精神科Q&A

【1439】自殺未遂は薬の副作用でしょうか


Q私たちは、父・母・私・私の娘の4人で同居しています。
60歳代の父が今年に入り、様々な体調不良(不眠・気分が沈む・耳鳴り・食欲不振・体重減少・頭痛がして頭がもやもやするなど)で色々な病院に通い、ホームドクターである内科医のうつ病との診断で、精神科のある病院に転院しました。この父の投薬と自殺願望の増幅の関連について質問をさせていただきます。
  
内科で処方されていた薬は、今からちょうど2ヶ月前の時点で、
  ガスター錠 10mg   
  エリスパン錠   0.25mg
  ハルシオン     O.25mg錠

その後、変更があったかも知れませんが、この時期、私は病気について知らなかったので、記録しておりません。

転院後、父の希望で、一週間ごとの通院にして様子を見ることにしました。父は、夜になると不安感が強くなり、入院したいと母に漏らすこともあり、「もうダメだ」など希望のないことを繰り返し言い、気持ちが弱ってきていると、母は感じたそうです。この頃は、自分がうつ病だと自覚があり、入院しないと不安だと思っていたようです。

処方箋が残っていないのですが、この時点では、(覚えている限りで)
  パキシル錠    10mg ×1錠
  アシノン錠
  ハルシオン    
  ベンザリン
を服用していました。

ある日、私や母、母の妹を呼び、「自分はうつ病で、症状も心配だから、明日、病院に行って、先生に入院させてくれるように頼んでみる。」と言いました。 
母は、「そんなことで入院なんてさせてくれない。」と言いましたが、私は、「お父さんがそうしたいなら、そうやって相談すればいいよ。私も一緒に病院に行こうか。」と話しました。
そして、「うつ病は治療で治る病気だから、大丈夫。今ある色んな症状もうつ病の特徴だから、病気が治ると、その症状も治るよ。」と言い、インターネットで調べたうつ病についてのことを読んであげました。そうすると、ホッとした表情で、「話して良かった。」と安心したらしく、入院もやめたようでした。
しかし、朝になると、やはり体調も思わしくなく、気持ちも沈んでいるようでした。

一週間後、再受診し、以下の薬を処方してもらって帰ってきました。 
  パキシル錠    10mg×2錠
  アシノン錠     75mg (朝と寝る前1錠ずつ)
  ハルシオン     0.25mg  
  ベンザリン錠    5mg
  リーゼ錠      5mg  (パニック時)    

その後、母に、「自分の作った農作物のせいで、皆死ぬ。隔離される。」「家族や親戚が病気(咳こむ・風邪・膝痛など)なのも、そのせいだ。」「自分がみんなの人生をダメにした。」など妄想のような不安を口にするようになり、パニック時に飲むようにとの薬もいただいて飲んでいました。

そして、さらに一週間後の午後三時頃、また農薬不安の事を口にし、非常に興奮気味だったので、パニック時にと処方されたリーゼ錠5mgを服用させ、横にさせました。その時の表情や様子が、(私が知っている範囲で)見た事もない状態でしたので、とても気がかりになりました。私は、二日後から、数日出張で家を離れるので、そのことも気になりました。

その晩(正確には明朝早く、午前二時〜二時半ごろ)、父は、自殺未遂を起こしました。まず家族に包丁を向け、それから自分を刺そうとしたのです。家族みんなで包丁を取り上げようとしたところ、大暴れして大変な状況になりましたが、結局は取り上げることができ、父の怪我もわずかでした。結果としては、包丁を取り上げようと、もみ合った際に左手を少し切っただけでしたが。
調べてみると、寝る前に服用していたはずのお薬(ハルシオン0.25mg と ベンザリン5mg )を飲んでいなかったことが分かったので、それを飲ませ、床につかせました。この時点で、「明日病院に行って、入院させてもらおう。」ということで納得しました。 その後急いで、包丁や剃刀類は、全て隠してしまいました。

そして、翌日午後、その日は昼近くから、表情も穏やかでニコニコし、「入院したくないなあ」と言っていたそうです。が、私が出張でいない間に何かあったらと心配で、事前に先生に電話連絡をして早朝の出来事も話して、父、母、私の三人で病院に行きました。父は、終始ニコニコして、「もうそんなことはしません。」「大丈夫ですよ。」と話しましたが、説得して、無理やり納得してもらい、任意入院となりました。自殺願望があったので、閉鎖病室への入院です。

入院後、薬の追加や増量があったようですが、このことについては、分量等確認していません。

母は毎日面会に行っています。その度に、父が元気がないことを悲しんでいます。また、一人ぼっちで病室にいることが、病気を悪化させないか心配しています。私は、適切な治療を受けられる事と、何より、自殺を食い止めるには私たちでは限界があることから、病状が改善され、先生の許可が下りるまでは入院が最良の治療方法だと思っていました。

ところが、その二日後に、自分で死のうと壁に頭を打ち付けて、おでこから、眉間の辺りが腫れ上がり、内出血も見られました。その時点で病院から連絡がなかったことを母は不審がっていました。また、さらに翌日には、自分が罪深いことをしたという妄想を口にしていたそうです。

父の症状は、全てうつ病の患者の症状として上げられているものと同じなので、適切な治療を受けさせたいと思い、また、現時点では自殺願望があるので、閉鎖病棟であることが一番だと思っていました。

私は次の日に面会をし、その後先生から治療についてお話を伺いました。
面会の際、やはり、おでこは腫れ、目の際に内出血が残り、人相が変わっていました。父は、「昔、悪い事をした。先生に全部しゃべらされる。そうなると、家族にも迷惑がかかる。」「暴徒が家族をやっつけに行く。」「面会室に盗聴器をしかけられている。」とボソボソと盗聴されないように話すのです。また、「入院するのではなかった。ここでは、死のうにも死ねない。出られれば死ねるのに。」と言います。
妄想もうつ病の患者に見られる症状だと調べて分かりました。

先生も、妄想のことを話してくれました。今後の治療を尋ねると、「薬物治療と休養(入院)です。一応、4〜6週間の入院予定ですが、長引く事もあります。」とのことでした。現在の薬の分量も教えていただきました。そして、いくら閉鎖病室で入院していても、自殺を100%防げるというわけではありません、と言われました。

現時点で
  パキシル          40mg
 ワイパックス          2mg
  セロクエル         25mg
  ヘルラートミニカプセル    5mg
  ハルシオン         0.25mg
  ベンザリン          5mg
アシノン錠        150mg

今後も様子を見ながら変更等するようです。

ところで、帰宅して調べると、処方されているパキシルの副作用に、自殺念慮を増幅させる可能性があり、抗精神病剤を投与中の患者や自殺念慮の患者、高齢者には慎重に投与を、とありました。
また、新たな自傷行為があった場合は、増量せず緩やかに減量し、使用を中止するようにとの記述もありました。

通院中、先生からは、パキシルの副作用の説明や、服用後に注意しておく事など説明はありませんでした。もちろん、面会に行き、薬の分量等を伺ったときにも。
家族を不安にさせないように配慮してくださったのかも知れませんが。。。

家での自殺未遂後と、院内での自殺未遂後にもパキシルは増量されています。家での様子が急変したように感じたのも、転院後のことなので、もしかしたら、薬の副作用かと思ったりします。
薬の増量が短期間に行われすぎているのではないかと心配もしています。

 林先生には、以下の点でぜひ教えていただきたいと思います。

1.自殺念慮や、自殺企図の出来事は、パキシルの副作用でしょうか?

2.パキシル服用量が短期間中に急激に増えているように感じます。
  現在の分量や増量期間は適切でしょうか?また、この薬を続けて良いのでしょうか?

3.今の(精神科の)医師の治療を信頼して任せて良いのでしょうか?

手遅れにならないように、私たちにできることがあれば実行したいのです。ぜひ、ご示唆お願いします。


林: 抗うつ薬の副作用として自殺念慮があるか否か。それは【1225】にもお書きしたように、昔から議論されているものの、いまだはっきりした結論は出ない、非常に難しい問題です。
ごく単純に言いますと、抗うつ薬を飲んでいる人が自殺をした場合、それがうつ病の症状としての自殺なのか、それとも抗うつ薬の副作用なのかは、判定不可能だからです。
たとえ抗うつ薬を飲んだ後に自殺念慮が強まったとしても、それは抗うつ薬の投与量が不十分でそうなったのか、それとも抗うつ薬の副作用なのか、やはり判定不可能です。
とは言うものの、抗うつ薬によってかえってイライラが増すケースがあることは確かです。【0866】などがその例です。
しかし多くの場合、このイライラにしても、うつ病の症状なのか抗うつ薬の副作用なのかは判定困難です。

ただここで最も重要な問題は、抗うつ薬によって自殺念慮という副作用があるかないかではなく、仮にそういうマイナスが抗うつ薬にあったとして、では抗うつ薬によってうつ病が回復し自殺が防止されるというプラスと、どちらが大きいかということであることは明らかです。どんな薬にもマイナスはあるわけですから、プラスとマイナスのどちらが大きいかが重要ということは、いかなる薬であっても基本的には同じです。

そこで現時点での結論は【1225】の引用文献の通りです。但しこれも将来は変わるかもしれません。

また、この【1439】の質問者が引用されているとおり、パキシルの添付文書には、

ところで、帰宅して調べると、処方されているパキシルの副作用に、自殺念慮を増幅させる可能性があり、抗精神病剤を投与中の患者や自殺念慮の患者、高齢者には慎重に投与を、とありました。
また、新たな自傷行為があった場合は、増量せず緩やかに減量し、使用を中止するようにとの記述もありました。


という記載が確かにあります。つまり、現時点での公式見解として、「パキシルは自殺念慮を強める可能性あり」ということになります。

そして、この【1439】では、「新たな自傷行為」があったわけですから、パキシルの添付文書の文言通りに従うとすれば、パキシルは減量すべきということになるでしょう。そのいみで、【1439】の質問者の疑問はもっともと言えます。

しかし実際にはこの判断は難しいところです。
第一に、【1439】の症状を見ますと、これは薬のせいではなく、うつ病(いわゆる「精神病症状を伴ううつ病」)であると、私なら判断します。多くの精神科医がそう判断すると思います。
第二に、パキシルなど抗うつ薬による精神症状の悪化(【0866】に見られたような症状。これを「賦活症候群」と呼びます)は、投与開始の初期に多いというはっきりした統計的データもあり、そうしますとこの【1439】は抗うつ薬による悪化らしくないということになります。

したがって、【1439】の現在の症状を、うつ病の悪化ととらえ、抗うつ薬を増量するという方針は理にかなっていると言えるでしょう。

しかしだからといって、絶対に抗うつ薬の副作用でないとも言い切れません。すると抗うつ薬を減量するという方針も(そして同時に抗精神病薬を増量する)、一理あるところです。が、その場合、うつ病の回復は遅れるでしょう。その結果、自殺のおそれは増すことになります。

というわけで、ここには決め手がありません。
以上により、ご質問の答えは次の通りになります:


1.自殺念慮や、自殺企図の出来事は、パキシルの副作用でしょうか?

違うと思います。しかし、絶対に違うとは言い切れません。

2.パキシル服用量が短期間中に急激に増えているように感じます。
  現在の分量や増量期間は適切でしょうか?また、この薬を続けて良いのでしょうか?


増えているのはうつ病から一刻も早く回復させないと危険という判断があるからだと思います。その方針にしたがえば、現在の処方は適切です。

3.今の(精神科の)医師の治療を信頼して任せて良いのでしょうか?

ここは抗うつ薬を増やす・減らすという、正反対の方針がどちらも考えられるところです。したがって、どちらの方針を採るにせよ、その主治医の治療に任せるのが最善でしょう。


なお、抗うつ薬の副作用等についての最近の日本語の参考文献としてはこれらがあります。





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