精神科Q&A
【1404】境界性パーソナリティ障害の項目がいくつも当てはまる。小中学校時代の記憶がほとんどない。
Q: 私、とある会社で仕事をしている20代女子です。
自分の中で、心に病気がある人=正常な社会活動が出来ない人、という意識があったため、正常な社会活動が出来ている自分は大丈夫だと思い込んでいたのですが、先生のサイトのチェックリストでの該当が多いこと、またその他、気になることがいくつかありメールをお送りしようと思いました。
まず、チェックリストですが
下の項目のうち5つ以上当てはまれば境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)の可能性高しとありますが
◆ 見捨てられることを極端に恐れ、見捨てられまいとなりふりかまわずしがみつくような努力をする。
⇒どちらともいえない。友達でも恋人でも、基本的に「捨てられる」ということに敏感。
常に「捨てられる(嫌われる)のではないか」とびくびくしている。
このため、付き合う男性はみな下僕気質(こちらを崇拝するかのように愛してくれ、
我儘をなんでも聞いてくれるタイプ)ばかりである。
ただ、捨てられる(嫌われる)兆候を察知したら、さっさとそれを切り捨て、
あくまで自分が「捨てる」側ということにこだわる。
◆ 他人に対する評価が、最高と最低の間を極端に揺れ動く。理想的な人と思っていた人を、あるとき手のひらを返したように突然、最低の人間として軽蔑・攻撃するようなことが頻繁にある。
⇒YES。
付き合っていた人をある日突然嫌いになり、そうなった瞬間に顔も見たくない、同じ空気を吸うのも嫌だ、
というほどの嫌悪感を抱く。過去に社内不倫をしたときには、別れた瞬間に彼と同じ場所にいるのが
耐えられないほど嫌になり転職したほど。また、友人においても恋人においても、一度
嫌いになると、その人をなんとか蹴落としてやりたいと思うようになる
◆ アイデンティティの障害。すなわち、自分がどういう人間であり、どのように生きていきたいかが定まらない。
⇒YES
自分の気持ちが全く分からない。入社面接での「10年後のあなたについて話してください」という質問には
「どうなりたいか、どう生きていきたいか」考えると いくつも選択肢が思い浮かび、定まらないため、 答えることが出来なかった。
◆自殺をほのめかして他人を脅す。大量に薬をのんだり手首を切ったりするなどして自殺しようとする。自分を傷つける程度のこともある。これを繰り返す。
⇒NO。痛いのは嫌いです。ただ、髪の毛を抜く、かさぶたを剥がすなどの行為を繰り返す癖はあり。
◆衝動的・自己破壊的行為。たとえばドラッグの使用、無謀な運転、カネの浪費、過食、普通でない性行為。これらのうち2つ以上を行う。
⇒YES。欲しいものをばんばんカードで買う(カネの浪費)、満腹感があっても口に何か入れているのが好き(過食)。どれもレベルが低くて「無謀と言うには当たらない」と言われてしまえばそれまでですが。
◆感情がひどく不安定。2、3時間から2、3日にわたって、不安・いらいら・不快感が続く。このため「躁うつ病」と思われていることもある。
⇒YES。
◆ 些細なことに対してひどく怒る。それを自分では抑えられない。
⇒YES。最近特にそう感じます。笑えるくらい些細なことにイライラして、相手を怒鳴りつけたくなる。
◆いつもむなしいと感じている
⇒YES。「元気にしてる?」と人に聞かれて「はい」と答えることがない。
どんなときも、常に満たされていない、どこか寂しい気持ちを抱えている。
たまにそれが膨らみ、泣きたくなる。
◆一時的に精神病状態になることがある。すなわち、妄想が出て来たり、解離状態になったりする。
⇒「解離」に当てはまるのかは分かりませんが、本や映画の主人公である「わたし」を、
そことは全く違う場所から眺めているような感覚になることがあります。
明るく社交的に振舞えること、見た目がある程度いいことなどから、異性に言い寄られることが多いので、物心ついたときから彼氏または彼氏のような存在をきらせたことがありません。ただ、最近はそれをきらせること=独りになることへの漠然とした不安感から、言い寄られた男性であれば妻子のある人などでも付き合うようなことをしています。これは一般的に「依存」と呼ばれるものではないか?
と思うこともしばしばあります。今では落ち着きましたが、一時は4股をかけていたこともありました。
ただ、リストカットをしたり、相手に電話を100回やなんやかけるといったほどのことはしていないので「気の持ちよう」「性格の問題」といわれればそうなのかもしれないと思ったりもします。
わたしの両親は非常に厳しく私を躾けました。
ピアノの練習、勉強が最優先で、門限がたくさんある生活は転勤が多かったことも加わり、友達がまともに出来ず、学校ではいじめられ、家ではピアノの練習を真面目にしない、成績が悪い、などの理由で新聞紙を丸めたもの、ハンガー、テニスラケットなどで痣やみみず腫れができるほど叩かれました。
親は躾けだと言いますが、その度合いを超していたのではないかと思います。(今では関係は良好で、他の人からは「仲の良い家族ねえ」と羨ましがられるほどです。不思議なことに私自身、両親に対して愛情と尊敬の感情を持っており憎しみは全くありません)
また、いじめられていた(集団無視、一部被害妄想だったのではないかとも今からは思うのですが)ことからか、保育園・幼稚園・小学校・中学校の思い出がほとんどと言ってよいほど思い出せません。人はどれくらいの年齢からのことを覚えているのか私には分からないので、これが異常なのか普通のことなのかは分かりませんが、小学校・中学校のときのことがほとんど思い出せないことについては全く分かりません。
最近では、物忘れがさらに激しくなり、仕事でも支障をきたし始めました。
一度電話でアポイントメントが延期になったことを知らされたのに、それを忘れて相手を訪問したり、約束していたものを期日に発送することを忘れ相手から指摘を受けたり、といったことが重なり、自分自身とても不安です。
また、もとから「カッとしやすい」と自分のことを思っていたのですが最近それに拍車がかかったように思います。
また、他人の噂がとても気になります。
今いる会社はとにかく噂好きの人が多く、いろいろな噂を耳にするのですが誰々がこういうことを言っていた、などという自分の噂を聞くとその噂を流していたという人に対して仕返しをしたくなります。
自分の仲の良い人に、「こういうことをされているらしい」ということを吹き込み、その人と対立させようとしたこともあります。
最近、自分の中にあるそうした敵対心のようなもの、相手を蹴落としたいという強い感情はもしかして病気のせいなのでは?
と思いました。
これらは全て繋がっていることなのでしょうか?
また、わたしは精神科にかかるべきなのでしょうか?
御指示頂けると幸いです。
林: パーソナリティ障害(人格障害)の診断基準のひとつひとつの項目は、誰でもある程度は自分にあてはまると感じられることは多いものです。ですから、診断基準を使って自己診断をしようとしてもそれは無理というのが普通で、この【1404】のケースも、ご自分での判断だけですので、ひとことでお答えするとすれば、「これだけではわからない」ということになります。
けれどもこの【1404】の方の記載内容はかなり具体的ですので、これを読んだ限りにおいては、境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)の疑いは濃厚であると言うことができます。
また、子どもの頃に何らかの問題(その中の最大のものは、もしかすると記憶から消えているかもしれないことが、このメールからは窺われます)があり、
小学校・中学校のときのことがほとんど思い出せない
という事実も、【1307】などにお書きしたように、境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)の疑いを強めることになります。
では病院にかかったほうがいいかどうかということになりますが、
正常な社会活動が出来ている自分は大丈夫だと思い込んでいたのですが、
これはある意味で正しい認識であり、たとえ境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)の傾向が濃厚でも、それでも社会に問題なく適応していれば、特に病院にかかる必要はないということになります。
けれども、この【1404】の方が、「正常な社会活動が出来ている」かどうかは、ご本人の申告だけでは判断できません。パーソナリティ障害(人格障害)の人の中には、自分では問題がないと思っていても、実は周囲はその人に重大な問題を認めている(もっとはっきり言えば、とても困らされている)こともしばしばあります。
以上をご参考に、受診するかどうかをお決めください。但し、そうでなくてもパーソナリティ障害(人格障害)の治療は単純ではありませんので、この【1404】のように、まだ現実生活にはあまり問題が出ていないような場合、それを予防するような治療方法は確立していませんから、よほどの専門家を受診しない限り、有意義なものとはなりにくいと思います。