精神科Q&A
【1352】妄想だけが症状の母は治療困難でしょうか
Q:
妄想性障害と思われる60代の母を、今日、なんとか病院(2度目)に連れて行ってきました。
母は、父に対しての被害妄想を持っています。
1度目の受診は、父の相談という形でした。その際、医師からは「本人の自覚がないから治療は厳しい。不眠や食欲無しなど体調を崩す時が治療のチャンス」と言われました。
それから8ヶ月経ったんですが、父に対しては攻撃的で罵詈雑言を浴びせたり、食事を与えない・家に入らせない・・などエスカレートしていますが、それ以外は正常なままです。
被害妄想から、体調を崩したり、不眠になることもなく、生活に支障はありません。
しかし、ここ2〜3ヶ月は会話の80%以上が父のことで、いよいよ私も耐えられなくなり、「もう一度、相談しに行こう」と嫌がる母を説得して、今日連れて行きました。先生に助けていただきたいと思って父母私の3人で行ってきました。
しかし、先生は「治療は難しいです。お力になれずすみません」ということでした。母のようなタイプは、薬を飲むことを拒むし、薬自体も効きにくいとのこと。方法としては、「強制入院」だが、それでも病状が全く変わらないかもしれないとのことでした。私は、頼っていた病院に見放されたようで、ショックを受けました。家族ではどうにもならないから、病院に行ったのに・・・また明日から、母の異常な妄想に付き合わなければならないのかと思うと、耐えられるのか不安です。母を支えなければならない私の方が病んでいきそうです。
こんな母のように、落ち込まない妄想性障害は治すことは厳しいんでしょうか?
厳しいとすれば、一生家族が耐えなければなりませんか?
どの病院に行っても対応は同じなのでしょうか?
治療させる方法は、強制入院しかないのでしょうか?
林: 強制入院しかないと思います。
これは明らかな病気であり、医療が何とか対処すべき問題です。「強制」となると、しかし医療だけでは手が出せませんが、そのための法律もある程度までは整っているわけですから(このケースは医療保護入院の適応でしょう)、
先生は「治療は難しいです。お力になれずすみません」ということでした。母のようなタイプは、薬を飲むことを拒むし、薬自体も効きにくいとのこと。方法としては、「強制入院」だが、それでも病状が全く変わらないかもしれないとのことでした。
このような敗北主義は受け入れられないところです。
ただし、この先生の説明は概ねという意味では正しいと言えます。すなわち、
治療は難しいです。
難しいのは確かです。
母のようなタイプは、薬を飲むことを拒むし、
その通りです。
薬自体も効きにくいとのこと。
これは何ともいえません。妄想性障害とひとことで言っても、統合失調症にかなり近いものから、いわゆるパラノイアと呼ばれるものまで様々な幅があります。この【1352】がどのタイプか、症状の記載が少ないので判断しかねますが、統合失調症に近いものであれば薬の効果は十分に期待できますし(たとえば【1355】)、他のタイプであっても、薬が全く効かないかどうかはやってみなければわからないと言えます。
方法としては、「強制入院」だが、それでも病状が全く変わらないかもしれないとのことでした。
「全く変わらないかもしれない」はその通りですが、それはすなわち「少しは変わるかもしれない」「大きく変わるかもしれない」などの可能性をすべて含んでいます。したがって、何もしないうちから
お力になれずすみません
とは、あまりにも無責任と言わざるを得ません。
もっとも、診察時のニュアンスまではメールからは読み取れませんので、この医師が非難されるべきか否かはわかりません。たとえば「強制入院」という言葉に対し、ご家族が明らかにネガティブな反応をされた場合には、「強制入院しても症状は全く変わらないかもしれない」ということまで十分に説明する必要が当然出てくるでしょう。そしてそれに対するご家族の反応によっては、「では出来ることは何もない」という結論になるのは自然です。
というような微妙なニュアンスはメールではわかりません。
ただ言えることは、このままでは何の進展もないことは明らかですから、医療保護入院によって光を見出す努力をすべきだということです。