精神科Q&A
【1890】16歳の息子は本当に統合失調症か、どの医師にかかるべきか、薬はどうしたらいいか
Q: 16歳、高校2年の息子について、ご意見をお聞きしたいと思います。現在、A精神科に通院中。3カ月前から通い始めたので、まだ薬は模索中で、現在セレネース 0.75mg x 2回デパス 0.5mgx2 x 3回(症状がよければ飲まなくてもよい)ハルシオン 0.25mg (寝る前)サイレース 1mg (寝る前)を一日分として処方されています。 質問は、
1)今のところドクターの問診のみで、おそらく統合失調症ではないかと言われましたが、統合失調症であると判断できる基準は何かあるのか。
2)脳が成長している16歳の子どもに対して、上記の処方通りに服用しても、問題ないか。
です。 林先生の本を読み、「副作用のマイナスよりも主作用によるプラスが大きいのであれば服用する」ということも頭では理解しております。 下記に書きましたが、中学からずっと頭痛は訴えており、また中2の時に死のうとしたこともあるので、健康な人とは違うと言われればそうだとそうなのですが、性格的なものもあるような気もしますし、現在は頭痛さえなければ、表面に出る症状はなさそうなのですが。陰性症状なのでしょうか。わが子が脳の病気になるとは、とても悲しくて仕方ありません。
病気の経過は・小学4年の時、腹痛で1ヶ月くらい不登校になる。・その後は腹痛はあるものの学校には通う。・中学受験(本人の意志ではない)し、数校不合格となり、合格した中高一貫男子校へ進学。・中学入学から頭痛を訴えるようになる。・大学病院の小児科で1週間検査入院して、脳波やMRI検査、血液検査などをしたが異常は見つからず。・中学2年の5月、夜中、たばこを水に溶かして飲み、死のうとした。・中学2年の時は頭痛を理由に3分の1くらい欠席する。・その後は欠席は多いものの、通学する。・高校2年になってから、欠席は今のところ10日くらい。・6月に極度の頭痛におそわれた(中2の時の自殺しようとした時と同じくらいの痛みだったが、あの時より自分の気持ちが強くなったので自殺まではしなかった(本人曰く)。
中2の自殺未遂の時、医療保護入院となってしまったが、”自分の子どもは精神病なんかではない””病院にずっと入れていたら本当に精神病になってしまう”と私が強く思い、田舎で療養させると病院に嘘をついて、強引に退院させてもらいました(結局3日間入院)。 その後すぐ、思春期外来をたずね、そこで脳波およびMRI検査を行い、てんかんに近い脳波に多少異常があると言われ、通院時に伝える症状に合わせて薬を追加・変更して、最終的には一日にデパケンR 300mgセルシン6mgベンザリン5mgマイスタン5mgを中心に、不眠時にはマイスリー5mg頭痛時にはセルシン5mg、ロキソニン60mgを処方されていました。
しかし2年くらい経過しても、相変わらず頭痛は改善されず、一方、2ヶ月前には極度の頭痛に見舞われましたので、これはなんとかしなければと思い、頭痛外来専門の脳神経科をたずねてみました。 そこでは症状から言って偏頭痛であろうとの診断でイミグランを処方されましたが効かず、緊張型頭痛のテルネリン、ロキソンも処方されましたがこれも効きませんでした。脳波、CT、MRI検査を行い異常がないことを明らかにした後、メンタル面での治療を試してみたらどうかとドクターからアドバイスされました。
そして結局、現在に至っています。精神科に通院中です。妄想や暴れる、ふさぎ込むというあきらかな症状はないです。性格はどちらかと言うと内気でまじめ、負けず嫌い、プライドが高いという感じです。 実はセカンドオピニオンのつもりでB精神科をたずねたのですが、そこでは、まずソラナックスを試し、頭痛が改善されないので、次にワイパックを処方されました。こちらのお薬はまだ服用してはいないのですが、患者本人である息子が、A精神科の先生の方が話しやすいということなので、そちらに絞るつもりです。ドクターの判断で症状改善のアプローチの仕方が違うのであれば、親としたらなるべく最良の対処をして下さるドクターを見つけ出したいと思っています。それに関してはどう思われますか。
林: 質問者が、息子さんが統合失調症であってほしくないという強い願望を持っておられることは明らかです。したがってメールの内容にはかなりのバイアスがかかっていると推定できます。それはともかくとして、メールの記述中、客観的な事実と思われる部分と、医師から統合失調症という言葉が出ていることをあわせ、息子さんが統合失調症である可能性はかなり高いと思います。
統合失調症の発症初期は、幻覚や妄想がはっきりしないことも多く、「統合失調症ではない」と判断しようと思えばできる理由はいくらでも挙げられるものです。たとえば
性格的なものもあるような気もしますし、現在は頭痛さえなければ、表面に出る症状はなさそうなのですが。
このように、性格的なものと判断しようと思えばそのように判断でき、頭痛の原因はいくらでも考えられますので、
わが子が脳の病気になるとは、とても悲しくて仕方ありません。
という気持ちの質問者が、統合失調症を何としてでも否定したいという気持ちは理解できるところです。しかし、現実から目をそむけて適切な対応をしなければ、その先にはさらによくない事態が待っています。
1)今のところドクターの問診のみで、おそらく統合失調症ではないかと言われましたが、統合失調症であると判断できる基準は何かあるのか。
これは質問というより、「統合失調症という診断は常に曖昧なものであり、信用できない」という意図を反映している文章であることは明らかです。
それはともかく質問にお答えしますと、
統合失調症には診断基準があります。
ただし、精神科の診断基準はすべてそうですが、基準の中には診断する医師の主観が含まれています。厳密に客観的な所見だけからは、精神科の診断は不可能です。(診断基準を表面的に読めば客観性があるように見えますが、実際の適用においては、主観が入り込むことは避けられません)
また、統合失調症の初期においては、診断基準はあてはまらないことが大部分です。
今のところドクターの問診のみで、おそらく統合失調症ではないかと言われました
とのことですが、統合失調症の診断においては、十分な経験ある精神科医による問診が最も有効な手段です。【1890】のような、統合失調症の初期と思われる段階においては、特にそのように言うことができます。
(なお、統合失調症の初期の診断基準の試案は存在します。それは、DSM-Xには収載されるかもしれません。しかし現時点での林の私見としては、統合失調症の初期を診断基準化することには無理があると考えています)
2)脳が成長している16歳の子どもに対して、上記の処方通りに服用しても、問題ないか。
です。 林先生の本を読み、副作用より作用による効果を期待するのであれば服用するということも頭では理解しております。
そのご理解の通りです。成長過程にある子どもが薬を飲むことをめぐる問題については、【0496】、【0567】などをご参照ください。
ドクターの判断で症状改善のアプローチの仕方が違うのであれば、親としたらなるべく最良の対処をして下さるドクターを見つけ出したいと思っています。それに関してはどう思われますか。
これも質問ではないと思います。答えは自明だからです。すなわち、「親としたらなるべく最良の対処をして下さるドクターを見つけ出したい」のは当然であり、否定されるはずがありません。むしろここでお伝えしたいのは、「最良の対処」とは、文字通り「最良の対処」であって、「父親であるあなたにとって最良の対処」ではないということです。もっとはっきり言えば、「息子が統合失調症であると認めなくない父親にとって最良の対処」ではないということです。メールの文面から見て、ある程度までは自覚されていると思いますが、この【1890】の質問者は、息子さんを統合失調症であると診断した医師は信用せず、統合失調症でないと診断した医師を信用する傾向が強いと思われます。そのようにして事実から目をそむけることは息子さんのためになりません。
脳波、CT、MRI検査を行い異常がないことを明らかにした後、メンタル面での治療を試してみたらどうかとドクターからアドバイスされました。
息子さんが精神病であることを、父親である質問者に与えるショックをできる限り和らげる形で伝えようと、このドクターは配慮してくださっているのだと思います。
おそらくこの【1890】の質問者には、直接お会いした医師から見れば、息子さんを統合失調症と診断してほしくないという雰囲気が全身から漂っていると思います。すると医師は、たとえ統合失調症の診断が確実だと判断していても、質問者への説明は、ショックを和らげようとして曖昧なものになりがちです。
わが子が統合失調症であることを、何が何でも認めない親はよくいらっしゃいます。その場合、お子様の病気の経過は希望の持てないものになります。
この【1890】の質問者は、お子様の統合失調症を認めなくないという気持ちを持っておられることは明らかですが、こうして質問してこられることから見ても、「何が何でも認めない」という姿勢ではないのだと思います。願望と事実を区別してください。事実を直視し、息子さんにとって最善の治療を受けられる事を望みます。
(2010.12.5.)