精神科Q&A
【2132】隣家の統合失調症の人に精神科の治療を受けてもらいたい(【1975】のその後)
Q: 20代女性です。【1975】「見張るな」と言ってくる隣家の女性 でご質問をさせていただき、林先生にはお忙しい中、ご回答をいただきまして本当にありがとうございました。ずっと不可解に思っていた隣家の女性の行動について、「統合失調症」という答えを先生よりいただき納得がいった次第です。この家に住み続けるには、隣家のA夫婦に精神科を受診してもらう以外に方法はない、とのご回答をいただきましが、このことに関して再度ご質問させていただきたく思います。直接病気に関わることではないため、本来ならこのサイトの主旨に反しているかもしれないため、大変申し訳ないのですが、他に頼れるところがありません。どうかお願いいたします。 保健所と警察と市役所の健康科に相談しましたが、「身内の人間が治療を受けさせたい、と考えている以外は当人に精神科の治療を受けさせることはできないし、刃物を振り回したり自分を傷つけたりなどの自傷他害行為がないと強制的に治療を受けさせることは不可能」と言われました。また、保健所では「そういう性格の人かもしれない」とも言われました。地区の民生委員には、「明らかにA夫妻は病気だから、しばらく離れるために実家に帰ったらどうですか?」と言われました。 今回の件では夫婦ともに話をしてもらちが明かないことは確かであるため、今回の件を相談できる「身内の人間」というものが存在しないのです。ちなみに、私たち夫婦は、統合失調症であるのはA夫婦のうちの妻のほうだと考えています。なぜなら、苦情は夫婦二人もしくは妻一人で言いに来るためです。夫一人で苦情を言いに来ることはありません。しかし夫のほうは、すぐに激高しやすいタイプで、巻き舌口調になったりして論理的な話は一切通用しないため、夫のほうを病気でないと仮定して(先生のご回答の(1)もしくは(2))妻のことを相談できる環境ではありません。 また前回は省きましたが、ご近所の方にお聞きしたところ、A妻が「○○さん(私の家)に見張られているから、彼らが外出する時には雨戸を閉めている」と言っているそうです。そして、A妻はその行為を中学生の子供にもさせているとのことです。 ご近所の方たちも、A夫妻が変わっていることは気づいているのですが、私たちのように直接的に何かを言われたりはしていないため、関わりたくない、と思っているようです。 引っ越しも経済的な事情でままならず、本当にどうしていいのか分かりません。思い当たる公的な機関(保健所、警察、市役所、精神保健福祉センター、地区の民生委員)に相談しましたが、すべて上記のような理由で解決方法すら得られませんでした。 どうすれば、A夫妻に精神科の治療を受けてもらうことができるのでしょうか。お忙しい中、大変恐縮ですがこのような場合どうすればよいのか、ご教授いただけないでしょうか。
林: 詳細なご報告をありがとうございました。たくさんの読者の方々にとって、貴重な実例の情報であることは間違いありません。
その感謝の気持ちとは別に、ここでは事実を回答いたします。
どうすれば、A夫妻に精神科の治療を受けてもらうことができるのでしょうか。
方法はありません。
思い当たる公的な機関(保健所、警察、市役所、精神保健福祉センター、地区の民生委員)に相談しました
質問者のこれら行動は適切です。
すべて上記のような理由で解決方法すら得られませんでした。
彼らの対応・説明も、おおむね適切です。
大変困窮しておられる当事者からみれば、何の解決にもなっていないわけですから、「適切」と言われると憤慨される気持ちも生まれるかと思われますが、公的であれ私的であれ、いかなる機関も法律の範囲を逸脱して行動することはできませんから、「適切」と言わざるを得ません。
病気の人に対しても、強行的な処置を取らざるを得ない場合も存在します。端的にいえば自傷他害のおそれが強い場合です。このとき、「おそれ」とはきわめて曖昧な概念です。拡大解釈も過少解釈も大きな問題を生みます。どのレベルの解釈も、すべての人の賛同を得ることはできません。「社会常識にあわせる」というのが、これまた曖昧ですが、現実的な運営ということになります。この観点からみて、強行的な処置が適切なケースとしてはたとえば【1812】などを挙げることができます。【2132】(【1975】)は、そこまでは至っていないといえるでしょう。(但し、いま言ったように、これらの判断もすべての人の賛同を得ることはできませんが)
したがって、この【2132】に対する回答は、「もはや方法はない」ということになります。
しかし、これは病気であり、今の事態に至ったのは、適切な治療がなされていなかったからです。そして、適切な治療がなされていなかったのは、統合失調症という病気があまりに知られていないという理由が非常に大きいといえます。ですから、一人でも多くの人に、統合失調症という病気の実像を知っていただくことが、この【2132】のような事態がこれ以上増えないための唯一ともいえる解決策といえます。
同様のケースは統合失調症のQ&A、特に【1805】から【1870】をご参照ください。
もうひとつ付け加えます。
社会が【1900】の報道機関のような姿勢を取り続ける限り、こうしたケースは決して減らないでしょう。
(2011.10.5.)