精神科Q&A
【2283】統合失調症の診断が偽陽性だった場合の投薬の害は?
Q: 高一の娘に、自分が醜くて通りすがりの男性に笑われたり悪口を言われている気がする、人が怖くて外を歩けない、自分が醜いから恥ずかしくて外に出られない、不登校、女性専用のジムや女性が多い美容院などにはかろうじて行ける、などの症状が出てきています。【2000】から【2078】を熟読させていただいた結果、どうも娘は、そこに書かれていた、「被害妄想的な過敏さがある、前駆症状」のような気がします。実際病院でもそのようなことを言われました。前駆的=疑いがあった場合でもその中の半分近くは統合失調症にならない(偽陽性)、ということを【2000】から【2078】を読んで知りました。偽陽性だった場合、娘のように、「疑いがあるから」「似た症状があるから」とエビリファイ(副作用と思われる症状が出て中止)や今回始めたロナセンなどを飲むことは害になってしまうのではないでしょうか? 脳が統合失調症ではなかった場合、それなのに薬を飲み続けるのが怖いです。娘は、本当に軽いように思えますので、その害を考えても薬はいらないのではないかと思うのですが、病院では、カウンセリングと投薬を平行した方が早く治ると言われ、薬をかなり強くすすめられてしまいます。先生は、どうお考えでしょうか?
林: 高一の娘さんに抗精神病薬を飲ませることについて、親である質問者がこのように不安をお持ちになるのはごく自然なことです。
子どもに投薬をすることをめぐる問題点(功罪)については、まずは【0496】をお読みください。
【0496】の記述は子どもへの投薬についての広い一般論ですが、この【2283】では、「統合失調症の前駆状態かもしれない子どもに抗精神病薬を投薬することについて」という、より個別的な議論が必要になります。
前駆症状とみられても、それが偽陽性である率が相当あることは、質問者がお読みになった【2000】から【2078】に記されている通りです。
しかし、「偽陽性の率」というのもまた統合失調症についての一般論にすぎず、この【2283】という特定のケースではどうかということを考える必要があります。
その場合、主治医の先生が服薬を強く勧めていることを重視すべきでしょう。すなわち、直接このケースを診た精神科医が、統合失調症の前駆症状の可能性が高いと考え、偽陽性のリスクを考えてもなお、薬を飲むことのメリットのほうが大きいと判断されているということです。
娘は、本当に軽いように思えますので、
それは質問者の願望にすぎないと思います。なぜ質問者に、重いか軽いかがわかるのでしょうか。一見したところ激しい症状がないからでしょうか。しかし、統合失調症では、急激に発症するよりも、徐々に発症したほうがその後の経過が悪いという確固たるデータがあります。統合失調症が本当に発症したのか、それとも発症していないのか、よくわからないままに長く経過するほうが、予後としては悪いのです。
したがって、質問者からみて「本当に軽いように思える」ことは、薬を飲まなくていいという判断の根拠にはなり得ません。
(2012.8.5.)