精神科Q&A

【1336】 「うつ病」「抑うつ神経症」「解離性障害」などと言われている私は擬態うつ病なのでしょうか 


Qうつ病の診断と薬に関して、特に、SSRIと「解離性障害」「擬態うつ病」について、診察を受ける者として疑問を感じていることがあります。お答え下さいましたら幸いです。

私は40歳代前半(女)、研究・教育職(現在はアルバイト)です。8年ほど前から精神科に断続的に通っています。病名は、おおかたうつ病(後に書きますように、一時的に、別の医師から解離性障害だと言われましたが納得できません)で、症状が多少軽快してからは「抑うつ神経症かもしれない」と言われたことも一時ありました。

最初の症状は、早春の頃、気分が非常に落ち込み、体もだるく、歩くのも大変で、仕事・家事などすべてのことが高いハードルのように思われてほとんど何もできなくなり、一日中不本意にも布団の中でゴロゴロするしかない、しかもそんな自分には生きる意味がないしつらいからこの世から消え去りたいといったものでした。内科の医師から勧められ、精神科の医院に通うこととなりました。

 診察の最初の頃からおそらく(はっきり聞いていませんが)、うつ病と診断されたと思われます。上の症状も、素人判断ですが、後から思うとうつ病的だと思います。
 当時SSRIという種類の薬が出始めた頃で、その医師の先生(後に出て来る先生と区別してA先生としておきます)は、「新薬は、副作用が少ないと(製薬会社は)言うが、私は商業的な言葉はあまり信じない。けれども、とりあえず使ってみようか」と言われ、SSRI(具体的な薬名は忘れました)を処方されました。ところが、気分の暗さはよくならず、イライラ感が増し、自分でも不思議なほどそわそわと動き回り、逆に死にたいという気分が強くなり、その薬は一週間もたたないうちに中止となりました。中止すると、そわそわ動き回ったりする不自然な症状はすぐに消えました。 先生は、「古典的な薬の方が、副作用についてははっきりしていて、悪い薬ではないから、そちらの薬に変えましょう」とおっしゃって、三環系抗うつ薬のトフラニール、その他睡眠薬に変わりました。その後、1、2ヶ月ほど目立って改善しなかったので、同じ三環系のアナフラニールに変わり、夏には気候の厳しさも加わったのか、いっそうだるくつらい気分になったため、数日間連続して抗うつ薬点滴を行いました(医院なので通院で行いましたが、先生はよい病院さえあれば入院した方がよいとおっしゃっていました。結局入院せずに済みましたが)。

 その後秋になって、布団から出られないほどだるい時、暗い灰色にたとえられるような気分の時は減りましたが、完全によくなったとは言えませんでした。抗うつ薬はノリトレンに変わりました。その頃の症状は、気分は以前のように暗くないけれどもボーッとして何かを積極的にしようという気分にはなれない、呆けたような、怠け者のような状態でした。一方、三環系の副作用のような症状(口が渇く、便秘)が強く出ていました。

 その頃、新しくSNRIという種類の薬が出たので、以前のSSRIのような副作用の恐れはあるものの、試すことになりました。ところが、最初の一週間はびっくりするほど体が軽く、動けるようになり、いい薬だと思ったのですが、一週間後、SSRIと全くおなじイライラ感とそわそわ動き回る症状が出てしまったのです。このままだと体をすり減らして死ぬのではないかと思われるほどでした。即SNRIは中止、もとの三環系ノリトレンに戻りました。

 この間の薬の量はきちんと覚えていませんが、三環系の副作用のような症状(口が渇く、便秘)を私が強く訴えたので、先生はそれを考慮され十分な量を投薬できていなかった時期も長かったように思います。はっきりした「うつ病」ではなくて「抑うつ神経症かもしれない」と言われたのはこのころです。

 その後(翌年の初夏から)、やむをえぬ事情で違う病院に通うこととなりました。そこでの診察は、元の医院に比べると、非常にあやしい印象がありました。心理学関連の新書・文庫類に書いてある精神分析に近い雰囲気でした。
 まず先生(B先生としておきます)は私に「木の絵を描いてください」と言われました。
 先生が忙しそうなので手間を掛けては悪いと思い、簡単な絵を描くと、先生は「あなたはうつ病ではない。うつ病の人が、こんなに単純な絵を描くはずがない」と言われました。また、問診中に先生に聞かれたことを懸命に思い出そうとすると(そういう時私は遠くを見つめるような目つきになることがあるのですが)、「今のあなたの目つきは、何かにとりつかれているようだ」と言われ、「ボーッとして周囲の世界から切り離された、自分だけ取り残されたような気分になることがある」と私が言うと、「解離性障害」という診断を下されました。また私が「家の中で倒れたまま起き上がれない」というと「ああ、ヒステリーでしょう」と言われました。しかし私が言ったのは、ヒステリーのように急に倒れるということではなく、つらく体がだるすぎて布団から起きあがれないということだったのです(当時も波はありましたが時々そのような症状がありました)。それを何度も訴えましたが、その先生は聞き入れず、「解離性障害」の診断を変えられなかったようで、毎日見た夢を記録してきてくださいなどと言われました。そして、SSRIは私に合わない薬だということを伝えたのですが、先生は「あなたのような人にはSSRIが効くと思うんだけどなあ」と言われ、私が何度も副作用のことを強調して、やっとSSRIの処方を取り消してもらいました。その後しばらく通いましたが、薬もマイナートランキライザーしかないのに秋になると症状がいつの間にかすっきりして動けるようになりましたし、素人なのに勝手ですが変な先生だと思って通うのをやめてしまいました。

 ただし、B先生が「うつ病」と診断されなかったのは、問診の時の私の言葉にも影響されているかと思います。症状がすっきりせず、らちのあかない私は、「私はたぶんうつ病なんかではなくて、別の病気か、怠けているだけだと思う。性格的にも、うつ病の人は他者を思いやる性格のように言われることがあるけれど、私には誠実さが欠けているし、自己中心的で自分のことばかり考えている」などと、その時の思いつきのようなことを言ったのです。

 数年後(2年半近く前)、また早春なのですが、うつ病的な症状、気分が暗く、体がだるくて行動力・思考力が低下する、睡眠障害(早朝覚醒)という症状が現れました(体は背中から腰のあたりがとてもだるくて立つのもつらく、歩くのもやっとのことで息が切れる、といったものでした)。今度は元の先生(A先生)の所に通うことができました。以後現在までその先生の所に通っています。最初抗うつ薬はトフラニール、2ヶ月ほど後にアナフラニールに変わり、症状のひどい時(灰色のイメージ、死にたいという思いとともに体の脱力感が強く息も絶え絶えの時)には点滴でしのぐ、という治療でした(同時にユーロジン等の散剤一包が現在まで処方され続けています)。後なかなかすっきりせず(具体的には下に書きます)、抗うつ薬はアナフラニールからトリプタノール(トリプタノールの時期が1年以上続いて長かったです)、その後アナフラニールに戻り(2ヶ月ほど)、次いでアモキサン(少し前に1ヶ月ほど)と変わりました。抗うつ薬は多い時には150〜200r/日(この時期が1年半くらいで長かったです)、それに睡眠のためのユーロジン等の散剤が処方され、現在は、アモキサンからトリプタノールに戻って75r/日(毎食後)、寝る前にユーロジン等の散剤一包とルジオミール25rです(ルジオミールは抗うつ薬ですが、先生は夜の睡眠を安定させるために出すとおっしゃいました)。上に「なかなかすっきりしない」と書きましたのは、気分の暗さや意欲は改善したのに、夜眠れず(早朝覚醒、眠りが中断される)、昼間は外(電車やバスの中、職場など)でも眠気に耐えられずに居眠りしてしまうのです。先生は、抗うつ薬や睡眠剤をきめ細かく処方してくださるのですが、なかなかよくなりません。先生がおっしゃるには、「最近(臨床を通じて)私は、アナフラニール、それからそれをさらにとぎすまして作られたSSRIには、夜の睡眠を妨げるような作用があるように思える」ということです。アナフラニールを復活させてやめたのはそういう理由からで、トリプタノールの時にうつ症状があるなりにもある程度安定していたからという理由でトリプタノールに戻っています。

現在の私は、午前中眠気・だるさを中心に調子が悪く、午後(多くは4時過ぎ頃)から眠気が晴れて本来に近い力を発揮することができる、夜の睡眠時間が短い(早朝覚醒)という症状で、先生は「うつ病の型が残っている。今ひとつすっきりしない」と言われ、申し訳ないのはこちらなのですが「なかなかうまく行かなくて申し訳ない」とおっしゃって治療が続いている状況です。今はとにかくA先生を信頼して、なんとか日常生活を乗り切ろうとしております。

 それから、A先生は、私の昼間の眠気があまりにも強いので、一度試しにとリタリンを処方されたことがありましたが、夫の大反対(リタリン中毒になってたいへんなことになると言い、すぐに薬を捨ててしまいました)で、そういうことではリタリンは処方できないと言われてしまいました。私自身はA先生を信頼していたのですが……。先生は、確かにリタリンは簡単に処方する薬ではないが、ヒロポンのような麻薬とは違う、他に私と同じように昼間の強い眠気を訴える人がいて、リタリンが効いたようだから、私にも特別に処方した、と説明されました。その時先生は「ナルコレプシー」という病気の可能性をおっしゃっていました。また、私は別の病院で睡眠時無呼吸症候群を疑われ、検査を受けましたが、治療するほどではないという結果が出ました。

 以上、私の症状と治療の経過を書かせていただきました。それを通じて、うつ病の診断や薬に関して、私にはいくつか疑問があります。それを下に書かせていただきます。お答えくださいましたら幸いです。

1、私は自分自身うつ病だと思っておりますが、上記B先生は「解離性障害」と診断され、「うつ病」を認めませんでした。私には今その診断に納得がいかないのですが、私が解離性障害である(あった)可能性は高いのでしょうか? 私はうつ病ではない(なかった)のでしょうか? また、木の絵を描く、夢の内容を分析するなどの診断・診療は今でもよく行われているのでしょうか?

2、SSRIという種類の薬は、副作用が少ないと言われ、現在よく使われているようですが、その安全性について、私自身、服用してみて疑問を感じています。三環系が結局は「しかたがない」と思える程度の副作用(口が渇く、便秘気味になる等)なのに対して、どこか「危ない(極端に言えば命に関わる)」という印象があります。私のような副作用が出る人は、まれなのでしょうか。林先生のサイトを閲覧させていただいても、かなりの人にSSRIが処方されているようですが、SSRIの安全性への疑いは問われていないのでしょうか。

3、「擬態うつ病」についての質問です。「うつ病」を自称する人で、家族など親しい人に対して、「そんな対応をされたらかえって病気が悪くなる」「もっと優しく接してほしい」と言う人が時々いて、そういう人はおおかた「擬態うつ病」に分類されているようですが、私自身、夫に対してそういうことを何度も言ったことがあります。それは、私自身つらく、やっとの思いで家事や研究的な仕事をしているのに、夫が「家がきたない」「一日中家にいてどうしてこうなんだ」「研究も全然進んでない」というような言葉を投げかけてくるからです。実際、私自身、早くよくなり、仕事も家事もうまくいくようになることが、自分のためでもあり夫のためでもあると思い、そのためにあがいているのに、辛辣な言葉をかけられてストレスがたまり、それが治療を遅らせていると実感するからです。
 このような私は、「擬態うつ病」的な要素があるのでしょうか。「そんな対応をされたらかえって病気が悪くなる」というような言葉を発する人が、即「擬態うつ病」であるとは、私には思えないのですが……(林先生がそのようにおっしゃっているという意味ではありません)。うつ病の人は自罰的だとよく言われますが、言葉を返す気力もないほどの重症に陥っていなければ、どうしたら早く元に戻れるかを少しは前向きに考え、半分は甘えもあって、近親者にそのような言葉を発する人がいるような気がします。相手の言葉に問題がある場合もあるように思います。そういう場合は「擬態うつ病」でなく、「普通」の範囲内だと思うのですが、いかがでしょうか。以上、長くなってしまい申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします。


林: 
1、私は自分自身うつ病だと思っておりますが、上記B先生は「解離性障害」と診断され、「うつ病」を認めませんでした。私には今その診断に納得がいかないのですが、私が解離性障害である(あった)可能性は高いのでしょうか? 私はうつ病ではない(なかった)のでしょうか? また、木の絵を描く、夢の内容を分析するなどの診断・診療は今でもよく行われているのでしょうか?

あなたはうつ病だと思います。2回のエピソードがいずれも早春であったことからは、季節性うつ病の可能性もありそうです。
解離性障害の可能性はほとんど(というより、全く)ないでしょう。理由はあなたがお書きしている通りで、そもそもあなたに解離性障害を疑わせる症状は全く読み取れません。
「木の絵を描く」のは、バウムテストと呼ばれる心理検査の一つで、診断の補助としてはもちろん意味はありますが、あくまで補助にすぎず、

「あなたはうつ病ではない。うつ病の人が、こんなに単純な絵を描くはずがない」

こんなことが断言できるはずがありません。
また、夢の内容の分析も、現代ではあまり行なわれていないものです。
 現代ではあまり行なわれていないからといって、それが不合理な診断方法とは必ずしも言うことはもちろんできませんが、このB先生の診療方法は全体としてきわめて一方的で客観的な姿勢に乏しく、とうてい信頼できるものではありませんので、あなたがこの先生から離れたのは賢明だったと思います。

2、SSRIという種類の薬は、副作用が少ないと言われ、現在よく使われているようですが、その安全性について、私自身、服用してみて疑問を感じています。三環系が結局は「しかたがない」と思える程度の副作用(口が渇く、便秘気味になる等)なのに対して、どこか「危ない(極端に言えば命に関わる)」という印象があります。私のような副作用が出る人は、まれなのでしょうか。林先生のサイトを閲覧させていただいても、かなりの人にSSRIが処方されているようですが、SSRIの安全性への疑いは問われていないのでしょうか。

うつ病の相談室のp.72にもお書きした通り、SSRIに副作用が少ないというのは製薬会社の宣伝文句にすぎず、実際にはそのようなことはありません。ただ副作用のプロフィールが従来の三環系抗うつ薬とは異なるというだけです。ですから総合的にみて、SSRIと従来の薬のどちらが優れているとは言い難いというのが事実です。あなたはSSRIに不信感をお持ちのようですが、それもまた正しい見解とは言えません。

SSRIの安全性への疑いは問われていないのでしょうか。

この質問には意味がありません。いかなる薬にも安全性は問われています。無条件に安全な薬など存在しません。


3、「擬態うつ病」についての質問です。・・・このような私は、「擬態うつ病」的な要素があるのでしょうか。「そんな対応をされたらかえって病気が悪くなる」というような言葉を発する人が、即「擬態うつ病」であるとは、私には思えないのですが……(林先生がそのようにおっしゃっているという意味ではありません)。

あなたは擬態うつ病ではなく、うつ病だと思います。そしてあなたがおっしゃるとおり、「そんな対応をされたらかえって病気が悪くなる」というような言葉を発する人が、即「擬態うつ病」ということにはなりません。ただそういう傾向はあるということです。これに限らず、症状と診断に関しては、「・・・だから即・・・である」というものはあり得ません。


メール全体から、あなたは極めて洞察力のある方であることが読み取れますので、上記の私の回答のほとんどすべてについて、すでにご承知の上であえてご質問されていることと推察しますが、明確化のためにストレートにお答えしました。最も重要な点は、あなたはうつ病であり、したがって、適切な治療を受ければ治るということです。今はあまりあれこれ考えず、治療に専念されることが回復の早道だと思います。良好な経過と早期の回復を願っています。

 

その後の経過(2008.8.5.)


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