精神科Q&A
【1793】うつ病の夫、病気に理解のない職場を休職させるべきでしょうか、また、職場で話せない本人に代わり家族が職場に話してもいいのでしょうか。
Q: 昨年結婚した夫(33歳)のことです。家族は妻の私(31歳)のみ、共働きで子供はいま
せん。
今年1月に仕事内容が変わった夫は、新しい仕事と上司のストレスから段々とうつの症状をみせはじめ、7月に心療内科でうつ病と診断を受け、休職せずに仕事を続けながら投薬治療をうけています。
主治医の先生は、患者である夫が休職を希望するなら休職を、希望しないなら休職しない、というスタンスで、また患者本人は「会社には行きたくない、辞めたい」と繰り返すものの、「やっぱりがんばらなきゃ」と、会社に通い続け、休職したいとは言っていません。
しかしながら、妻の私からみると、本人が一日も有給休暇をとることなく毎日会社に行くことが本当に辛そうであり、会社に通うかぎり疲れがとれそうにないため、休職したほうがいいのではないかと思われます。
そもそも、うつ病の夫には、「休職」という大きなことを決断する力も今はないでしょう。
そして上司に恵まれない夫にとって、上司に職場での病気への配慮を求めるのも難しいことです。
私には、今夫が休職したいと言っていないのは、休職したくないからではなくて、休職を会社に言い出せないからだと思えるのです。
このような場合に
1)このまま様子をみながら休職させずにいてもいいのでしょうか
(本人はどこかで休職して家にいるのは男として最低のように思っている節があ
ります)
2)休職させたほうがいいのでは、と主治医の先生に言ってもいいのでしょうか
(以前色々意見したら先生に嫌がられたことがあり、今は何も言っていません)
3)休職したほうがいい場合、本人でなく妻が会社との窓口になってもいいのでしょうか
(本人を追い詰めるよくないことなのでしょうか。・・・たとえば、自分で休職のことすら職場で話せず妻の力を借りてしまった、というような罪悪感を持たせてしまう等)
4)もしくは、主治医の先生から何か会社へ言ってもらう事はできないのでしょうか。
以上が私の質問です。
どうぞよろしくお願いいたします。
また以下に《経過・詳細》《職場環境》《夫の現状》を記しました。
何か上記で情報が足りませんでしたら、こちらもご一読いただけたら幸いです。
《経過・詳細》
夫について
X年12月以前・・・中規模企業の経理部に勤める。
もともと会社人間ではない。会社での付き合い苦手。飲み会も残業も最低限。その為かプライドが高く人に頼れない。
X+1年1月・・・・・・・・部内で長年してきた仕事から新しい仕事に担当替え
嫌な上司の直属部下となってしまう
・新しい仕事が覚えられない、分からない
・教わる相手にきちんと教えてもらえない
・予定がくめない、何をやっているか分からない
・上司が嫌だ
などと訴えるようになる。
毎日遅くまで残業し、土日のどちらかも4月までは出るようになる。
このころ、知り合い経由でもらったデパスを毎日のように服用していたと後で知りました。
(以前から緊張する時など服用していたと聞いており、医者の処方でもらったものではないから辞めてほしいと再三私は伝えておりました)
6月・・・・・・・・「会社に行きたくない」と出勤前におびえるごとくに震えるようになる。
言動にもうつ病の特徴が出る。
会社で誰とも話していない、と聞く。
残業しているのに、上司との関わりが億劫で
この頃から残業をつけなくなる。
6月はデパス服用をやめていたそうです。
7月・・・・・・・・心療内科をすすめ受診、即「典型的なうつ病」と診断される。
薬:朝・夕トリプタノールとドグマチール
9月・・・・・・・・本人「よくなってきたようだし、ひどい眠気で困る」
と薬を減らしてもらう
薬:朝のみトリプタノールとドグマチール
10月・・・・・・・・症状が悪化したため(銀行接待が続いた)、薬を戻し増やす。
薬:朝・夕ドグマチール、朝トリプタノール、
夕方アモキサン
〜12月・・・・仕事を続けながら薬で治療。しかしよくならず(株主総会等あり)
通院は、今は2週間に一度。
薬: ドグマチール50mgを朝・夕
トリプタノール10を朝
アモキサンカプセル50mgを夕
《職場環境》
1)上司たち
夫と関わりのある上司は3人(今の上司である部長と課長&以前の上司である課長)
います。
部長 ********* 60歳を超えたワンマン役員兼部長。
夫は、病気になる前は月に1回は夜遅くまで飲みに連れて行かれていました。
他の同僚達は捕まらないように(夫が言うには)くもの子を散らすように逃げていくような存在で、夫だけが下手でいつも捕まってしまっていたようでした。
その席ではいつも自慢話か説教・嫌味だったそうです。
今は病気のために誘われずにすむようになっているようですが、夫は、会社で部長の近くの席にいることも苦痛のようです。
この部長は人事・総務のトップも兼ねており、病気のことも、会社に話す=彼と話す、ということになるため、直接話すことができないようです。会社での生活全て嫌なことは解決しません。
課長 *********50歳前後?自分の仕事で精一杯とのことで存在感がありません。
以前の課長 ***50歳前後? 夫は「心療内科に通って薬をもらっている」と彼には直
接言えました。
彼から、他の2人の上司たちにも連絡がまわったようです。
2)職場
上記の、すぐ怒るワンマン部長の顔色を皆がうかがうような状況で、古い体質の職場
と思われます。
また夫には特に親しくしている社内の友人はおらずあまり会話もないようです。
以前は挨拶も交わさないと言っていたので驚きました。
夫は、無理に聞かないと会社のことは話さないので最近は聞いていません。
特に人の話は全くといっていいくらいでてきません。
《夫の現状》
1)夫が仕事のことで口にする言葉
(月末近くになると)不渡りを出したら会社が潰れてしまう、
どこの銀行から借りていいのか分からない。誰にも聞けない
(銀行の接待がせまれば)部長の満足のいくような接待ができるか怖い、
手土産選びから、酒の注ぎ方もなっていないと怒鳴られるのが嫌だ、
(株主総会があれば)失敗しないか不安、
2)夫が会社に行くことについて口にする言葉
「会社に行きたくない」
「会社を辞めたい」
「ずっと家にいたい」
「会社へ行くと思うと食べられない」
3)夫がそういった会社へ行きたくない自分を鼓舞するように言う言葉
「がんばらなきゃ」(口の中で呪文のように何回も繰り返したりします)
「○○(私の名)をずっと働かせるわけにはいかない」
「○○のご両親に申し訳がない」
「今会社を辞めたら住むところがなくなる」
(会社の借上げ社宅のため・・・しかし大家さんに個人契約にしてもらうなど、私はどうにでもなると思っていますし本人にも言っています)
結局、今年に入って一日も有給休暇をとることもなく(夫は「休みをとる」と言うことすら職場ではできないようです。)毎日つらそうに会社に通っています。
こういう状況でも薬を飲み続けていくうちにゆっくりよくなるのでしょうか。
休職したほうがいいのでしょうか。
林: まず、この方がうつ病かどうかが問題です。それによって適切な対応はかなり違ってきます。
経過、特に症状の始まり方を見てみますと、
X+1年1月・・・・・・・・部内で長年してきた仕事から新しい仕事に担当替え 嫌な上司の直属部下となってしまう
・新しい仕事が覚えられない、分からない
上記のように、はっきりした原因があって始まる場合は、うつ病ではなく、人間としての自然な反応であることを第一の可能性として考えるべきです。
但し、これは「原因」ではなく、「きっかけ」にすぎず、この「きっかけ」からうつ病が誘発されたという可能性もあります。(【1745】などもご参照ください)
そこでこの方のその後の症状に目を向けてみますと、ここに書かれた具体的な内容は、総合的に見て、うつ病 (真のうつ病) にかなり一致するものです。
したがって、メールから判断する限りでは、この方はうつ病の可能性が高いと思われます。そして今の症状は、仕事をしながら治療をしていくのは困難なレベルであり、ある期間は休養して治療に専念するのが最善といえます。(「休職」という言葉は、本来は「病気欠勤」とは異なることを意味しますが、一般には病気欠勤と同じ意味で使われることも多く、またこの【1793】の質問者もそのような意味で使っていると思われますので、この回答では以後「休職」で「病気欠勤」を意味することとします)
さて、そうしますと、主治医の先生の、
主治医の先生は、患者である夫が休職を希望するなら休職を、希望しないなら休職しない、というスタンスで、
このスタンスには大きな疑問があります。質問者も指摘しておられるように、
そもそも、うつ病の夫には、「休職」という大きなことを決断する力も今はないでしょう。
その通りだと思います。
うつ病が一定以上に悪化した場合、決断する能力は著しく損なわれますから、うつ病のご本人に「休職するか、しないか」という決断を迫るのは、うつ病患者の診療や接し方における初歩的な誤りです。このようなことをするのは、ただでさえ決断力が落ちているうつ病患者をさらに追い込むことになります。
そうしますと、この主治医のうつ病診療能力はかなり低いということになります。但し、この方がうつ病であるという私の判断は、メールの記載だけに基づくものであって、主治医の先生は直接の診察所見に基づいて、「うつ病ではない」と診断していて、そのため「休職は望ましくない」と判断しておられるのかもしれません。しかし精神科Q&Aでは、あくまでもメールの情報が事実であると仮定し、そこから読み取れる範囲で回答することを基本方針としていますので、以下、【1793】のケースはうつ病であるという前提のもとに、質問項目に回答します:
1)このまま様子をみながら休職させずにいてもいいのでしょうか
(本人はどこかで休職して家にいるのは男として最低のように思っている節があります)
よくないです。このままでは悪化の一途をたどると思われます。
しかしながら、妻の私からみると、本人が一日も有給休暇をとることなく毎日会社に行くことが本当に辛そうであり、会社に通うかぎり疲れがとれそうにないため、休職したほうがいいのではないかと思われます。
そのご判断に異論はありません。
私には、今夫が休職したいと言っていないのは、休職したくないからではなくて、休職を会社に言い出せないからだと思えるのです。
その通りだと思います。このようなことはうつ病の方にはよくあることで、だからこそ主治医は、ある程度は専制的にでも、休職を強く指示することが、うつ病の診療では必要になるのです。
2)休職させたほうがいいのでは、と主治医の先生に言ってもいいのでしょうか
(以前色々意見したら先生に嫌がられたことがあり、今は何も言っていません)
それは質問者と主治医の性格や関係にもよります。
しかし、今の状況では、多少の摩擦はあっても、最善の治療、すなわち休職を優先すべきでしょう。
3)休職したほうがいい場合、本人でなく妻が会社との窓口になってもいいのでしょうか
(本人を追い詰めるよくないことなのでしょうか。・・・たとえば、自分で休職のことすら職場で話せず妻の力を借りてしまった、というような罪悪感を持たせてしまう等)
ご家族が窓口になることも、うつ病の治療の一時期にはあり得ることです。
但し、ご指摘のような罪悪感を持たせるおそれがないとは言えません。また、
そして上司に恵まれない夫にとって、上司に職場での病気への配慮を求めるのも難しいことです。
このような職場ですと、本人ではなくご家族が窓口になることが悪印象を与えることもあり得るでしょう。
というように、ご家族が窓口になることにはデメリットもあります。それを考慮したうえで、どうするかお決めください。
4)もしくは、主治医の先生から何か会社へ言ってもらう事はできないのでしょうか。
休職を要するという診断書を主治医が書き、それをご本人またはご家族が会社に提出するのがごく普通のやり方です。