精神科Q&A

【1066】息子の攻撃性がエスカレートし、閉鎖病棟に入院になりました


Q: 17歳の息子は昨年高校に入学しましたが、4日間で通えなくなり、不登校になりました。特にいじめなどはなかったようですが、同年代の人が自分のことをどう思っているか、どう接したらいいのかわからない、苦しくて通えないといっていました。その後、自宅で勉強して大検もとりましたが、9月頃からネットの2ちゃんねるの掲示板を見るようになりました。最初は楽しく見ていたのですが、今年初め頃から終日見るようになりました。2月頃には2ちゃんねるにずたずたにされてしまった、どこにいてもその記憶が僕の心を締めつける、などといってとても苦しがるようになりました。

そこで3月に小児病院の精神科に連れて行き、そのとおりの診断で投薬治療を開始しました。その時の薬は何かわかりませんが、白い小粒で一日1錠でした。次の診察日には行くのはいやだとぐずりだし、昼前になって、誰かを傷つけたいとか、家に火をつけたいとか言い出し、これはどうしても病院にいかなくてはと連れて行くと、担当医の方はどうも前回と様子が違うようですね、入院したほうがいいでしょう、という事で入院になりました。

入院後は薬が効いたのか1週間ほどで落ち着き、退院しました。このときは、強迫観念、社会不安障害という診断でルボックスを朝晩1錠ずつ飲み始めました。その頃から時々異常に興奮して、誰かを傷つけたいとか家の物を壊すようになりました。担当医の方に相談すると、興奮したときにとベゲタミンを処方されました。最初は飲んでしばらくすると落ち着きましたが、やはり副作用があり、副作用止めを一緒に飲んでも舌の痺れや足元のふらつきなどで、飲むのを拒否するようになりました。

その後、興奮状態は毎日急激にエスカレートしていき、5月には、僕がこんなになったのは普通に学校に通える者たちのせいで、兄や妹も同じように憎い、殺してやると包丁を持ち出しました。その夜は薬を何とか飲ませ深夜になってやっと落ち着いて眠りましたが、翌朝は起きたときから目がおかしく、胸騒ぎがしましたので、ベゲタミンをもらってきました。お昼前ぐらいから、なんだかおかしいと言い出し、近所の人でも誰でもいいから傷つけたい、殺したいなどいい、何とかむりやりベゲタミンを飲ませましたが収まらず、1時間ほど家の中で暴れた後やっと落ち着き、腹が減った何か食べたいというので、近くのファミレスへ行き、帰りの車の中で眠ってしまいました。

このままでは家に帰れないと思いましたので、そのまま眠ったままかかりつけの小児病院にいくと、どこか閉鎖病棟のあるところに入院したほうがいいとのことで、もう夜になっていましたが、電話をかけていただき入院しました。入院した病院の当直の先生の話では統合失調症ではないだろうかという事でした。ショックですがこれを受け止めて何とか直してやりたいと思っております。質問は以下の3つです。 

1. 先生のサイトの精神科Q&Aの【0900】【0866】に、ある種の抗うつ薬は攻撃性が助長される事があると書かれているのをお読みしました。息子は非常に気の弱い、人見知りの激しい子で、今まで暴力、暴言などは振るった事はなく、このような急激な攻撃性に驚いています。最初に処方されたルボックスの影響はないのでしょうか? 
2. 閉鎖病棟に入院することで、捨てられたと思い、却って親をうらみ、兄弟を恨み、精神的にもっとひどくなる事はないのでしょうか 
3. このような攻撃的な発作状態がある子供が、入院時の投薬治療で症状が落ち着いたとしても、退院後、何かのきっかけで、それが発症し、大事に至ったらどうしようと思ってしまいます。そのような可能性はあるのでしょうか、どのように対処したらよろしいのでしょうか? 

長々となりましたが、何とかなおしてやり、人並みとは言わなくても、生きていていいこともあるなと一度でも思えるようにしてやりたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。 


林: 息子さんの診断は、まだ断定しきれない段階ですが、やはりもっとも考えられるのは今の主治医の先生のおっしゃるように、統合失調症(精神分裂病)だと思います。漠然とした被害感から始まり、客観的には理由が理解し難い興奮や攻撃性が出てきたという経過は、17歳という年齢とあわせて考えると、統合失調症を第一に考えなければならないといえます。

1. 先生のサイトの精神科Q&Aの【0900】【0866】に、ある種の抗うつ薬は攻撃性が助長される事があると書かれているのをお読みしました。息子は非常に気の弱い、人見知りの激しい子で、今まで暴力、暴言などは振るった事はなく、このような急激な攻撃性に驚いています。最初に処方されたルボックスの影響はないのでしょうか?

1週間ほど入院していったんは落ち着き、退院後から異常に興奮してきたという経過で、このときルボックスを飲んでいたことから、副作用を心配されているのだと思いますが、ルボックスがいつから処方されていたのか、他の薬は同時に処方されていなかったのか、いたとすれば何の薬がどの程度の量か、これらの情報がなければ、判断することは不可能です。また、これらの情報があったとしても、ルボックスの影響かどうかの判断はなかなか難しいです。統合失調症の自然経過として、このような異常な興奮が現れることは十分あり得るからです。それは、発症前には、非常に気の弱い、人見知りの激しい子で、今まで暴力、暴言などは振るった事はなく という性格であったこととは無関係です。

2. 閉鎖病棟に入院することで、捨てられたと思い、却って親をうらみ、兄弟を恨み、精神的にもっとひどくなる事はないのでしょうか 

それはもちろん否定は出来ません。そういう場合もありますし、そうはならない場合もあります。けれども、この【1066】のような経過ですと、閉鎖病棟に入院する以外に方法はないでしょう。ですからこの2.のようなことは余計な心配であって、現実的にこれからどのようにするのが最善かを考えていくべきです。

3. このような攻撃的な発作状態がある子供が、入院時の投薬治療で症状が落ち着いたとしても、退院後、何かのきっかけで、それが発症し、大事に至ったらどうしようと思ってしまいます。そのような可能性はあるのでしょうか、どのように対処したらよろしいのでしょうか?

そのような可能性はあります。もっとも多い原因は、薬の中断です。ですから薬をきちんと続けることがもっとも大切です。しかしそれでも統合失調症の再発をゼロにすることは出来ません。再発の徴候に十分注意し(【0534】【1055】などがご参考になると思います)、徴候が見られたら早めに主治医に相談し対処することが第一です。

何とかなおしてやり、人並みとは言わなくても、生きていていいこともあるなと一度でも思えるようにしてやりたいと思っています。

統合失調症の経過は様々であり、発症の時点で悲観的な見通しを立てるのは不合理なことです。あなたのお考えになる「人並み」とはどの程度か不明ですが、一般的な意味では「人並み」以上の幸福な人生を送ることも十分期待できます。上記の1,2,3のご質問をはじめとして、あなたは全体に悲観的にすぎると思います。もちろん逆に楽観的になりすぎるのも禁物ですが、現実を見据えて、息子さんのために最善の道を選んでいくよう努めるべきだと思います。


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