精神科Q&A
【0915】7年ぶりに突然訪ねてきた友人の様子がおかしい
Q:
私は30歳の会社員(女)です。
昨日、7年ぶりに突然、小学校時代の友人が私の自宅を訪ねてきました。
その友人には毎年年賀状を出すだけ(向こうからは返ってきたことがない)の関係が続いていたので、再会は嬉しかったのですが、本人の様子が明らかに普通ではないように思われました。
突然訪ねてきた理由は、彼女の耳元で「謝肉祭があるから、早く行かないと。小中高時代の友人もみんな来るんだから。」という私の声が、ここ数日に渡って聞こえたからだそうです。私だけではなく、他の同級生の声も何度も聞こえるとのことです。
もちろん、「謝肉祭」など私は全く知りませんし、他に聞こえる声の主とされる同級生ともまったく面識がありません。
その後、久しぶりに会ったのだから、ということで彼女としばらく一緒にいたのですが、会話は殆ど成り立ちませんでした。視線も全く一定せず、常に手を不自然に動かしたり、時々キョロキョロしながら笑っていたりします。突然立ち上がって部屋を歩き回ったりもします。
「そろそろ仕事を探さないといけない」「ICチップってどんなものかわかる?私は頭の中にそれを誰かに埋め込まれているから調子が悪くて仕方ない」「今も同級生の声が聞こえる」などと、殆ど聞き取れないような声で、時々つぶやいているのは分かりました。
それから、彼女の家に行き、彼女のお母さんと話をしたのですが、「あの子は変わってるでしょ。行動も言うこともちぐはぐで。まあ仕事に就けとは言わないけど、長い目で見てやろうとは思うんだけどね」と言い、本人に対して怒ったりはしていないようなのですが、母娘の会話が殆どないため、本人の幻聴?らしきものには気づいていないようです。
ちなみに本人は、学校を卒業したのち、数回仕事に就きましたが、どこでも対人関係で
つまずき、長いところでも2ヶ月と続かず、ただ家で昼夜問わずに寝たり起きたりの生活になってから、7年になるとのことでした。
クラスメイトだったころはとても几帳面できれい好きだったのに、今では無造作に積み上げられた物の片隅に、真っ黒になった寝具にくるまって昼夜寝たり起きたりの生活をしている彼女をみて、私は言葉を失いました。
彼女がまだ仕事をしている頃、数回会ったことはあるのですが、その頃からも「嫌いな同僚が夜中にずっと見張っている」などと、辻褄の合わないことを言っているなあ、と思ったことはあったのですが、単に疲れているのだろう、と思い、そのまま連絡がとれなくなった経緯があります。それから、統合失調症という病気が存在することを知り、もしかしたら彼女はそうだったんじゃないだろうか。もしそうなら、私は彼女が発したサインを見過ごし、放置してしまったんだろうか、とずっと心にひっかかっていました。
そして昨日再会し、おそらくそれは現実だったのだろう、と確信しました。
差し出がましいかもしれませんが、私としては、治療などという大げさなものではなく、ただありもしない声を止めるためだけにでも、一度専門の医療機関にかかってほしいと思うのですが、それをどうやって本人、もしくは家族に言い出せばいいか、わかりません。
身内ならば、同じ症状をもつ人の会や、病院に連れていったりということができるのかもしれませんが、私はただの数年連絡もとっていない同級生であり、どこまで踏み込んだことができるのかどうか、悩んでいます。
ただ、昔は本当に仲良くしていたので、このまま見過ごすことはしたくありません。
メールを書いていて、当方の考えの整理が少しはできたような気がします。
やはり、彼女のお母さんに私の思うことを話し、医療機関にかかることを促すべきでしょうか?
数日以内に彼女の家を再訪してみようとは思っています。
林: この友人の方は統合失調症(精神分裂病)だと思います。
7年ぶりに突然訪ねて来られ、
突然訪ねてきた理由は、彼女の耳元で「謝肉祭があるから、早く行かないと。小中高時代の友人もみんな来るんだから。」という私の声が、ここ数日に渡って聞こえたからだそうです。私だけではなく、他の同級生の声も何度も聞こえるとのことです。
この時点で、幻覚と妄想の存在ははっきりしており、そしてその内容からいっても、統合失調症の診断はかなり確実と言えます。
彼女としばらく一緒にいたのですが、会話は殆ど成り立ちませんでした。視線も全く一定せず、常に手を不自然に動かしたり、時々キョロキョロしながら笑っていたりします。突然立ち上がって部屋を歩き回ったりもします。
統合失調症の方が治療を受けずにいると、このように一見して奇妙な行動が現れることは多いものです。また、この際、たとえ本人が言葉でそうおっしゃらなくても、かなり活発な幻聴があることが推定できます。
なお、上記の行動は、
会話は殆ど成り立ちませんでした。
・・・思路弛緩、あるいは支離滅裂
視線も全く一定せず、
・・・幻視の存在
常に手を不自然に動かしたり
・・・衒奇
時々キョロキョロしながら笑っていたりします。
・・・空笑
と解釈できるものです。
「ICチップってどんなものかわかる?私は頭の中にそれを誰かに埋め込まれているから調子が悪くて仕方ない」
このように、頭の中に何かを埋め込まれて、それによって行動を制御されている、あるいはそこから命令が聞こえる、というのもこの病気では比較的よくある症状です。【0638】の方にも同様の症状があります。【0499】のような訴えも本質的には同じものと言えるでしょう。
ちなみに本人は、学校を卒業したのち、数回仕事に就きましたが、どこでも対人関係でつまずき、長いところでも2ヶ月と続かず、
このようなことは、統合失調症の発症時によくあることです。この時点ですでに幻覚や妄想があった可能性は強いです。
ただ家で昼夜問わずに寝たり起きたりの生活になってから、7年になるとのことでした。
無造作に積み上げられた物の片隅に、真っ黒になった寝具にくるまって昼夜寝たり起きたりの生活をしている
このように、社会での対人関係でのつまずきを繰り返した後、無為・自閉と呼ばれるひきこもりの状態になるのは、統合失調症が治療されずに放置された場合の典型的な経過です。このままではさらに悪化することは目に見えています。
やはり、彼女のお母さんに私の思うことを話し、医療機関にかかることを促すべきでしょうか?
その通りです。この友人の方が早く治療を受けられることを願います。