精神科Q&A

【0998】統合失調症と思われる妻の受診について


Q: 結婚して10年になる妻(30代後半)のことでご相談なのですが、妻は1年半ほど前に精神科に入院したことがあります。

入院する半年ほど前に、それまで住んでいた所から他県へ引越しをしたのですが、そのころ妻から「街で見ず知らずの人に中傷された」、「誰かに聞かれているような気がする」などの訴えがあり、最初は単なる聞き違いや思い違いだろうと思い、「そんなわけないよ」ときっぱり否定していました。また、食事の量が極端に減り、就寝時間も以前より遅くなるなどの変化もあったのですが、「なれない土地で疲れているのだろう」と思い、私が休みの日には気晴らしにドライブに行ったり、一緒に買い物に行ったりして「そのうち落ち着くだろう」ぐらいにしか思っていませんでした。

しかし、だんだん非現実的な、たとえば、通りすがりの人から知りえるはずもないような内容で中傷されたとか、家での会話が実際に誰かに筒抜けになっているなどの訴えが強くなり、夜、寝床に入ってからも「だれかが話しかけてくる」、「実家の母親の叱る声が聞こえる」などあきらかに幻聴と思われるような訴えが多くなってきました。

そのうち、テレビの音や換気扇の音などを極端に嫌がるようになり、家の内外を問わず、たえずなにかに「ウン、ウン」と返事をしていたり、話しかけても要領を得ない返事が返ってきたりといったことが何日か続いたある日、とうとう私の声にほとんど反応しなくなってしまいました。そして”誰か”たちと会話をしていたかと思うと、突然「死ぬ!」と包丁を持ち出し、私一人では止められない状態になってしまい、救急車を呼び、そのまま入院をしました。

入院してからは、薬の影響なのか2日ほど眠り続け、まったく動けず、会話もできず、1週間ぐらいしてから徐々にポツリポツリと会話が出来るようになり、ゆっくりと歩けるようになってきました。本人はすぐに「家に帰りたい」と行っていたのですが、食事をまったく摂ろうとしないので、お医者さんから「とにかく食事を摂らないとだめ」と言われ、さらに1週間ぐらいたってどうにか会話が出来る程度になってから退院しました。そのときのお医者さんの説明は、「極端に食事と睡眠が減って、脳に栄養が足りなくなっていた。」という簡単な内容で、いちおう「うつ病」という診断でした。

退院後、妻といろいろ話してみると、いろいろな”声”に「ご飯を食べてはいけない」「旦那にはもっとふさわしい相手がいるのだから、お前は死ななければいけない」などと命令されていたそうです。その後も”声”は聞こえるらしいのですが、「こんな声がしたけど現実の声じゃないんだよね?」と私に聞いてくるようになり、多少は客観的に考えることが出来ているのかなと思いました。結局半年ほどして、「入院していたいやな記憶とかもあるので、実家のある○○県に帰ろうかと思う」と言い出し、現在はそれぞれアパート暮らしをして、週末は私が妻のアパートへ帰るようにしています。

その後、幻聴もほとんど聞こえなくなり安心していたのですが、最近また幻聴が聞こえると言われ、うつ病の入門書のようなものを数冊買って読んでみました。ところが、どの本にも幻聴や幻覚などの症状は載っておらず、それ以外もどうも妻の症状と合致しないため、ホームページなどで探してみると『統合失調症』の症状があまりにもあてはまるということに気づきました。

冷静にさかのぼって考えてみると、「結婚当初はヒステリックに泣いたり怒ったり、逆にやけにはしゃいだりすることが多かった(ここ数年はそうでもない)」、「昔から、隣の人がうるさい、悪口をいわれた、程度のことはよく口にしていた」、「戸締りや、何かのフタがちゃんとしまっているかなどを何度もしつこく指差し確認する(これは数年前から)」「急に仕事を始めたかと思うと、人間関係がうまくいかず疲れきってやめてしまったりを何度か繰り返している」など、いろいろなことが「そういえば」と思えてきます。知り合う以前や、子供時代の妻の性格はわからないので、どこまでが本来の妻の性格で、どこからが何らかの病気の症状なのか判断がつきません。

この相談をしている時点では、昼間友達と食事に行ったり、自分から街へ出てショッピングをしたり、普通にテレビをみて「この番組がおもしろかった」などと、わりと落ち着いているようで、特に平日私が一緒に居てやれないときでも、まめに電話などしていると症状も出にくいような気がするのですが、やはり病院へ行ってきちんと診てもらうべきなのでしょうか?また、その場合本人に「統合失調症かもしれないので精神科の病院へ行ってみよう」と言ってしまってよいのでしょうか?本人は以前「うつ病」と診断されたことについてはそれなりに認めており、「直ればいいなあ」程度には受け入れていますが、進んで通院しようとも考えていないようです。 


: はじめは聞き違いかと思われる程度の被害妄想であったものが、明らかな幻聴も認めるようになり、さらにはその幻聴との対話を経て、ついには突発的な行動に至り、入院。統合失調症(精神分裂病)を治療せずに放置した場合の典型的な経過といえます。
発症はあなたの推定どおり、かなり以前にさかのぼっているようです。

突然「死ぬ!」と包丁を持ち出し、私一人では止められない状態になってしまい、救急車を呼び、そのまま入院をしました。

入院治療を受けられることになり、症状が回復し、幸いでした。「お前は死ななければいけない」という幻聴もあったとのことですので、非常に危ないところだったといえます。

統合失調症の医学部講堂で説明したとおり、このように最初の症状が治療によりおさまるところまではどのケースでも大体予想されるところです。そしてそこからの経過は様々です。この【0998】では、

「こんな声がしたけど現実の声じゃないんだよね?」と私に聞いてくるようになり、多少は客観的に考えることが出来ているのかなと思いました。

この記載からは、病識が出てきているようですので、少なくともこの時点までは良好な経過であったといえるでしょう。
しかし、そのあとの対応は残念ながら適切とはいえません。

結局半年ほどして、「入院していたいやな記憶とかもあるので、実家のある○○県に帰ろうかと思う」と言い出し、現在はそれぞれアパート暮らしをして、週末は私が妻のアパートへ帰るようにしています。

このように、一人暮らしをさせるというのは、統合失調症の回復途上の時期では適切ではありません。生活を一人でやっていかなければならないというストレス、さらには服薬がつい不規則なるというのがよくある問題です。
 いや、そもそも退院後に薬をお飲みになっていたのかどうかが、このメールの記載からは不明です。

やはり病院へ行ってきちんと診てもらうべきなのでしょうか?

という記載からすると、もしかして受診もせず、薬もお飲みになっていなかったのでしょうか? だとすれば再発するのはほとんど当然のことです。
いずれにせよ、なるべく早く病院に行くべきです。

その場合本人に「統合失調症かもしれないので精神科の病院へ行ってみよう」と言ってしまってよいのでしょうか?

精神科では、病名をどう告知するかも治療の重要な一部です。特に統合失調症では、病識のないことが多いので、本人への説明は特に慎重を要するところです。【0919】などもご参照ください。この【0998】のケースでは、現時点ではご本人はうつ病と考えておられるので、とりあえずはうつ病の治療という名目でもいいので、まずは受診することが第一です。受診して治療を受けなければ、早晩以前と同じ状態になるでしょう。その際、前回と同じように何とか入院に持っていけるかどうかまではわかりません。前回は幸運だったといえます。幸運が次もあるとは限りません。悪化する前に受診させてあげてください。



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