとは限りませんが、もし近所の人でないとすると、新たな解釈が生まれます。それが (2)質問者は特定の集団と交際している です。

特定の集団とは、「嫌がらせを受けている」ことをテーマに集っている人々です。そのような人が集うサイトがネット上にあるかないか、私には不明ですが、あっても不思議ではないでしょう。そしてその中には相当数、統合失調症や妄想性障害などの妄想を有する人々がいらっしゃると考えるのが合理的です。(その根拠の一つとしては【1866】もご参照ください)
そして質問者は、そのようなサイトで読んだ被害妄想を事実だと思い込み、この【1865】のような質問をされている可能性があると思います。
また、そのようなサイトがあると仮定すると、それは参加者の妄想をどんどん助長していることが当然に推認されます。


(3) 質問者自身が統合失調症

第三の可能性の(3)は、質問者自身が被害妄想に悩まされているということです。そして、質問者からの訴えを聞いた周囲の主婦の方々は、明らかに質問者が妄想を語っていると確信している。そのような場合に人は、かかわり合いになるのを避けようとするのが普通ですから、適当にその場の話をあわせるという対応が最も多くなります。そのような対応をされると妄想を持つ人は、自分の被害が認められたと解釈するのが常です。この【1865】にもそのような事情があるのかしれません。そして上記の(2)と(3)の両方が事実ということも考えられます。つまり、統合失調症である質問者が、同じような被害妄想を持つ人が集まるサイトの影響を受け、妄想内容が事実であるとますます確信しているという可能性です。


以上は単なる可能性の指摘にすぎません。

回答の冒頭に戻りますと、嫌がらせを受けているという訴えが事実か妄想かの判断は安易にしてはならないということは、【1865】の質問者の主張とは逆に、嫌がらせが事実であるという判断も安易にしてはならないということです。そのような判断は、周囲の人への冤罪につながります。その好例として、ある本の記述を引用します。
赤瀬川原平 著
目利きのヒミツ  光文社 知恵の森文庫

です。
この本に、著者が妻のN子とともに、不動産を探しているときの体験が書かれています。以下は53ページから54ページの抜粋です。

建物を振り返って見てぎょっとした。
二階建ての普通の建物だけど、二階の横に伸びる照らすの手摺りが全部有刺鉄線でぐるぐる巻きにしてある。その上に、工事現場などで使うサーチライトが三つ四つ下向きに取り付けてあり、それらが自分の家に向けられている。何のためのものか。いまは静かだけど、何か殺気立ったい砦みたいだ。
中略
何だか鳥肌が立ってきた。家に人はいないにしても、何か物凄い気配だ。浮つきながら戻るとき、そのテラスの下の一階の縁側が目に入った。縁側の板の上に玉砂利がぎっしり敷き詰めてある。さらにその上に塩ビのパイプが何本か寝かせてある。縁側にですよ。
「・・・・・・」
二人ともますます沈黙を固めながら門のところに戻ると、人がいた。まだ人がいたんだ。髪がぼさっと長くて、寝巻きふうのものを着ている。女性。さっき押したピンポーンが通じていたのか。うつ向いて仕方なさそうに郵便受けのチラシを取ったりして、またうつ向いている。
中略
縁側の状態はN子の推理によると、やはり防衛措置ということになる。「侵入者」がパイプを踏めば足が滑るし、砂利を踏めば音がする。相当考えている。


今回(2010.10.5.)の実例(【1805】から【1890】)をお読みになれば、この家の主は統合失調症か妄想性障害であると高い確率で言えることをご理解いただけると思います。

ところが、著者の妻は別の解釈をしています。この本の55ページから56ページには次のように書かれています。

N子の解釈はまた少し違って、あの主はたしかにおかしいけれど、あの主をあのように追い込んだものが近所付き合いの中にあった筈だという。たしかに帰り際になると、サーチライトは家の道路側の隣家の私道に向けても一つ取り付けられていた。それにスダレのフェンスは隣の家に対してびっちり張り巡らされていたし。
 あの人はたしかにおかしいけれど、あの近所にはおかしくさせた人がいる、というのがN子の解釈だった。そんな町内に住むのはゴメンよ。


このように言われた町内の人々は、冤罪だとお怒りになるでしょう。町内の人には何の落ち度もない。しかし、N子さんも決して悪気はなく、人として健全な判断をしているにすぎません。あえていえば、統合失調症という病気がとても多い病気であることについての知識がなく、統合失調症の被害妄想からこの家の主のような行動を取ることはよくあるということについての知識がないことの問題を指摘すべきかもしれません。とはいうものの、実際には統合失調症がそこまで一般に知られているとはいえませんので、N子さんを責めることはできないでしょう。
それからもうひとつ大切なことは、この家の主が統合失調症だとして、統合失調症という病気にかかってしまったことについて、本人には何の落ち度もないということです。それは今回の更新で紹介した、周囲に多大な迷惑をかけている人々にもすべて共通したことです。


さて、【1865】の質問者は次のようにおっしゃっています。

人間関係が傷つくのが怖くて強くNOと言えない人に、面白がって迷惑行為を続けている人もいます。【0942】の隣人もそんな人かも知れません。

この隣人も、冤罪だとお怒りになるでしょう。

今回の更新(2010.10.5.)について


(2010.10.5.)


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