精神科Q&A

 【1204】3年前からうつ病と診断されていた66歳の父が、脳の検査で前頭葉血流低下がみつかり、うつ病でないことがわかりました


Q現在66歳の父は、X年末より会社経営のストレスより不眠が続き、X+1年春より総合病院受診し「うつ病」との診断で投薬治療を開始しましたが当初は一向に改善が見られずむしろ悪化する一方で体重変化も約20キロ減となり外出するのは通院のときだけで一日中横になっている日々が約一年続きその後、総合病院に家族が付き添いするのが出来なくなり近所の診療所に通院(毎回家族が付き添い)し投薬を続けました(一通りの抗うつ剤はつかいました)。しかし、引きこもり生活は続き家族が何か投げかけても「もう何をしても一緒」「体がもう動かない」の一点張りでした。半年前ぐらいからは昼夜問わずのうめきや叫びが始まり(本人は胸の辺りが何とも表現できない違和感があり叫んでしまうと言っているのですが)家族のストレスが溜まり診療所の先生の紹介で入院も視野に入れ総合病院(最初の病院と違う)に今春から受診に至っております。

 総合病院ではまず検査(脳波・MRI・脳血流検査)を行いましたが、脳波・MRIでは特に今のところ異常はないが脳血流で前頭葉に血流低下を認めそれによる活動低下であり「うつ病ではない」との診断でした。2年間、抗うつ剤に反応していないこともそれを裏付けているとのことでした。で、とりあえず抗うつ剤は止めて脳血流を良くする薬で経過観察になりました。

 うつ病治療の二年間はなんだったのか?と分からなくなりました。このような前頭葉血流低下によるうつ病様症状は様子をみるだけの治療しかないのでしょうか? うめき・叫びは続いており家族のストレスが溜まる日々です。

うつ病だからいつかは元の元気な父に戻ると信じて今までがんばったのですが、特に治療法がない原因不明の前頭葉血流低下と診断されて絶望しております。

以上、簡単ですがいままでの父の経過です。

先生のアドバイスをよろしければお聞かせください。よろしくお願いします。


林: 今の病院で告げられた診断は不可解です。もう一度診断を見直す必要があると思います。
というのは、うつ病で前頭葉の血流低下が認められるのは、むしろ普通のことだからです。それを証明する論文もたくさん発表されています。したがって、

脳血流で前頭葉に血流低下を認めそれによる活動低下であり「うつ病ではない」との診断でした。

この説明は不可解です。
「前頭葉に血流低下があるからうつ病ではない」というのは、医学的にはナンセンスです。この医師は、うつ病についての知識が不十分であることが疑われます。(もっとはっきりいえば、うつ病についての基本的な医学的知識を持っていないことが疑われるということです)
(もっとも、実際の検査結果の画像を私は拝見していませんので、もしそれを見れば、所見によっては判断は変わるかもしれません。つまり、低下の程度や分布によっては、診断は変わるということです。画像を添付ファイルでお送りいただければ私が判定します)

また、

2年間、抗うつ剤に反応していないこともそれを裏付けているとのことでした。

とのことですが、「2年間抗うつ薬を飲んでいた」というだけでは、何も判断できません。適切な抗うつ薬を十分な量のみ続けていたか、まずそれを確認する必要があります。抗うつ薬はうつ病に対して有効な薬ですが、ただ漫然と飲み続けていても治るものではありません。

ですから、

このような前頭葉血流低下によるうつ病様症状は様子をみるだけの治療しかないのでしょうか? うめき・叫びは続いており家族のストレスが溜まる日々です。

うめき・叫びもうつ病の症状であることに特に矛盾はありませんし、そしてうつ病であれば、適切な薬物療法を続ければ改善は十分に期待できます。現在脳血流改善薬をお飲みになっているとのこと、それを続けることに特に問題はありませんが、抗うつ薬を中止するのは、治る病気を治さないのと同じです。ご紹介した論文の中には、うつ病にみられる脳血流低下が抗うつ薬治療によって改善したことを示しているものもあります。(これも医学的に常識に属することです)

以上、「前頭葉の血流低下が認められたので、うつ病ではない」という、明らかに誤った診断についての回答です。しかし上にもお書きしましたように、血流低下の程度や分布などによっては、うつ病ではないという診断に傾くこともあり得ます。いずれにせよもう一度診断を見直すことが必要です。


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る