精神科Q&A

【1438】うつ病の治療を続け、比較的良好な経過です(【1336】のその後)


Q 【1336】「うつ病」「抑うつ神経症」「解離性障害」などと言われている私は擬態うつ病なのでしょうか にメールを取り上げていただいた者です。ご回答くださいまして、どうもありがとうございました。 
 なにぶん、素人の私としましては、自分の症状について明確にはわからず、「解離性障害」と言われたり、「擬態うつ病」についての本を読ませていただいたりすると、自分がほんとうにうつ病なのかという疑問をつい抱いてしまいますので、「うつ病だと思う」と明確に言っていただきまして、ありがたく思っております。 実は先日(私のメールをアップしていただく少し前)、夫と一緒に、主治医の先生の所へ行って、いろいろ質問してきました。私が「やっぱり病気(本物のうつ病)なんですよね?」と尋ねたところ、林先生と同様「病気だと思います」というご回答をいただきました。お二人の先生にそう言っていただいて、ここのところで、私自身、自分が向かっていくべき方向がはっきりとしてきました。それまでは自分が症状に対してどうすればよいかがよくわからず(休むのがよいのか、頑張る方がよいのかなど)、悩むことも多かったので、ご回答いただきまして、深く感謝しております。  また、SSRIにつきましては、林先生のおっしゃるとおり、私に合わないという理由で、必要以上に怖がっていた面があったように思います。その点をご指摘いただいて、薬や治療法については、もっと客観的に見なければいけないと思うことができました。こちらについても、はっきり言っていただきまして、どうもありがとうございました。よい反省材料になりました。  
 そして、その後の私の病気の経過ですが、去年の6・7月には、もちろん薬を飲んだうえでのことですが、かなり状態がよく、研究にたずさわっている私は、研究会で数回発表をしたり、論文を書いたりするなど、それまでにはできなかったことができるようになりました。けれども、8月から症状が悪化し、8・9月と2ヶ月間にわたり、生活に必要最低限のことをする以外には、ほぼ寝たきり状態でした。研究的なことをするにも、頭がまったく回りませんでした。薬もそれまでトリプタノール75r/日だったのが、アナフラニール150r/日→225r/日と増えました(アナフラニールは、私には急場をしのぐのによいという主治医の先生のご判断があったようです)。 10月中旬あたりからは、症状が多少軽快し、午前中から昼過ぎにかけて眠ってしまう日も時々ありますが、研究的な仕事を多少はできるようになりました。薬は、アナフラニールだけではすっきりしないため、最近、他の抗うつ薬と併用することになり、今はアナフラニール150r/日とSNRIのトレドミン45r/日です。前のメールにも書きましたように、SNRIでは副作用が強く出ていたのですが、再度少量から試そうということのようです。最近では、やはり昼間に寝てしまう時もありますが、研究的な作業をする時には、集中力が出てきたように思います。
 先日夫と一緒に主治医の先生に質問した中に、「入院したほうがよいのではないか」ということと「電気ショック療法はどうか」ということがありました。入院については、入院させたとしても、私については、ここからは大丈夫という保証ができないため、退院のタイミングがはかれない、とのことです。また、電気ショック療法については、たしかに重症の患者には薬よりも速く効くことがあるので考慮するが、私のケースには簡単にはできないとのことでした。私の病気は「難治性うつ病」というもので、うつの状態が重い時と比較的軽い時(またはやや躁状態の時)とが繰り返し現れる「ラピッド・サイクラー」だからだそうです。電気ショック療法は、効き目はあるけれども、白く塗った壁がまただんだんと汚れていくように、私のような病状の場合には、それほどたたないうちにまた重いうつ状態が現れる可能性が高く、そのたびに頻回に電気ショック療法を繰り返すと、てんかんが起こりやすくなるのだとのことです。 したがって、今のところは薬をいろいろ試してみるべきだというご見解でした。今回治療を始めてからそろそろ3年になりますが、思い返してみると、たしかにうつ状態が重い時と比較的動ける時とが順に現れていて(私の躁状態は、仕事に集中・熱中する程度のもので、病気として問題視するほどではないとのことです)、動ける時にたまった仕事をやってしまおうとすると、その後また倒れる、ということの繰り返しです。主治医の先生からは、「子育てもあることだし(子供は今5歳です)、研究を続けようとすれば、これまでのように、ある程度は重くなるのと軽快するのとの繰り返しになる可能性が高い」と言われています。「だからといって、研究をやめなさいと言うのも、人生全体から見ると、よいことかどうか。今の段階では、薬でだましだまし、少しでも研究が続けられるようにと思っている。子供が大きくなれば、もう少し楽になるかもしれない」とも言われました。 私の人生全体にわたって考えてくださっている今の主治医の先生(前回のメールのA先生)の存在はたいへんありがたく、また先生は「治療ではこれまでも惰性でなくチャレンジもしてきたと思っているし、これからもそうするつもり」とも言って下さいましたので、とにかく病気のことはその先生に頼って生活していくつもりです。それと同時に、研究的な作業をやりすぎないように注意すること、あわよくばやってしまおうというところを(これが「躁状態」なのでしょうが)、自分だけで判断するのではなく、新しいことをしようという時には常に夫(夫も研究者です)に相談し、客観的に見て大丈夫かどうかを見極めてからにする、と夫と約束をしました。夫も、私のうつ病について、前よりも知識も増え、真剣に考えてくれるようになりましたので、そういう周囲の人の力も借りざるをえませんが、なんとか乗り切っていくつもりです。 
 私のケースはかなり特殊なケースかもしれませんが、自分がうつ病に傾きやすい体質だということを冷静に受け止めながら、子育てなり自己実現なりをなんとか行っていく、そういうよい例になって、他の同じような人たちを応援できればと思っています。またよい経過がありましたら、報告させていただこうかとも思っております。どうもありがとうございました。


林: 経過のご報告をいただきありがとうございました。適切な治療を受け改善に向かい、何よりと思います。とても良い先生に恵まれたようですので、今後の見通しも明るいと思います。またそのうちに経過を教えていただければ嬉しく思います。

質問者の利を第一と考えれば、回答はここまでとするべきではありますが、事実をお伝えするという精神科Q&Aの方針に従い、もう少しつけ加えます。このつけ加えは主として読者のためであって、質問者にとっては余計なことになるかもしれませんので、読み流していただければと思います。
それは診断にかかわることです。
【1336】で、診断はうつ病であると私は回答しました。それに関して訂正はありません。
ところでこの【1438】には、

私の病気は「難治性うつ病」というもので、うつの状態が重い時と比較的軽い時(またはやや躁状態の時)とが繰り返し現れる「ラピッド・サイクラー」だからだそうです。

とあります。この方の「やや躁状態」が、どの程度のものか、メールからは読み取れませんので、はたしてラピッドサイクラーと言えるかどうかは判断できません。しかし本当にラピッドサイクラーだとしたら、リーマスなどの気分安定の服用を考慮するというのが現代では主流の考え方です。また、抗うつ薬がラピッドサイクラーを誘発するとも言われており(「言われており」は曖昧な表現ですが、現に、誘発することがあるのは確実です。但し、ラピッドサイクラーのすべてが抗うつ薬によるというわけではありません)、したがって抗うつ薬の服用は最小におさえるべきだという考え方もあります。また、甲状腺ホルモンが関与しているケースもあることが示されています。
 このあたりはまだ治療法が確立していないところで、それぞれの主治医の先生の方針におまかせする以外ないところです。ですから、この【1438】の質問者にとって、上記の知識は余計なものになるかと思いますが、あくまでも精神科Q&Aの方針に従って記させていただきました。


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