精神科Q&A
【0975】私は擬態統合失調症なのでしょうか
Q: 26歳の男性です。大学卒業後、無職です。
大学2年のときから精神科にかかっております。
最初は授業の際隣の学生の視線が怖かったりといった軽い症状だったのですが、それがしばらくしてから人の声で「自殺しろ」とか「毒入れるぞ」「殺す」といったものが頭の中に聞こえてくるようになり、自分の思考が他人に聞き取られているような気がして、主治医に相談したところ、「治療の方針を変えましょう」ということでジプレキサ10mgからはじめて最初の症状はまず治まりました。
その後、お薬がセレネース、セロクエルの組み合わせに変わったり、休学・留年を繰り返しつつ症状は安定したり、ふとしたストレスで再発したり(やはり声が聞こえるといったもの;その際電波は入ってきませんでした)といったことが繰り返されて経過したのですが、大学に復学してから、
・周りから電波で命令されて、紙に意味不明なことを書いたりする
(内容的には、自分が宗教の教祖になって世界を統べるようなことや、まったく日本語として通じない内容などです)
・「人を殺せ」「自殺しろ」というお告げが聞こえてくるようになった
・学校の図書館に「これから人を50人殺します」という電波の内容を書き綴ったA4大の紙を数10枚バラまいたりした。
・バスジャック少年や酒鬼薔薇少年の記事に「異常に」固執し、崇拝している。
・自殺願望が絶えずある。
私も日々頭への電波の入力や、インターネットへの意味不明な文章の書き込みなどについて相談する人がなく、主治医のみが唯一頼れる人物です。
(私自身は上記のことは異常とは思っていませんでした。今でも、といった方がいいかも知れません)
一方で自殺しなくてはと思いつめて、ビルの屋上から飛び降りる光景や電車に飛び込む様子が頭の中でぐるぐる回転しているのがずっと続いています。
そういった症状が出てきて、主治医に「1週間くらい学校を休んでください。私がそう言っていたと ご両親に言ってください」といわれ、そのとおりにしようと思ったのですが、両親はこれ以上休むのは許容できないと言って、結局3年次で退学してしまいました。
それ以来、私は家にこもるだけの怠け者として白い目で見られています。
今からでも大学編入し、無理にならない範囲で勉強は続けたいのですが。
長くなりましたが、以下質問です。
1) 今日に至るまで自分の病名を直接聞いていないのですが、私は統合失調症でしょうか?
それとも「擬態統合失調症」でしょうか?
2) ここ最近自分で言ったことを何事も継続したためしがないと指摘されるのですが、くじけやすいのは病気のせいでしょうか?それともただの怠けでしょうか?
主治医からは「怠けではありません」と言われたのですが、なかなか両親の理解は得られません。
3) 両親はただのノイローゼじゃないかなどと言ったりして、病気のことについて分かっていない、分かろうともしません。いつもそのことで口論になります。私はそもそも病気ではないのでしょうか?
4) 症状のゆれがあること、とくにゆり戻しでまた以前の声が聞こえたり、変な考えが出るということについて両親が治療内容に不信の念を抱いているのですが、私としては現在の主治医にもう3年近くかかっていて信頼しているので、このまま治療を続けていったほうがいいと思っています。
5) 今の主治医に関しては、両親は「無理しないように、オーバーワークにならないようにと念仏のように言うだけで、社会復帰についてはなにも考えてくれやしないし、所詮他人事と思っているんだから、そんな医者をあてにするべからず」という風に一致してしまっているのですが、どうでしょうか。
僕に「無理しないように、オーバーワークにならないように、身の回りのことから」
とアドバイスしてくれているのは、他人事と思って突き放されているのでしょうか?
現在の処方は朝昼夕寝る前合計で、
リスパダール4mg
セレネース6mg
アキネトン4mg
ハロマンス100mg/月1回注射
です。
なかなか主治医に面と向かっていいにくい質問でもあり、
こうして林先生にメールした次第ですが、どうかよろしくお願いします。
林:
1) 今日に至るまで自分の病名を直接聞いていないのですが、私は統合失調症でしょうか?
それとも「擬態統合失調症」でしょうか?
あなたは統合失調症だと思います。
最初は授業の際隣の学生の視線が怖かったりといった軽い症状だったのですが、
このようなことが統合失調症の初発症状であることはよくあることです。
それがしばらくしてから人の声で「自殺しろ」とか「毒入れるぞ」「殺す」といったものが頭の中に聞こえてくるようになり、
統合失調症に典型的な、被害的な内容の幻聴です。
自分の思考が他人に聞き取られているような気がして、
思考奪取と呼ばれる、これも統合失調症に特徴的な症状です。
主治医に相談したところ、「治療の方針を変えましょう」ということでジプレキサ10mgからはじめて最初の症状はまず治まりました。
抗精神病薬による適切な治療による回復。統合失調症の医学部講堂にお書きしたとおり、典型的な経過です。
休学・留年を繰り返しつつ症状は安定したり、ふとしたストレスで再発したり(やはり声が聞こえるといったもの;その際電波は入ってきませんでした)といったことが繰り返されて経過したのですが、
最初の症状が回復した後の経過は様々ですが、あなたのように、ストレスで再発することもしばしばあります。以後の症状も典型的で、
(私自身は上記のことは異常とは思っていませんでした。今でも、といった方がいいかも知れません)
このことから、まだ病識が不十分であることが読み取れます。
それ以来、私は家にこもるだけの怠け者として白い目で見られています。
上記、現在は陰性症状が前景と言えますが、その一方で、
一方で自殺しなくてはと思いつめて、ビルの屋上から飛び降りる光景や電車に飛び込む様子が頭の中でぐるぐる回転しているのがずっと続いています。
このような症状も残っているわけですから、社会復帰は慎重に考える必要がある段階といえます。
2) ここ最近自分で言ったことを何事も継続したためしがないと指摘されるのですが、くじけやすいのは病気のせいでしょうか?それともただの怠けでしょうか?
主治医からは「怠けではありません」と言われたのですが、なかなか両親の理解は得られません。
この問いに対する回答は1)に記したとおりです。怠けとははっきりと違うものです。
3) 両親はただのノイローゼじゃないかなどと言ったりして、病気のことについて分かっていない、分かろうともしません。いつもそのことで口論になります。私はそもそも病気ではないのでしょうか?
症状のゆれがあること、とくにゆり戻しでまた以前の声が聞こえたり、変な考えが出るということについて両親が治療内容に不信の念を抱いているのですが、私としては現在の主治医にもう3年近くかかっていて信頼しているので、このまま治療を続けていったほうがいいと思っています。
1) 2) にお書きしたとおりで、あなたは病気です。今後の良好な経過のためには、ぜひともご両親の理解がほしいところです。ご両親はそもそも病気を理解しようとしておらず(おそらく統合失調症に対する偏見もあるのだと思います)、主治医への不信はむしろそれによるもののように思えます。あなたのお考えのとおり、現在の主治医の治療を受け続けることを私もお勧めします。
4) 今の主治医に関しては、両親は「無理しないように、オーバーワークにならないようにと念仏のように言うだけで、社会復帰についてはなにも考えてくれやしないし、所詮他人事と思っているんだから、そんな医者をあてにするべからず」という風に一致してしまっているのですが、どうでしょうか。
僕に「無理しないように、オーバーワークにならないように、身の回りのことから」
とアドバイスしてくれているのは、他人事と思って突き放されているのでしょうか?
突き放されているのではありません。1) にもお書きしたとおり、まだあなたの病状は不安定です。このような時期にあせって社会復帰を試みるのは良い結果になりません。
「無理しないように、オーバーワークにならないように、身の回りのことから」
というのは、現在のあなたのためには最も適切なアドバイスだと思います。この先生の指示に従ってください。ご両親にも、偏見を捨て、あなたの病気という現実を直視することを求めたいと思います。
その後の経過(2007.6.5.)