精神科Q&A

【1866】被害妄想に対し、盗聴器発見業者として何ができるか


Q: 27歳女性です。現在同棲中の彼氏が盗聴器発見業者を営んでおり、その事務所を住居として兼ねています。その関係上私も仕事の電話を取るのですが、電話を掛けてくる方に統合失調症の疑いが濃厚な方が多いのです。「頭の中を盗聴されている」「今テレビが私の言ったことを真似たのは盗聴されているからではないか」「道ばたで指を指して笑われたのは盗聴されているからだ」「盗聴電波が目で見える」など具体的な物から、漠然と盗聴されているのではないかというご相談を受けている間に、「24時間お隣さんが自分を監視している」「壁から悪口が聞こえる」「集団ストーカーが家の前に車を止めて、監視員が入れ替わり立ち替わりしている」「電気が何度も瞬間的に付いたり消えたりして気味が悪い。何かいたずらされている」など特徴的なことをお客様が口にする場合もよくあります。また、こういった方々は、独特な話の脱線をすることがあるように感じます。妄想や幻覚は、肯定も否定もせず聞き流すべきであることは心得ておりますが、相談という話の流れ上そうもいかず、論理的、技術的に不可能であることを説明しますが、当然納得されません。彼氏の場合ここでうやむやにして電話を終わらせるのですが、私としては正義感が許さず、見捨てることができません。どうしても病院へ行って治療を始めて欲しいのです。一通りお客様が仰りたいことを全部聞いた後、「(お客様が言ったような)そういう現象が起きる病気があります」「お客様のお話全体から、病気の特徴が読み取れます」「お客様の苦しみを取り除けるのは私どもではなく、お医者さんです」など私としては最大限柔らかく病気の可能性が高いことをお伝えするのですが、当然納得されず、「だから盗聴されてるんだってば」「私が言ってるのは妄想なんかじゃない、事実だ!」「私が嘘をついてると言いたいのですか?」「いや、私は病気なんかじゃないですよ」「ああ、この会社はそういう対応するんですね」といった、偏見や病気の症状自体から来る反応が返ってきます。「お客様が嘘を仰っているとは思っておりません。お客様にとっては本当にあったことなのでしょう。しかしそういう病気があり、100人に一人がかかるポピュラーな病気なのです。自然治癒は無く、放置すれば進行します。お薬を飲まなければ、あなたの苦しみは取り除かれません。どうか病院へ行って下さい。いつか私の申し上げたことを理解していただけると思います。」というような説明をしますが、やはり受け入れられるはずもありません。毎回疲労と罪悪感、いらだたしさを感じ、やりきれなくなります。10代と思しき女の子から「ホントにあったことなんです・・・」と消え入るように言われて電話が切れた時は、首を吊りたくなりました。反面、素直に病院行って薬飲めよ!と腹立たしくなる時もあります。(お金にならないどころか、フリーダイヤルなので会社としては赤字なのです)

さて、お聞きしたいのは、せっかく電話をくれた方々を治療につなげる方法は無いのかということです。たかが電話一本で納得されたら世話無いとは思いますが、今の私の説得方法は却って裏目に出る可能性があり、とてもベストな方法だとは思えません。こう言えば納得して病院へ行ってもらえる魔法の言葉なんて、無いとは思います。しかし話の持って行き方などでアドバイスはございませんでしょうか?どうか宜しくお願い致します。


林: 質問者は、統合失調症 (ないしは統合失調症圏内の妄想を持つ人) の妄想について、きわめて的確な理解をお持ちで、きわめて的確な判断をしておられると思います。ご指摘の通りで、盗聴器発見業者の方の対応によって、統合失調症の人に治療を受けていただくきっかけを作ることは期待できるところです。しかしこれもまたご指摘の通りなのですが、

こう言えば納得して病院へ行ってもらえる魔法の言葉なんて、無いとは思います。

その通りです。ありません。

しかし話の持って行き方などでアドバイスはございませんでしょうか?

あえてひとことで言えば、「妄想であることを直言せず、しかしその人が困っているという事実を受け入れ、それに対して病院での治療が適切であると説明する」ということになります。これでは漠然としていてわかりにくいかと思いますが、この原則以上のことは、ケースバイケースです。精神科Q&Aの統合失調症の実例、中でも特に今回(2010.10.5.)の実例(【1805】から【1870】)などをお読みになり、ケースごとに対応をお決めください。

今回の更新(2010.10.5.)について

(2010.10.5.)


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