精神科Q&A
【0924】電気けいれん療法について、主治医との見解の相違への対処 (【0895】の経過)
Q:
【0895】電気けいれん療法か薬物の増量かで質問を取りあげていただきました脳外科医(36歳男性)です。
私の質問が採用されるかどうかわからなかったので、林先生から回答をいただく前に、主治医にも並行して相談しました。
主治医の見解は以下のとおりでした。
1)電気けいれん療法というのは、再発率が高いこと
2)うつ病の治療としては非特異的であり、また治療法としては「悲惨なもの」であること
3)電気けいれん療法が非特異的な療法であるが故に、その後三環系の抗うつ剤が開発されたという経緯があること
4)「あなたのような人(来院もできるし、食事も取れているしといった"最低限人間が生命を維持する行動が取れている人")には、私(主治医)としては電気けいれん療法はしたくない(それでも、主治医は現在までのキャリアの中で、周囲の医師とくらべて電気けいれん療法を行ってきたほうだとおっしゃいます)。
5)もし電気けいれん療法をどうしてもやりたいのならば、医師を変えてもらうしかない(「患者が電気けいれん療法を希望していますので、宜しく施術下さい、と紹介状をかいたところで、それをはじめからやりたがる医者なんていません」)とのことでした。
その後の経過ですが、ルジオミール30mg/dayからルジオミール75mg/dayに増量し4週間がたち、若干の変化(たとえばジムにいけるようになったことなど)はあります。そういう意味では、治療に反応しているとも言えます。しかし身体的な負荷を考えると、これ以上の薬物の増量は耐えられないのではないか、と感じています(事実おそらく副作用ではなかろうかと考えられますが、心電図上でも軽度の異常が認められています)。
林先生のおっしゃったことで「長期間休んでいることによる二次障害」「専門職として長く休んでいることによる影響」というのはまさしく私を苦しめている本体です。そしていまなお相変わらず消えない希死念慮と無気力。
私は、この後クリニックへ行って、「もう少しこのまま様子を見ましょう」といわれるのかと思うと恐ろしくてなりません。
かといって、新しい医師にかかった場合、また最初からやり直すことを考えると、時間的にも、精神的にも、耐えられそうにありません。
先生のHPに「メールでは情報量が少なすぎますので、判断に迷ったときは主治医に従ってください」と書いてあります。これはもっともなご意見だと思います。
ただ、主治医を目の前にして、「自殺するつもりでいます」という言葉がだせず、メールでは書けるといった差異があることは事実です。
私は先生の各種のご回答を拝見している限り、メールのみといった極めて最小限かつほぼ質問者の主観的な情報であるにもかかわらず、非常に明快な示唆をなされていることについて、信頼を寄せています。
長くなりましたが、まとめますと
1)私はどのように行動すればいいのでしょうか?(このまま薬物の追加変更を繰り返し、何年間も人生を無駄にするくらいであれば、利己的で罪深い行為だとは思いますが、もう見切りをつけようかと考えています)
医師を変えるべきなのでしょうか?
2)希死念慮が毎日これほど強い状態なのにもかかわらず、「あなたよりもっと酷い人」という主治医の言葉がでてくる、ということは、私の主治医に対する接し方がまちがっているのでしょうか?(自分の症状について上手く話せないのです。知らず知らずのうちに抑制しているのです。ですから、双方の認識において、若干のブレといいますか、差異があるのかもしれません)
以上長くなりましたが、ご教示いただければ幸いです。
林: 私の回答は基本的に【0895】の通りで、あなたは電気けいれん療法を受けるべきだと思います。
ご質問は1) 2) にまとめられていますが、2) に先にお答えいたします:
2)希死念慮が毎日これほど強い状態なのにもかかわらず、「あなたよりもっと酷い人」という主治医の言葉がでてくる、ということは、私の主治医に対する接し方がまちがっているのでしょうか?(自分の症状について上手く話せないのです。知らず知らずのうちに抑制しているのです。ですから、双方の認識において、若干のブレといいますか、差異があるのかもしれません)
【0895】と今回の【0924】の内容から、あなたの現在の主治医はかなり良い先生であるように読み取れます。精神科医の中にも時おり電気けいれん療法の施行を頑なに拒む医師が存在しますが、あなたの主治医は決してそうではなく、あなたの症状を精密に診断した結果として、電気けいれん療法よりも薬物療法が優ると判断されているようです。ここには確かに、
双方の認識において、若干のブレといいますか、差異がある
ように思えます。
ただ、主治医を目の前にして、「自殺するつもりでいます」という言葉がだせず、メールでは書けるといった差異があることは事実です。
やはりこの差異は非常に大きいです。あなたに希死念慮が強く、またこのまま休み続けていては職業的に今後のキャリアに大きな影響を与えかねないということが、主治医に伝わっていないのでしょう。
しかし、
私の主治医に対する接し方がまちがっているのでしょうか?
このように言えるかどうかはわかりません。あなたの症状が主治医に正確に伝わっていないのは、むしろ主治医の側の診療技術に原因があると考えたいところです。
と偉そうなことを言いましたが、うつ病の方の症状・苦悩を過小評価してしまうことは、残念ながら精神科医(もちろん私を含め)にも少なからずあることです。ですからこのケースでも決して主治医の先生の技術が問題だというわけではないのですが、今はそういう原因論はともかく、あなたの現症をどう改善するかを考えるべきでしょう。そこでご質問の 1) ですが、
1)私はどのように行動すればいいのでしょうか?(このまま薬物の追加変更を繰り返し、何年間も人生を無駄にするくらいであれば、利己的で罪深い行為だとは思いますが、もう見切りをつけようかと考えています)
医師を変えるべきなのでしょうか?
方法は二つあります。一つは医師を変えること。もう一つは、あなたがこれまで言い出せなかった症状(希死念慮を含め)を、今からでも主治医に伝えることです。どちらがいいかは微妙なところで、メールからは判断しかねます。ご自分でお決めください・・・というように、決定を迫られるのは、うつ病のあなたにとっては非常に苦しいことであるのはよくわかりますが、ここはどちらかに決めていただく以外ないと思います。そうすれば明るい道が開けるはずです。うつ病は、治ります。
その後の経過(2005.12.5.)