精神科Q&A

 【1307】幼いころ父親から虐待を受けていましたがほとんど記憶にありません。過食嘔吐が長年続いています。


Q私は30代女性、既婚・一児の母です。

過食嘔吐が18歳の頃から10年以上続いています。
3ヶ月前から心療内科に通い、カウンセリングを受けております。
過食嘔吐は長く続いているものの、そのことで特に悩んではいませんでした。ただ、無駄に食費もかかるし、直るものなら直したい、という程度のものです。
過食の頻度は平日はほぼ毎日ですが、休日は家族が家にいるためできません。

二人目の子供を望んでいることもあり、薬物治療はできないため、カウンセリングという方法をとっております。
カウンセラーの先生とのお話を続けているうちに、問題は今症状として現れている過食よりも、幼少〜高校生まで続いていた虐待にあるのではないかということになりました。
私は幼少〜高校生まで父親に暴力をふるわれていました。
父親はいわゆる「キレやすい」性格です。自分の意にそわない事があると大声で怒鳴ったり、殴ったりしていました。
父親が暴力を振るっている間、私は抵抗することもなく、泣きながら耐えていたようです。
「ようです」というのは、記憶が曖昧であまり覚えていないからです。
「ひどく辛かった」ということは分かるのですが、実家を離れ、一人暮しを始めてからはこのことを誰に話す事もなく、忘れようと意識していたせいか、当時のことを(暴力を含めた生活のすべてを)覚えていないのです。

カウンセラーの先生に「覚えていないことが辛くないですか」
と聞かれるのですが、全く辛くはありません。
現在父親との関係ですが、あまり接触がなく、親しくはありません。ですが、憎い・殺したいという感情もありません。

18歳で嘔吐が始まるまで、私は体重が100キロ近くありました。幼少のころから太り気味で、小学生の頃には肥満体型でした。心配した母親が食事を減らしたようですが、隠れて食べていたそうです。
また、赤ちゃんの頃から長く指しゃぶりが続き、成人してからも親指をしゃぶっていました。今はそれほどではありませんが、たまにしゃぶると安心感が得られます。
指しゃぶりをするときは、片手でタオルをいじっています。
そして、小学校4年生頃には、まつげを全部抜いてしまいました。髪の毛を抜いて食べていたこともあります。

行動のみを書き連ねると、かなり異常なように思われるかもしれません。
しかし、私自身は苦痛を感じておらず、日々も淡々と過ぎて行ったように思います。
今現在の生活に不満はなく、良き伴侶と可愛い子供に恵まれ幸せです。

前置きが長くなりましたが、質問させて下さい。
今続いている過食嘔吐は、過去の虐待と関係があるのでしょうか?私自身はアルコール依存症のように、長く続きすぎたため、習慣のようになっているのではないかと思います。
また、カウンセラーの先生にたびたび「辛いですか?悩んでいますか?」と聞かれますが、悩み苦しんだ方が直るのでしょうか。
最近は過食嘔吐が直る気がしないのです。もっと悩まなければならないのでしょうか。

まとまりの無い文章になってしまい、申し訳ござません。お答えいただければ幸いです。
どうかよろしくお願い致します。


林: 
今続いている過食嘔吐は、過去の虐待と関係があるのでしょうか?

摂食障害(過食嘔吐)と虐待には、関係ありとする研究結果もあることはありますが、定説には至っておらず、したがって「関係はない」と考えるのが普通です。
ただしそれは、摂食障害を全体として見た場合に関係はないと言えるという意味ですから、この【1307】のケースで、本当に関係がないかどうかは、容易には判断できないところです。

関連したこととして、人格障害(パーソナリティ障害)と虐待については、虐待と関係ありとする研究結果が大量にあります。そして、人格障害(パーソナリティ障害)のうち、境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)は、摂食障害、特に過食を伴うことがしばしばあります。

この【1307】のケースは、メールの記載を見る限り、境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)とは言えませんが、メールに書かれていない全体像を見た場合、あるいは境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)の傾向が認められるのかもしれません。だとすると、虐待との関係はありに傾きます。

また、虐待について、

当時のことを(暴力を含めた生活のすべてを)覚えていないのです。

という記憶の障害は、解離の一種です。そして、思い出したほうがいいかどうかは一概には言えないことは、【1160】【1227】などをご参照ください。

そして、この記憶のことを含め、【1307】の方は、ご自分にとってネガティブなことを否認することで心の安定が保たれているように見えます。過食嘔吐や抜毛などの症状に対する姿勢からもそれが読み取れます。

このような場合、このまま否認を保ったほうがいいか、それとも事実にもっと正面から直面したほうがいいかは、難しい問題です。直面したために不安定になることもよくあり、【1227】がその例になります。

カウンセラーの先生からの、

「覚えていないことが辛くないですか」と聞かれる

たびたび「辛いですか?悩んでいますか?」と聞かれます

という質問の背景には、この問題があると考えられます。つまり、【1307】の方の症状(このケースはメールに書かれていない症状がまだあると私は推定しています。そう推定する理由は、メール全体に流れる否認傾向です)について、根本的に改善するためにはおそらくこれまで否認してきたことに直面することが必要と思われますが、直面すれば少なくとも一時的には症状が逆に悪化することは確実で、そのようなリスクを犯してまでも直面する必要があるかどうかを、今カウンセラーの先生は模索しておられるのだと思います。

したがって、

悩み苦しんだ方が直るのでしょうか。

この問いには容易には回答できません。今の治療を続けることが第一と思います。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る