精神科Q&A
【1091】うつ病からの回復期に自信を取り戻そうとあせっています
Q:36歳男性です。長文になりますがお許しください。私のうつ病の状態についての経緯は以下のとおりです。
・一昨年4月に職場が異動となるが、仕事の内容が慣れない・上司の判断で行った仕事の責任をとらされる等のことが重なり、(仕事量自体はそれほど多くなかったが)精神的なストレスを感じていた。
・同年10月頃から、突然原因不明の頭痛が始まる。突発的なものであり長続きしないが、頭痛のときは何も手につかなくなる。内科を受診するが原因がわからない(緊張性頭痛では?と言われる。MRI検査等を行うも全く異常なし)。
・昨年4月になり、2年目だがベテランの扱いをされ、ストレスが増大。上司から(2週間はかかる仕事を3日で仕上げるように等)無茶な要求が増える、外部との連絡調整を(上司が全くせず)全てさせられる等の負担が増大。頭痛がひどくなるとともに、精神的な疲労感や早期覚醒も出てきた。
・同年6月、自分で限界を感じ心療内科を受診。特段の病名は告げられないまま、スルピリド50mgとジアゼパム2mg(各1日3回)、睡眠薬としてベンザリン5mgを処方。その後隔週で通院を継続。(この頃は「つらかったら診断書書くから」程度に言われていた。)
・同年7月、仕事で再度上司から叱咤を受け(上司の判断で行った業務)、抑うつ感がひどくなるとともに涙が止まらなくなり(通常の通院日でなかったが)受診し、ルボックス25mg(食後3回)を追加で処方される。また睡眠薬としてマイスリー5mgを処方。
・上記のことは上司に伝えてあったが、仕事の量的なものは軽減してもらっていたものの質的なことの軽減はされず、上司の尻拭い的な仕事が続いた。今年2月になり、忙しさが一段落ついたこともあり、一週間病休(抑うつ状態の診断)を取得するも、状況は改善せず。
・4月になり別の職場へ異動。3月頃は(異動希望を出していたこともあり)調子がよかったが、いざ4月になると「本当にこの職場でやっていけるのだろうか」という不安が増大。またこの頃より朝起きられない、朝起きても職場へ向かえない等の理由で、週に1度は休んでしまうようになる。休日はほとんど寝て過ごす状態。また、職場ではいつも緊張していて気が休まらない時期であった。仕事へのとっかかりが非常に遅くなり、決断をするのに非常にエネルギーを要するようになってきた。
この頃家庭内でもイライラすることがあり、首吊りの真似事のようなことを数回してしまう。
・この間ずっと通院継続し服薬していたがいっこうに改善の兆しが見られないこと、診察時に「頑張れ」と言われて落ち込んでしまったことをきっかけに、今年5月から転院。転院先では「中〜重度のうつ病」と診断され、直ちに休むよう指示を受ける。(セルシン2mg×3回、アビリット50mg×2回、パキシル20mg×1回、睡眠薬としてテトラミド10mgとマイスリー5mg処方)その旨上司に伝え、そこから(5月下旬〜)休暇中。ただ、職場ではうつに関する理解はあまりない様子で「医者が言うのなら(休むのは)仕方ない」「一刻も早く治して職場復帰してくれ」というようなことを言われる。
・休暇中、初めの頃はほとんど布団から出られなかったが、最近は興味のあることはある程度できるようになるとともに、短時間・近距離の外出ならできるようになった。(現在の)主治医からは、職場へ行ってみる、(擬似職務として)仕事の真似事のようなことをやってみる、短時間勤務から職場復帰する等の指示を受けている。パキシルは段階を経て(20mgを3週間、30mgを4週間)現在は40mg服用している。
こういった状態で、病状の回復は少しずつ自覚できるようになっていますが、まだ職場復帰については自信がもてず、焦りが先行している状況です。有給の病休があと1ヶ月とれるので、自分としては目一杯休暇を取得し治療に努めようと考えています。
先生にお聞きしたいのは、
1)うつ病の回復に伴い、職場復帰への自信は自然と涌いてくるものなのでしょうか。それとも、自信が出てくるように何らかの努力をすべきなのでしょうか。
2)現在ある焦りの気持ちは、病状回復とともになくなっていくものなのでしょうか。
3)夏休み、家族で(自分のリハビリを兼ねて)旅行を計画しているのですが、旅行により再度悪化する可能性はゼロではないと思います。先生が私の主治医なら、私の現状における旅行についてはどのようにお考えですか?(主治医からは「気晴らしはやって構わない(段階である)」という判断はいただいています)
4)私の周りにも、けっこううつ病になった友人たちがいますが、彼らと比べると私の仕事量はずっと少ないのです(減らすような工夫はしていますが)。
仕事の忙しさとうつのかかりやすさについては比例するものなのでしょうか。
(このことを考え、自分は仕事が少ないのにこうなったのだから擬態うつ病ではないかと考えた時期もあります)
失礼なメールで大変申し訳ありません。最後まで目を通していただき、ありが
とうございます。
林:
1)うつ病の回復に伴い、職場復帰への自信は自然と涌いてくるものなのでしょうか。それとも、自信が出てくるように何らかの努力をすべきなのでしょうか。
まだ職場を休んでおられる段階では、「努力」はあまりしないほうがいいでしょう。生活リズムを整え、体力の回復を図る、努力するとすればこの程度にとどめるべきです。
2)現在ある焦りの気持ちは、病状回復とともになくなっていくものなのでしょうか。
なくなっていきます。
3)夏休み、家族で(自分のリハビリを兼ねて)旅行を計画しているのですが、旅行により再度悪化する可能性はゼロではないと思います。先生が私の主治医なら、私の現状における旅行についてはどのようにお考えですか?(主治医からは「気晴らしはやって構わない(段階である)」という判断はいただいています)
うつ病の回復期に、どの程度の気晴らしをすべきかは、ケースバイケースであり、難しい問題です。旅行が気晴らしとなりプラスに働くことは期待できる一方で、あなたが心配されているように、旅行をきっかけにして再度悪化する可能性も否定できません。ここは主治医の先生のご判断を尊重すべきでしょう。つまり、
主治医からは「気晴らしはやって構わない(段階である)」という判断はいただいています
ということであれば、旅行に行ってさしつかえないと思います。ただし、逆にストレスとならないよう細心の注意が必要です。ご家族を連れての旅行となると、あなたに何らかの責任がかかることは避けられないでしょう。今回の旅行は奥様に主導権を取っていただくような工夫が必要です。つまりはご家族の理解が鍵ということになります。
4)私の周りにも、けっこううつ病になった友人たちがいますが、彼らと比べると私の仕事量はずっと少ないのです(減らすような工夫はしていますが)。
仕事の忙しさとうつのかかりやすさについては比例するものなのでしょうか。
(このことを考え、自分は仕事が少ないのにこうなったのだから擬態うつ病ではないかと考えた時期もあります)
うつ病に対するあなたのこの認識は完全に間違っています。
本来のうつ病は、きっかけがないか、あったとしても些細なきっかけで発症するものです。仕事が多いというようなはっきりしたストレスがあれば、ある程度落ち込むのは自然な反応であって、病気ではありません。
ですから「仕事が少ないのにこうなった」という場合には、擬態うつ病の可能性がむしろ低くなります。逆に仕事が多いとその度に調子をくずすほうが、擬態うつ病の疑いを強めることになります。
なお、あなたのメール全体からみて擬態うつ病らしい点があるとすれば、それはそこここに他罰的な記載があることを指摘できます。すなわち、
上司の判断で行った仕事の責任をとらされる等のことが重なり
上司から(2週間はかかる仕事を3日で仕上げるように等)無茶な要求が増える、外部との連絡調整を(上司が全くせず)全てさせられる等の負担が増大。
職場ではうつに関する理解はあまりない様子で「医者が言うのなら(休むのは)仕方ない」「一刻も早く治して職場復帰してくれ」というようなことを言われる。
というような記載です。
しかし、これは「強いて言えば」擬態うつ病らしいと「言えないこともない」というレベルであり、やはり総合的にみてあなたはうつ病だと思います。
その後の経過(2007.12.5.)