精神科Q&A
【1111】訴訟になりそうなのですが、妹は本当にPTSDでしょうか
Q: 先ずは長文になります事御詫び致します。
複雑な話で、かつ私は加害者なのですが、本当に困って居ります。
御可能な範囲で構いません、医学的なご教授頂きたくよろしくお願い申し上げます。
当方男性、現在36歳になります。家庭は妻と子供二人です。
実家に居る30歳の妹がPTSDです(いや、正確には「PTSDであると主張しています」、事情は以下をお読みください)。発病は4〜5年ほど前のようですが、その原因は兄である私です。お恥ずかしい話しながら、過去に妹に対し性的な行為を行った時期があります。私は14歳〜18歳の頃、妹は7歳〜11歳位の間です。
無論SEXは在りませんでしたが女性への興味から「見る」から「触る」に、徐々に性器を愛撫しあう関係に発展。私が18歳になり真剣に付き合いたい女性が出来て同時に中学生になった妹が行為に嫌悪を示し終わりになりました。
私は23歳で結婚して以来家を出て、仕事柄転勤等で全国を転々としています。
ここ10年以上は家族とは冠婚葬祭等、親戚での集まり程度でしか会っておらず妹とは妹に子供が生まれたとき(4年前)にしか会っていません。
当時妹は結婚していました。しかしその後、うつとPTSDのため子育てもままならないということで離婚になりました。離婚裁判では、妹は「夫の家庭内暴力」を主張、夫は「妻(妹)が子育てをしない」 と主張し争いとなりましたが、結局は夫側の全面勝利に終わったようで、妹への慰謝料はゼロとなりました。すると妹はその後、義父(つまり、夫の父)からも暴力を受けたと新たに主張しましたが、これも受け入れられませんでした。妹は昔から話が二転三転する傾向があり、我々は「また始まった」と思っていましたが、父は、このような言動も(私の性的虐待による)PTSDの影響だと言っています。今は子供は妹のもとにあるものの、元夫からの養育費も裁判でゼロと言い渡された状況です。
私は加害者の立場ですのでどうこう言えるものでは在りませんが、妹のPTSDについて、家族のうちで父親は信用していますが、残念ながら母親、及び弟はその症状含め正直半信半疑で、どう受け止めるべきか判断しかねています。
その背景として、一つはPTSDの概念が複雑なことが挙げられます。
もう一つは妹の行動自体にPTSDを負っているように見えづらい点があることです。
精神的な問題は確かにありそうですが、それが本当にPTSDなのか、統合失調症や性格障害またうつではないのか等々、非常に問題で議論をしても中々明確になりません。
そんな中、妹の代理として父から慰謝料請求を受けました。
以下、父のメールからの症状に関する抜粋です。
●200x年09月xx日のメールより
妹はここ3ヶ月ほとんど寝たきり状態。記憶もバラバラ、身体はガタガタ、言葉は不明瞭・・とても就労できる状態ではない。 子供の世話も出来ない。
⇒私の家内も今年の7月に実家へ行きましたが特に変わった様子は無く、相変わらず家の中は妹のわがまま一色であったとの事です。
実家にいる弟にも確認したところ別にその様な事は無く、あるとすれば昼間は寝ているが20時ごろに起き出して、23時〜26時くらいに『夜になると怖くて寝られない』と言って家を出て行く、でもそれは深夜喫茶勤務の彼氏と会っているはず、と言います。
(この彼氏というのは、離婚後妹が知り合った19歳のフリーターです。彼氏も妹も経済的に苦しいため、ホテルに行くこともできず、SEXは夜の公園でやっていると弟に話しているそうです。そんなこともあって妹が慰謝料のことを愚痴ったら、「このままじゃ痴漢されて泣き寝入りしているようなもの、訴えろ」と彼に言われのがきっかけで、妹が父に私とのことを話したというのが事の経緯のようです。
●200x年09月xx日のメールより
最近は、妹の(君から受けた10年間に及ぶ性的虐待から発症した)PTSDが一層ひどくなり、家が怖くて居られない・・と言い出した。
風呂が怖くて入れない・夜になると怖くて寝ていられない。だから家を出たいと言っている。
⇒事実は若干違いがあります。
10年ではなく期間は5年〜6年、虐待と言っていますが行為を無理強いした事はありません。2年前の電話の際に妹から、『親に話したら殺すとあなた(兄である私のことです)から言われた』と罵倒されましたが、その様な事実は一切ありません。
精神面の話では「受取り方は人それぞれ」と言いますが、妹の話の事実との食い違いは、そういう微妙なものではありません。
十代当時の私の性的行為についても、行為を強制したことは一切ありませんが、妹は「性的虐待」であったと主張しています。
●200x年10月xx日のメールより
今日、実に久しぶりに「自転車で娘を保育園に迎えに行く」といって出かけた。本当に大丈夫なのか心配はあったが、娘の願いをかなえてあげようと見守ることにした。
すると夕方自宅に電話が入った。
「今、お宅の娘さんが倒れているから救急車を呼びました。すぐ来て下さい」 と。家族は手分けして妹と妹の子どもの所に駆けつけた。
救急車で運ばれた病院では、入院を希望したがなぜか入院させてもらえなかった。
家に帰ったら君の事が脳裏に浮かんで怖くて眠れないといって病状はもっと悪化。やむなく今夜は近くのホテルに一人で泊まっている。
⇒PTSDとはこういうものなのでしょうか。
弟はこの事実を知らず、当日どうであったかは不明確です。
ですが、倒れた翌日は自宅で普通にしていたと、弟より報告がありました。
その次の日から母親が都合で2〜3日自宅を離れていましたが、その間毎日彼氏が一緒に居て夜は寝泊りしていたそうです。 普段は母親の目を気にしてか、家には全く来ません。
肝心のPTSDとの診断書は在るかもしれないですが父しか見ていません(無いかもしれません)。過去精神科(心療内科?)に通ったらしいですが 今は通っていない様子。ですが妹、及び父曰くPTSDは悪化しており その薬として一日に20錠近い錠剤(出所は不明)を服用しているとのことです。
深夜は「睡眠障害」を訴え殆ど外出し彼氏と会っており昼間はほぼ寝たきり。
子供の面倒は殆ど父親と母親が見ています。
そんな状況ですから、どんな治療を受けているのか、そもそも治療を受けているかどうかもわかりません。また、悪化しているといいながら、入院したことは一度もありません。
また現在父親は私とは話をしようともせず、当該行為の期間についても、妹の話だけを父は信用し、本当は5年間前後であったはずが、10年間で話が進んでいます。それだけならまだしも、最近になり 4000万円の慰謝料の話に発展しています。総額1億円の慰謝料の判例のコピーが、脅迫状めいた手紙とともに父から私に送られて来たのです。ここに至り、さすがに私含め弟も「いくらなんでも」ということになり的確な判断が必要とされています。
診断書を出してもらうよう求めましたが、
『医者からの診断書を取るためには、妹が医者にその用途を告げねばならずその時点で君を思い出して震えが来ると思う。 よって、診断書を見なければ支払いに応じないのなら裁判にかける。』 と返されました。
今、慰謝料請求が決まってから実家では私への連絡禁止となっており、辛うじて弟とだけ連絡を取り、以上の事実を確認しました。
弟曰く妹から『普段、お兄ちゃんと連絡取ってるの』と聞かれたそうですが、私のことを口にしても特に何も変化は無かったそうです。
妹の症状が事実かどうかも含め、今は先ず事を明確にする必要があると感じて、林先生へ質問しようと決めました。
(1) こういうような症状もあるとして信頼できるのでしょうか。
(2) 病院(精神科)等で本当にはっきりさせられるのでしょうか。診断を疑う訳ではないですが、嘘は分かるのでしょうか。たとえば、妹本人は「フラッシュバック等がある」「夜中、部屋で誰か後ろにいる気が」と言っていますが、こういったものも医師は正誤をつけられるものでしょうか。
(3) 診断書が発行されている場合、それが5年前でも信用するべきでしょうか。
素人知識ですがPTSDは判断が難しいと聞きますし、PTSDの「症状」といっても、あくまでも本人の語る内容が全て。その真偽を精神科ではキチンと明確に出来るのでしょうか?
元は私の過ちですから犯した責任が明確にされるのは当然のこと、全て正面から向き合う所存ですが、それが嘘混じりでは納得が出来ません。
現在はあくまで加害者(原因)である以上、私は中々直接どうこう出来ないのですが、PTSDについてどの様にするのが正確な対応と言えるのでしょうか。
先生のサイトは被害者に関する相談が主で、先生には加害者側の勝手な文面に取られるかもしれないですが、それも覚悟の上でメールさせて頂きました。私に有利な情報をいただきたいなどという意図は一切ございません。よくも悪くも事実をご教示いただきたく、よろしくお願い申し上げます。
林: あなたにとって微妙な問題を、詳細にご報告いただきありがとうございました。
少々長くなりますが、以下に回答いたします。
その前に結論だけ申し上げておきます。それは、
あなたは裁判を受けて立つべきである
ということです。
あなたのメールの内容が事実なら、あなたが裁判に負けることはまずないと思います。そして、裁判にしない限り、この争いはどろどろといつまでも続くでしょう。裁判ではっきりさせるべきです。
このような争いの場合、一方の当事者であるあなたのメールでは、事実が歪曲されている可能性があると考えるのが通常は妥当でしょう。けれども私は、あなたのメールの内容はきわめて信頼性が高いと判断しています。その理由は、以下の回答の中で適宜述べたいと思います。
回答は、まずは妹さんの診断からです。
1. 妹さんはPTSDではありません
PTSDの原因となるトラウマは、「実際にまたは危うく死ぬ、または重傷を負うような出来事、または、自分や他人の身体の保全に迫る危険の、実体験・目撃・直面」であることが診断の条件です。十代当時のあなたと妹さんの間で行われていた行為が、たとえ妹さんの主張の通りであっても、この条件にはあてはまりません。
PTSDのページにも書きましたが、トラウマの基準を拡大していくと、どんなことでもトラウマと解釈できることになりかねず、そうすると世の中はPTSDばかりになってしまいます。PTSDの図書室の『心的外傷論の拡大化に反対する』もご参照ください。
2. 妹さんは境界型人格障害の可能性が高いです
妹さんはPTSDではありませんが、精神的な問題を持っておられることは確かです。最も考えられる診断名は、境界型人格障害です。その根拠は、
・虚実とりまぜた話で自分を正当化し他人を操作・攻撃する
・うつの訴え
・現在、そして現在までの性的逸脱行為
などです。
(質問者以外の読者の方々へ: メール本文からは、本人の特定に強くつながると思われるいくつかの内容を削除してあります。実はその中にも境界型人格障害の強い根拠となるエピソードが含まれていました)
そして、お父様の言動は、【0735】でも解説したお助けおじさんそのものです。つまり、ご本人は純粋に境界型人格障害の患者さん(この【1111】では妹さん)のためを思って行動しているのですが、実際には患者さんの虚実とりまぜた話に操作されていて(他人を巧妙に操作するのは境界型人格障害の大きな特徴です)、結果としては周囲に多大な迷惑をかけるというパターンです。もっとも、通常お助けおじさんは他人で、このケースは実の父親という点は異なりますが、パターンとしてはお助けおじさんの典型そのもので、境界型人格障害の方をめぐる臨床場面では非常にありふれた例と言えます。
3. 性的な行為との関連は、あるかもしれません
妹さんは境界型人格障害であって、PTSDではありません。
けれども、ここで最も重要な問題は診断名ではなく、十代当時のあなたとの性的な行為と現在の症状との関係です。これは、上記の通り、「あるかもしれません」。
妹さん(及び、お助けおじさん化しているお父様)の主張は、単純化すれば、
性的虐待 → PTSD
となります。
対して私は、妹さんはPTSDではなく、境界型人格障害であるとお答えしました。それなのにここに来て性的な行為との関連があるかもしれないと申し上げるということは、性的虐待が、この人格障害と結びつく可能性があるということです。すなわち、
性的虐待 → 境界型人格障害
という図式が成り立つ可能性があるということです。いや、より正確には、性的虐待に限らず、子供時代の虐待、さらにはトラウマ的な出来事が、境界型人格障害に結びつくことを示す研究が、最近多数発表されています。PTSDの図書室の『心的外傷と回復』の中に書かれている「複雑性PTSD」も、「トラウマによる境界型人格障害」にかなり近い概念です。
子供時代のトラウマ的な出来事(虐待を含みます)と境界型人格障害の関連についての研究論文はこちらをご覧ください。このテーマはまだ結論が出ていない問題ですが、トラウマ的な出来事一般と境界型人格障害に関連があることは、ほぼ間違いないという流れになっており、臨床で実際の患者さんを診た経験とも矛盾しないので、文献のデータともあわせて、私も関連はあると確信しています。
ただし、トラウマ的な出来事の中で特に性的虐待との関連が強いかどうかは、まだまだ議論のあるところです。私もこれは難しいと思っています。その大きな理由の一つは、性的虐待というものは、それが実際どのようなものであったか、さらにいえば実際にあったかどうかも、確認することが極めて難しいからです。この【1111】にもそれが如実に表れています。つまり、一方は虐待であったと主張し、他方は虐待ではなかったと主張するというものです。このように双方の主張が食い違うのは、性的虐待に関しては、ごく普通のことです。
年の離れた兄が、妹に対して性的行為を行ったのであれば、それは虐待に違いないではないか。そう思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかしそれは単純すぎる考え方です。PTSDの図書室にも紹介した『近親姦に別れを』に、以下のような記述があります。
「近親姦のうちいくつかに痛みは伴っていない。ほとんどの近親姦的状況には、楽しい面がある。愛と忠誠心が含まれていることがある・・・。近親姦には相互的満足がある場合すらある。」
これは臨床的な事実です(関連として【0995】もご参照ください)。このような事実の理解なしでは、近親姦(および、家庭内のいわゆる性的虐待)の理解にはたどりつけません。被害者は気の毒であり、悪い加害者を罰しなければならない、といった、マスコミ的というか、正義の市民運動的というか、とにかくそうした一面的な考え方では何の解決にもならないのです。
この回答の冒頭に、【1111】のメールの内容は信頼できると判断していると書きました。その理由は、事実として書かれている内容が、臨床でよくある事例に一致しているからです。妹さんとの関係についても、上のような理由で、質問者の主張に矛盾はありません。
話がややそれました。
十代当時のあなたと妹さんとの性的な行為がどのようなものであったか、それはそれで重要ですが、それがどのようなものであれ、妹さんの境界型人格障害に結びついた可能性はある、だから私は「性的な行為との関連は、あるかもしれません」とお書きしました。「かもしれません」といっても、「ある」可能性の方が強いのは、先に紹介した文献からも読み取れる通りです。
けれども、だからといって、裁判という場で、性的行為と境界型人格障害に因果関係があると判断されるかどうかは全く別の話です。
両者の関係についての研究論文が最近多数あるということは、逆にいえば、両者の関係はまだ確立されたものではないということです。少なくとも境界型人格障害の定義の中に、トラウマや虐待は一切記されていません。医療にかかわる裁判では、その時代の標準的な医学的知識・技術に照らし合わせて判断されるのが常ですので、現在専門家の間でも議論となっている、虐待と境界型人格障害との関連が、裁判で最終的に採用されることはないと思います。また、(あり得ないと思いますが)、仮に採用されたとしても、「一定の素因を持った人がトラウマを体験すると境界型人格障害につながる」というのが、推定される結論ですので、トラウマだけが原因となって境界型人格障害になるということはないというのが有力な見解と考えて間違いないでしょう。
また、それ以前の問題として、性的虐待があったかなかったかというのが当然ながら重要な点です。
あなたと妹さんの間にどのような行為があったのか、これを検証することはもはや不可能であるのは言うまでもありません。そして当事者の言い分は食い違っている。このような場合、一方の主張がよほど信頼できないものでない限り、他方の主張だけをもとに判決が下されることはあり得ないでしょう。そしてあなたの主張、すなわち性的行為はあったが虐待ではなかった、という主張は、先に述べた通り、臨床的な事実として全く矛盾はありませんので、あなたの主張が信頼できないとする根拠はありません。
そして同時に、妹さんの主張が信頼できないとする根拠もありません。けれども、過去の離婚の裁判において、妹さんが完全に虚偽の主張をしたという事実(慰謝料ゼロ、養育費ゼロという結末からは、妹さんの主張は完全に虚偽であると裁判所が判断したことは明らかです)からは、今回も自分に有利な方向に持っていくために嘘をついている可能性は高いと言えると思います。
4. PTSDの裁判
PTSDの裁判をめぐる議論は大量にあります。PTSDのページにもお書きしたように、もともとPTSDが訴訟から生まれた概念ですから、これは宿命とも言えるでしょう。
先にお書きしたとおり、妹さんはPTSDではありませんので、PTSDの裁判の動向は無関係と思われるかもしれません。
けれども、本来からすれば、PTSDだから賠償せよという裁判においては、PTSDという診断がつくかどうかがポイントではなく、問題となっている症状が、トラウマ的な出来事を原因として出てきたものかどうかがポイントであるはずです。
『PTSD裁判の動向と問題点』 (判例タイムズNo.1138: 2004.2.15.)にも、以下のような記述があります。ある判例の引用です。
「原告の精神的傷害については、厳密な判断基準に基づいて、原告がPTSDに罹患したか否か、罹患したとしても既に治癒したか否か、更には症状が固定したとして後遺障害の程度はどの位かなどといった諸点の検討を行うことは本件において必須といえず、むしろ損害の算定に当たっては、原告の症状がいかなるものであり、どのような精神的打撃を被ったかという事実を端的に考察することに焦点を置くのが相当である。」
これはいわば「PTSD認定回避判決」ともいえる、この判決の詳しい批評は後日としたい、とこれを引用した論文には記されていますが、私はこれは実に的確な判決だと思っています。そもそも医学の診断基準を、法的な判断にそのまま適用するのはおかしいと私は考えるからです。
5. 総合的にみて、これは典型的なパターンです
長くなりましたので、いったんまとめてみます。この【1111】で生じている内容は、
「境界型人格障害の人にしばしば見られる、自己を正当化した他人への攻撃。そこにお助けおじさんが加担し、話が大きくなっている」
とまとめることが出来ます。ここで「他人」が実兄であり、「お助けおじさん」が実父であることを除けば、精神科の臨床では実にありふれたパターンといえます。
6. 質問項目にお答えします
(1) こういうような症状もあるとして信頼できるのでしょうか。
「お答えします」と言ったばかりですが、この質問は意味不明でお答えできません。
症状ということだけに関していえば、妹さんの症状は境界型人格障害の症状です。ご質問の意図が、「こういう症状があり得るか」ということであれば、あり得る(境界型人格障害の症状)が答えになります。「こういう症状はPTSDにあるのか」ということであれば、そもそも妹さんはPTSDではないというのが答えになります。
(2) 病院(精神科)等で本当にはっきりさせられるのでしょうか。診断を疑う訳ではないですが、嘘は分かるのでしょうか。たとえば、妹本人は「フラッシュバック等がある」「夜中、部屋で誰か後ろにいる気がする」と言っていますが、こういったものも医師は正誤をつけられるものでしょうか。
この二つの症状は、解離の一種と解釈でき、境界型人格障害では解離はしばしば合併しますので、妹さんにこのような症状が見られても矛盾はありません。
妹さんが精神科を受診され、このような症状を訴えた場合、精神科医はあまり疑いは持たないでしょう。医療は患者さんを救うために行うものですから、理由なく患者さんが嘘をついているなどと疑うことは、特に理由がない限りはしません。したがってご質問の「嘘は分かるのでしょうか」については、通常の診療では、そもそも訴えの真偽を疑うようなことはしない、よって、分かるも分からないもない、が答えになるでしょう。
けれども裁判になれば話は別です。主治医は患者さんの味方ですから、主治医の証言は公平ではあり得ません。したがって、裁判となれば、主治医とは別の医師に鑑定が依頼されることになるでしょう。その鑑定医が嘘を見抜けるかどうか。これはその鑑定医の技量によって決まりますが、少なくとも、本人の主張だけを根拠に判断することはあり得ないでしょう。
(3) 診断書が発行されている場合、それが5年前でも信用するべきでしょうか。
@ まず、診断書が発行されているかどうか確認しなければ何を論じても意味がありません。裁判になれば発行の有無は確認できるはずです。
A その診断書にPTSDと記されていたとしても、それは上記1. の理由で誤診です。
B もっとも、診断名はどうあれ、苦悩する人々を救うのが医療というものですから、厳密な診断基準(つまり、上記のようなトラウマの定義)にとらわれず、一定の症状と、ある程度のトラウマ的な出来事があれば、PTSDと臨床的には診断するという立場も間違いとはいえません。けれども、事が裁判のような争いとなればまた話は違ってきます。たとえば『PTSDの診断と賠償 --- 臨床医によるPTSD診断と賠償及び補償の留意点』(黒木宣夫著、自動車保険ジャーナル、2003年)には以下のように書かれています。
「医師の臨床上で行った診断をそのままスライドして、損害賠償の分野でも同様な判断として用いることは間違いである」
私もその通りだと思います。
7. 訴訟を受けて立つべきです
長くなりましたが、結論は冒頭にお書きした通り、あなたは訴訟を受けて立つべきです。訴訟になれば、第三者の医師が妹さんの鑑定を行うことになるでしょう。その結果は、細部はともかく、基本的にはここに私が記したような結論になるはずです。
元は私の過ちですから犯した責任が明確にされるのは当然のこと、全て正面から向き合う所存ですが、それが嘘混じりでは納得が出来ません。
その通りだと思います。あなたに非がないとは言いません。しかしそれは当然ながら事実に基づいた部分のみに関してです。裁判ではっきりさせることが最善だと思います。