精神科Q&A

【1590】うつ病の再発を繰り返し、十年になります。薬の中止を考えたほうがいいのでしょうか(【0985】のその後)


Q【0985】抗うつ薬の減らし方(【0720】のその後) では丁寧にお答えいただき本当にありがとうございました。【1511】の方の相談を読ませていただき、主人と同じだと思いました。主人も発病から十年が経ちました。そしてまだうつを繰り返しています。
 【0985】のあと、薬はアモキサンとパキシルを一錠ずつ減らしただけで、ずっと同じ量を飲み続けています。その年(X年)年は皆勤できました。 X+1年は夏に15日間欠勤しました。その時に薬は元の量に戻りました。 X+2年は春に30日間欠勤、その後また欠勤し、それが2ヶ月に及んでいます。薬もそんなに減らしたわけでもないし、本人の状態も私が見ている限りそんなに悪くなかったのにどうしてこうなったのでしょうか。
 ただ今回の きっかけは長女の言葉だったと思います。「私は今まで親の愛情を感じたことはなかった。父親はいつも寝ているばかりで(自分が)家にいてもつまらなかった。」と言ったのです。 私も非常にショックでした。確かに長女は小さいころから感受性が強く、主人の病気が悪い影響を与えなければよいがと心配していました。一度中学のときに一ヶ月ほど不登校になりましたが、立ち直り、今は志望した大学に楽しそうに通っています。
 この長女の言葉を聞いた翌日からぱったりと会社に行かなくなりました。尋ねると「もう働く気持ちが湧いてこない。何も考えられない」というばかりです。主人の日常は、会社に行くのには間に合わない時間ですが、6時には起きて高校生の次女を学校まで車で送ります。往復40分くらいかかります。帰ってきてからは、ほとんど居間で横になっていびきをかいて寝ています。ただ、私が買い物に行こうと誘うと一緒に行きます。またこの間は映画にも行き、居眠りもせず観ていて面白かったねなどと言います。夜には好きな焼酎を自分で作り2杯くらい飲みます。冗談も言います。鼻歌も時々歌います。 本当に会社にいけないのかなと思うくらい普通です。ただ、何もないとほとんど居間の長椅子で寝ています。 私が見る限り焦燥感はないように思えます。そして病気のことや会社の事など何を聞いても分らないというばかりです。 主治医には長女の話や最近主人の父が入院し余命が永くないことも話しましたが、何も反応がありませんでした。 病気に関係することではないかと思ってお話したのですが、がっかりしました。 やはり、ただ薬を飲み続けていればいいのでしょうか。 もっと違う治療法があるのではないかと思い病院を変えてみようかと思いますが、どんな病院に行けばいいのかもわかりません。 何か私たちが前に進めるヒントをいただけないしょうか。あいまいな質問ですみません。 
 
このあと主人の父が2月に亡くなりました。主人は姉がいますが一応長男ですので病気欠勤中ではありましたが、喪主を務めました。 会社にも伝えなくてはなりませんので知らせたところ、上司の方々がお焼香に来てくださいました。 お葬式も済ませた後やはり会社にご挨拶に伺うことになり、このことがきっかけで復帰することになりました。 1時間遅れの始まりで午前中のみというスケジュールではありますが、やはり帰ってくると疲れきった様子です。
 ここからがもう一つの疑問なのですが、というより前回のメールの答えを見つけたような気がするのですが。 先生は先日放送されたNHKのうつ病の番組をご覧になったでしょうか。 その中で薬を大量に服用したために本来のうつ病の症状ではない、副作用による無気力感がでてくることがある、というような内容があったのです。私はそれを見て主人の場合がそれに当てはまるのではないかと思ったのです。 番組の中では、医師がいったん薬をやめて何が本当の症状であるのかを見極めるということでした。本来なら薬はそんなに多くなくてよいのではないかというのです。 番組に出ていた方は医者を変えて薬を見直してうつがよくなり本当にお幸せそうでした。 もちろん主人がその方と同じであると考えてはいけないと思いますが、薬のことはとても気になりました。 先生は薬の見直しなどどう思われますか。 主人はとても手が震えます。主治医には言いましたが、あまり気にしなくてよいといわれました。コップを持つと中身がこぼれそうなくらいです。また、寝てばかりいるのも気になります。 このまま薬を飲み続ける状態、薬を飲んでも良くなっていくような気がしない状態をどうにかしたいのです。


林: うつ病が長引くと、このメールにも言及されている【1511】のように、色々な問題が出てくるものです。その中には、うつ病の症状なのか、それともうつ病が長引いたことによる社会的・心理的な問題から発生したものか、判断しにくいものもよくあります。あるいは、元々の性格が関係していると考えざるを得ないものもあります。
したがいまして、残念ながら、一定以上にうつ病が長引いた場合、特に治療法に問題があるケース以外は、メールの記載だけからは状態が把握しきれないのが常です。この【1590】もそれにあたると言えます。今回の悪化のきっかけに娘さんの言葉が関与しているのは確かのように見えます。しかしそれがうつ病の悪化なのかどうかまでは、残念ながら読み取れます。また、X年からX+2年にかけての悪化も、何らかの心理的・状況的因子が関係している可能性も小さくなさそうですが、その具体的因子も読み取れません。
そうしますと、事態を打開できるのは主治医の先生の治療以外にないと思います。しかしながら、

主治医には長女の話や最近主人の父が入院し余命が永くないことも話しましたが、何も反応がありませんでした。

もしこれが、主治医の先生が状況に無関心であるということを示しているとすれば、打開は難しいと考えざるを得ません。(ただし、「反応がなかった」ことが、無関心を示しているかどうかまではわかりません。あくまで「もし・・・無関心であることを示しているとすれば」という仮定でのことです)

 病気に関係することではないかと思ってお話したのですが、がっかりしました。 やはり、ただ薬を飲み続けていればいいのでしょうか。 

あなたのご見解の通り、これまでの経過と症状を見れば、病気に関係するかもしれないと考えるのが自然でしょう。ただ薬を飲んでいるだけでは、あまり変化は期待できないと思います。この段階では、薬だけでなく、精神療法的(心理的)なアプローチが必要で、もし今の主治医の先生がそれを全くしてくださらないのであれば(これも「もし」という仮定の話ですが)、病院をかえることも考えるべきでしょう。
 その結果、薬物療法を見直すということになるかもしません。ただし、薬の中断については、慎重な判断が必要です。抗うつ薬を中断した結果、症状が良くなる人がいることは間違いありませんが、その多くはもともと抗うつ薬を飲む必要がなかった人、すなわち、擬態うつ病の人です。

先生は先日放送されたNHKのうつ病の番組をご覧になったでしょうか。

私はテレビは見ません。

番組に出ていた方は医者を変えて薬を見直してうつがよくなり本当にお幸せそうでした。

「私は○○で本当に良くなりました」という類の話は、○○が何であれ、あくまで参考にとどめるべきです。また、メールの記述を見る限りでは、この番組は「薬を減らすことの良さ」がテーマのようですので、それを強く印象づける実体験を紹介するのは当然で、したがって「本当にお幸せそうでした」というこのショットは、コマーシャルと同列であると考えなければなりません。テレビにせよ何にせよ、情報はその提供者に何らかの意図があるのは当然ですから、もしテレビを見るのであれば、常にその意図を意識して見る必要があります。逆に、その意図を意識しないのであれば、一切見ないほうがよほどご自分のためになると思います。テレビの情報をそのまま信じる人に未来はありません。


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