精神科Q&A

【1709】愛犬を殴り殺してしまいました。SSRIのせいでしょうか。


Q: 30代女性です。うつで治療中です。 はじめはすぐに治ると思っていたのに長引いています。 発病のきっかけは上司や同僚との関係でした。不眠と食欲不振が続いたので心療内科を受診しました。痩せて体重は39キロくらいでした(普通は45キロくらいでした)。通院投薬治療が始まりました。 いろいろな薬を試しました。 手が震えて、字が書けなかったり、コーヒーカップが持てなくなったり。 友人とお料理教室に通っていましたが、得意なみじん切りが出来なくなり、出来上がった料理をテーブルに運ぶのも、こぼすのが怖くて、汁物は運ばないようにしました。 暫くして、お料理教室も辞めました。心療内科の先生は、それはお薬のせいだねと言っていましたが、特に対処はしてもらえませんでした。 体重が突然増え始めました。3ヶ月で30キロです。 10キロ少し増えた頃、会社の健康管理室に相談に行きました。看護師が、毎月曜日に産業医が労災病院から来るので、相談してみてはどうかと勧められました。 また、病院も、その時通院していた所から、看護師の勧める病院へ転院しました。上司からも、会社の勧める病院に行って欲しいと言われました。
 次の週にその心療内科を受診しました。パキシル40mg飲んでいたのですが、20mgに減らされました。そしてパキシルは相性が悪いようだったので、デプロメールがいいのではないかという事になりました。パキシルは少しずつ減らし、デプロメールの処方がだんだん多くなりました。 

デプロメールの量を増やして行く段階で、5月くらいから、とてもイライラする日がありました。 一度、軽くですが、リストカットの真似事のような事をして、左手首に傷が残りました。 また、可愛がっていた犬を些細な理由で棒で叩いて、せっかんするようになりました。 時には、歩けなくなるくらいまで執拗に暴力を振るった事もあります。 叩いて気が晴れる事はありませんでした。 帰宅する時、また怒ってしまったらどうしようと、逆にストレスを感じるようになっていました。 最終的にはデプロメール75を朝晩1錠ずつ。 パキシルは半錠。 その週は気分が優れず会社を続けて休んでいました。 休む事で、会社に行けない自分にもイライラしました。 金曜日の朝、ベッドで一緒に眠っていた犬が、ベッドの上でお漏らしをしてしまいました。 私は、カッと来て、犬をひどく叩きました。 棒を使ってひどく叩いたのです。 その後、また少し睡眠を取り、起きて汚れた犬を(暴力を振るわれて怖くておしっこやウンチをしてしまうのです)シャワーで洗いました。 傷ついた犬は、それでも私の指示に従い、ハウスと言うと自分でケージに入っていきました。 餌も与えず、私はイライラしていました。  暫くして、また犬を責めました。 持ち上げて床に叩きつけました。 気持ちは治まらず、犬をベランダに出して、2度ほど足で蹴り、暫くしてまた部屋に入れて、そしてまた床に叩きつけました。 その時、一瞬犬の表情が変わりました。 それまで自力で歩けていた犬がフラフラして、座ることも出来なくなりました。 それなのに、私は暫くしたら回復するだろうと思ってしまいました。 ソファーに寝そべった犬の隣に座りながら、犬の体は冷たくなり、唇の色は白くなっていた事も判っていました。 平熱が私より高く、抱くといつも暖かいあの子の体が冷たいと感じても、おかしいと思いませんでした。 暫くの間犬の横に座っていました。ソファーの横でぐったりしている犬を見て、様子がおかしい、すぐに病院に連れて行かないといけないと思ったのは夕方でした。 動物病院に電話して、到着後すぐに診察してもらえるように話しました。 キャリーに乗せて、急いで病院に連れて行きました。 10分ほどで病院についたときには、あの子は心配停止状態で、、、すぐに蘇生が始まり、何とか帰ってきてくれました。 ただ、内臓から出血していて貧血もひどく、このままでは助からないと言われました。 積極的な治療として、緊急手術が必要ですと。 先生にお願いしました。 費用はいくらかかっても、何とかします。 お願いです。 あの子を助けてください。 診察時間を過ぎていましたが、先生方は手術を始めてくれました。 私は、自分がしたことが自分で信じられませんでした。 シャワーを終わった時に、あの子の体温が低いと気がついていました。 普通なら、その場ですぐに病院に連れて行くはずです。 なのに、なぜ、さらに叩きつけて、痛めつけたのでしょう。 大事に大事にしていた犬です。 マンションのフローリングで走ると股関節に良くないと思って、廊下や床にペット用のカーペットを敷きました。 おもちゃやおやつを色々試して、時には餌を手作りして。 お散歩も毎日欠かさず連れて行き、写真もたくさん撮りました。 なのに何故この手であんなひどい仕打ちをしてしまったのでしょうか。 2時間くらいして、先生が出てこられました。 最後まで頑張れなかったと、手術中輸血もしながら最善を尽くしたけれど、出血が多くて、持たなかったと説明してくださいました。 こうして私は、可愛がっていた自分の愛犬を自分で殺しました。

最近SSRIの副作用で、性格が攻撃的になる事があると知りました。 私があの子を殺してしまった時も、SSRIのデプロメールとパキシルを服用していました。 心療内科の先生に泣きながら「私おかしいんです。必要以上に犬に暴力を振るい死なせました。普通じゃないんです」って話しました。 先生は、自分が殺したというのは大げさだし、自分いじめだからやめましょうと言うだけです。 薬との因果関係を知ったところで、私の気持ちは晴れません。 逆に、自分の病気のせいであの子の命を奪った事は、薬の所為であろうと無かろうと変わらないと思います。 でも、もし薬との因果関係があるのなら、そういうことを調査している機関があるのなら、私のケースを加えてもらいたいと思います。 そして、この薬を処方する先生方には、もっと認知して欲しいです。 今の心療内科の先生がこの件をどこかに報告してくれるとは思いません。 ですから、私が自分で報告する事は出来ないでしょうか? 保健所に電話すればいいのでしょうか? 因果関係を判断するのは専門家の方々にお任せします。 でも、せめてもの償いで、私のような人間がいた事を今後の薬の安全性を調査する事に役立てたいです。  あの日私は確かにおかしかったのです。 あの子の異変に気がついても、何も行動しませんでした。 それどころか、さらに痛めつけました。 夕方になってハッと我に返って、急いで病院に連れて行ってからでは遅すぎました。 人も犬も命の重さは変わらないのに。人の子供を殺せば殺人で罪を受けますが、犬を殺した私は何も罪を受けません。 常識では考えられない事をしていたのに、そのときは何もおかしいと思わなかったのです。 私は普段はほとんどキレたり、怒ったりしません。 今までにも犬を飼った経験もあり、暴力を振るったことはありませんでした。
自分の愛犬を殺してしまった事。この日は本当に頭がどうかしていたように思います。 おねしょくらいで激昂して、必要以上にいたぶって。別の自分がいるように感じていました。 イライラして、軽度の自傷をしたり、犬に暴力を振るい始めたのは、パキシルを減らして行きながらデプロメールを増やしていく段階の時期でした。 悔やんでも悔やんでも、あの子は戻ってきません。 夢を見ていたように感じます。叩いて内出血して、体温の低下したあの子をすぐに病院に連れて行かなかった私は、鬼のようです。 あんなに大事に可愛がっていた子なのに。 SSRIについての攻撃性についての先生のご見解をお聞かせください。
 心療内科の先生は「SSRIは副作用がありません」と断言していました。でも私は、便秘や、むかつき、喉の渇きは止まりません。 この先生からこの件が報告される事はないと思います。 ですから、私は自分でこの経験を厚生労働省のデーターベースに参考に出来るようなところに報告したいのです。 因果関係は専門家の方がされると思います。 ただ、私に起きた事を報告できればと思うばかりです。私と同じ悲劇が起きる前に。 よろしくお願いします。 


林: 
抗うつ薬(SSRIとは限りません)による自分や他人に対する攻撃性の副作用については、これまでの回答をまずご参照ください。

【1439】自殺未遂は薬の副作用でしょうか
【1019】「報道されない抗うつ薬副作用の恐怖」(SPA!の記事)について 
【0900】ハイジャック殺人事件の精神鑑定結果と判決について(【0581】の続き) 
【0581】ハイジャック殺人は抗うつ薬が原因だったのですか

この副作用は、現在では賦活症候群 (アクティベーション・シンドローム activation syndrome) と呼ぶのが一般的になっています。賦活症候群による他者への攻撃性については、論文がいくつも出ており、まだまだ完全な統一見解はないのですが、現時点ではおおむね次のように言うことができます。

症状は、(1) イライラ(焦燥感)→暴力 または (2) 幻覚、躁状態のような精神病症状と関連したもの のいずれかである。

その他:
・すべての抗うつ薬に共通して出現する。従来いわれていたように、SSRIに好発するものではない。
・ 原病はさまざまであり、一定の傾向はない。
・ 発生率は、定義が曖昧なため、報告によってまちまちである。
・ 従来は、投与初期の1週間以内に発生しやすいといわれていたが、必ずしもそうではない。
・ 有効な予防法は明らかではない。
・メカニズムは、脳内セロトニン機能の増強によるという説が有力。

この【1709】のケースの症状は、(1)の、いらいらが強まって暴力につながる に一致しています。メールに書かれている内容がすべて事実であれば、このときにお飲みになっていた抗うつ薬(デプロメール)による賦活症候群の可能性がかなりあると思います。
そしてこれは、主治医に副作用情報として報告すべき義務があるというべきでしょう(法的には義務まではありませんが)。質問者は、ご自身が報告したいという希望を持っておられますが、公的には報告するのは残念ながら無理だと思います。主治医の先生にお願いするしかないでしょう。しかし主治医の先生が「SSRIには副作用がない」などと非常識な迷信を持っておられるとすると、それも期待できそうにありません。(「副作用がない」という言葉は、患者を安心させるために言っているだけで、本当は副作用があることを認識している、という推定も成り立たないことはありませんが、現に副作用と思われる症状がかなり出ている以上、そのような言葉で安心させることができるはずがないのは明らかですので、この医師は本当にSSRIには副作用がないと信じているのかもしれません)
 ですので、結論としては、公的には報告できないということになりそうです。他の方の経験が、他の医師によって報告される、その積み重ねに希望を持つのが現実的なところだと思います。

(2010.2.5.)


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