● アルコール依存症は「否認の病気」です。
アルコール依存症の人が、自分はアルコール依存症とすぐに認めることはまずありません。「自分にはアルコールの問題はない。あったとしても自分の力でコントロールできる。」と考えるのがふつうです。
ということを聞くと、たいていの人は納得します。ところが、自分がアルコール依存症であるなどとは考えの外にあり、アルコール依存症は自分とはまったく違った人種であるという意識を持つことがほとんどです。それが「否認の病気」と言われるゆえんです。
ちゃんと仕事をしているからアルコール依存症ではない、肝臓の検査結果が悪くないからアルコール依存症ではない、などと考えるのは誤りです。飲酒をコントロールできなくなるのがアルコール依存症です。「コントロールしようと思えばできる」と考えるのはやはり「否認の病気」の徴候です。
仮にアルコールの問題を認めたとしても、「自分の問題はアルコールだけだ」と考えるのを「第二の否認」といいます。
「否認の病気」にかかるのはアルコール依存症本人だけではありません。家族や同僚が、「あの人は酒飲みだがまさかアルコール依存症というほどではない」と考えるのも否認です。
こうした否認を乗り越え、アルコールに関する事実を直視することが必要です。
● アルコールはドラッグです。
ドラッグなしではいられない気持ちになることを精神依存、からだがドラッグなしではいられなくなることを身体依存といいます。ドラッグの量がどんどん増えていくことを耐性形成といいます。下の表のように、アルコールはこうした作用が強く、立派なドラッグです。アルコール依存症がお酒をやめられないのは意志の問題ではありません。ドラッグによる脳の障害の一種です。逆に言えば、意志が強いからといって自分のアルコールをコントロールできるとは限らないのです。
高度 中等度 あり なし 不明
精神依存 身体依存 耐性形成 ヘロイン アルコール コカイン 覚醒剤 マリファナ カート LSD-25 (WHOの発表をもとに作成)
● アルコールにからんだ事故で死ぬ人はたくさんいます。
アルコールにからんだ事故というと、まず頭に浮かぶのは飲酒運転だと思います。飲酒運転はもちろん大問題ですが、歩行中に車にはねられる人にも酔っ払った人が多いことは見逃されがちです。駅のホームを酔って歩いている人はよく見かけますが、ちょっと外側によろけて電車に接触すればまず死亡するのは目に見えています。
酔って階段を踏み外した経験のある人はかなりいることでしょう。まさかそれで命を落とすとは思えないでしょうが、実際には東京都内で一年間に100人以上の人が酔って階段から転落して死亡しています。
飲んだら水に近づいてはいけません。一杯やって泳ぐのは自殺行為です。飲んで自宅の風呂で溺死するお年寄りもたくさんいます。
このような事故は、お酒を飲む人には誰にでも起こりうることです。アルコールの害は、アルコール依存症だけの問題ではなく、すべての人にかかわるのです。
● アルコールは発癌物質です。
タバコとがんの関係は常識ですが、アルコールも発癌物質だということをご存知でしょうか。食道がん、口腔がん (舌や口の中のがん)、大腸がんなどは特にアルコールとの関連が強いがんです。飲みながらタバコを吸えば、危険率はとても高くなります。
健康に気をつけるのなら、がんを恐れるのなら、まず飲み方を考えるべきです。
● アルコールは脳を萎縮させ、痴呆の原因になります。
正常 アルコール依存症
これはCTスキャン (コンピューター断層写真) による脳の写真です。(写真をクリックすれば大きな画像が見られます)左が正常、右がアルコール依存症です。黒っぽい部分は脳室といって、水が入っています。アルコール依存症では細胞が落ちることによって脳が萎縮し、脳室が大きくなり、脳の周囲の脳溝という溝も大きくなっています。脳が萎縮すれば知能は低下し、痴呆になります。たくさん飲めば、たとえ若くても萎縮が進み、痴呆になります。
● 退職後アルコール依存症になる人が増えています。
毎日しっかり仕事をし、毎晩しっかり飲む・・・これがひと昔前の「できる」サラリーマンの像だったかもしれません。こうした人たちがやがて停年を迎え、それまで生き甲斐であった仕事がなくなった途端にアルコール依存症になる人が増えています。というより、それまでも実はアルコール依存症になっていても、仕事が歯止めになって飲む時間が制限されていた、または多少飲んでも大目にみられていたというのが本当のところのようです。
退職後のアルコール問題はさらに大目に見られることも多いのですが、今度は歯止めがまったくなくなりアルコール依存症は急速に進行します。これからの長寿の時代では、退職はまだ人生の折り返し点です。せっかく自分のために使える時間をアルコールで台無しにしては悲惨です。アルコールは脳を萎縮させ、ボケを促進することは確実に証明されています。「酒は百薬の長」というのは、人生が50年以下だったころの古いことわざと思った方がいいでしょう。
● 子どもの飲酒が増えています。
子どもの飲酒が増えている、と聞いても、自分も子どもの時から飲んでいたとか、子どもが大人の真似をしたがるのは成長の原動力であって当然と思う人が多いのではないでしょうか。
ところが、いまの子どもの飲酒の現状は昔とは全然違います。高校生では男女ともに4割以上がお酒を飲んでいる、と聞いてもやはり大部分の人は驚かないでしょうが、問題のひとつは飲むことの理由です。下のグラフのように、高校生がお酒を飲むのは大人の真似をしたいからという理由はむしろまれで、おいしいと思うから、という理由が半分を占めています。これは明らかにちょっと試しに飲むという範囲を越えています。悲しかったり、さびしかったり、つらかったりした時に飲む、という理由は、お酒をドラッグとして使っているということで、すでに依存症のはじまりであるとも言えます。事実、飲酒をきっかけに次の段階として覚醒剤などに手を出してしまう高校生が多いこともわかっています。
高校生の飲酒理由
● アルコールは全身をむしばみます。
あなたは入院したことがありますか。あったとしたら原因は何でしょうか。アルコール、と答える人は少ないでしょう。
ところが、ある調査によると、日本の全入院患者の2割近くは、アルコールが原因か、またはアルコールで症状が悪化した人だということがわかっています。病室が6人部屋なら、その中のひとりはアルコールが関係しているということです。
からだに入ったアルコールのほとんどは肝臓で分解されるため、飲みすぎの影響がもっとも出やすいのは肝臓です。
一番上の写真は正常の肝臓です。アルコールの害はまず脂肪肝という形であらわれます。真ん中の写真が脂肪肝です。左の写真と比べると、肝臓のまわりに黄色い脂肪がおびただしく付いているのがわかります。
さらに飲み続けると下の写真の肝硬変になります。肝臓のまわりに硬い結節がたくさんできています。この段階では肝臓の機能は大きく落ち込み、黄疸や腹水などの症状が出てきます。
上 正常の肝臓
中 脂肪肝
左 肝硬変
(写真をクリックすると大きい画像を見ることができます)
肝臓はとても大切な、大きい臓器です。このため、少しくらいの障害ではなかなか自覚症状が出ないのが特徴です。健康診断で肝障害だと言われたら、たとえ症状が全然なくても油断してはいけません。
アルコールにやられるのは肝臓だけではありません。むしろ、アルコールにやられない臓器はないと言っても過言ではありません。がん、糖尿病、膵炎、胃炎、潰瘍、末梢神経障害など、アルコール病はいくらでもあります。高血圧もお酒をやめるだけで直ることはよくあります。
● アルコールによる国民全体の損害は莫大です。
日本で一年間にアルコールに関係した病気のために支払われている医療費は1兆円以上にのぼり、これは国民総医療費の約7%に相当します。
アルコールに対して社会が払っているカネは医療費だけではありません。事故、犯罪、生産性の低下など、すべてを合計すると6兆6千億円になると計算されています。酒税の総額は約2兆円ですから、国としてはその3倍以上を使って後始末をしていることになります。
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