精神科Q&A

【0888】統合失調症か強迫性障害か


Q私は20代男性で、精神科の先生に統合失調症と診断されたものです。
しかし、私の父(外科医)は、私は、統合失調症ではなく、強迫性障害だと言うのです。つまり、抗精神病薬は必要がなく、薬はやめてもいいと言うのです。私が薬をやめたい理由は、頭がボーッとしてしまい、やる気もなくなってしまうからです。

私には、統合失調症なのか、強迫性障害なのかわかりません。ただ、精神科の先生がおっしゃられたように、20歳のときに、寮に入っていた子からずっと見られているような気がして怒ったことや、電車のプラットホームで視線を感じて、怒りそうになったり、大学の図書館で周りがみんな自分のことを言っているように思えたり、一人暮らしのマンションで隣の人が故意に音を立てているように感じたり、テレビの中の人が自分のことを言っているように思えるといった、典型的な統合失調症の初期症状を感じたことも事実です。

しかし、抗精神病薬のリスパダールを飲んでも、全くその症状は改善されることはなく、暫くこのような症状に悩まされていました。かねてから強迫性障害だと言い張っていた父が、精神科の先生に、ルボックスをだしてもらうように頼んでくれて、前述したような症状は一切なくなりました。リスパダールを出しているヤンセンファーマという会社のHPで、リスパダールとルボックスのようなSSRIを飲むと、強迫性障害に効くという海外の報告例がありました。

私自身、とても戸惑っており、前述したような被害妄想が強迫性障害というよりも、典型的な強迫性障害ではなく、強迫観念が強いために起こった症状なのだろうかだとも思ったりします。

これからどのようにしていったら良いでしょうか。アドバイスをいただけたら幸いです。


: あなたにとって、リスパダールとルボックスの両方が必要なのか、それともどちらか一剤が必要なのかは、現時点ではわかりません。ですから今後は信頼できる精神科の先生に、慎重に薬物の調整をしていただくべきだと思います。

あなたのもっとも知りたいことは、それよりも、あなたが統合失調症強迫性障害か、ということなのかもしれません。しかしその結論を急ぐ前に、以下の説明を順にお読みください。

 強迫性障害と統合失調症は、通常は全く別の疾患ですが、時にどちらの病気なのか診断がつかないことがあります。その多くは【0595】の説明のように、(a) 強迫症状が統合失調症の初期症状の場合か、【0880】のように、(b) いかにも奇異な印象のある強迫症状を呈する場合です。
 これらの場合には、幻覚や妄想のような明らかな統合失調症の症状がなくても、抗精神病薬(リスパダール、セレネースなど)による治療を考慮することになります。強迫性障害の治療薬(たとえばルボックスのようなSSRI)と併用することもあります。

また、(c) 明らかな統合失調症であっても、その一症状として強迫を伴うケースもあります。
この場合は、多くはすでに抗精神病薬での治療が開始されていますが、そこに強迫性障害の治療薬の追加を考慮することになります。

あなたのケース【0888】では、

20歳のときに、寮に入っていた子からずっと見られているような気がして怒ったことや、電車のプラットホームで視線を感じて、怒りそうになったり、大学の図書館で周りがみんな自分のことを言っているように思えたり、一人暮らしのマンションで隣の人が故意に音を立てているように感じたり、テレビの中の人が自分のことを言っているように思えるといった、典型的な統合失調症の初期症状を感じたことも事実です。

というような統合失調症として典型的な被害妄想ではじまっていますので、普通は統合失調症の診断でほぼ間違いありません。

外科医であるお父様は、なぜあなたの診断が強迫性障害であると主張されたのでしょうか。あなたのメールには肝心なこの点についての記載がありませんが、推測としては、(1) メールには書かれていない、何らかの強迫症状があった。または、(2) 被害妄想を、お父様は強迫症状の一つであると解釈された のいずれかと思われます。

(2) であれば、お父様の解釈は誤りです。(ただし、後述しますが、だからといってSSRIを追加するという治療が必ずしも誤りとは言えません)
 一応ここは(1)であった、つまりあなたには、被害妄想以外に何らかの強迫症状があって、その症状はかなり典型的な強迫性障害だったと仮定してみます。

だとすると、それまで飲んでおられたリスパダール(抗精神病薬)にルボックス(SSRI)を追加するのは、治療としてはごく一般的な(とまでは言えないにしても、少なくともしばしば行われる)ものです。上記 (c) のケースに類似しているからです。

いま「類似している」と言いましたが、あなたの経過は一般的な(c)の経過とは重大な違いがあります。すなわち、「抗精神病薬単独では効果がなかったが、抗精神病薬とSSRIを併用することによって被害妄想(及び強迫症状)が消失した」という点です。これは、統合失調症では普通はないことです。

 そこであなたの診断名が問題になります。統合失調症の薬が効かず、強迫性障害の薬が効いた、だから診断名は強迫性障害なのでは? というのが、あなたのご質問のポイントですね。この疑問はもっともだと思います。

 けれども、「抗精神病薬とSSRIの併用が効いた」というのは、診断が統合失調症であっても、強迫性障害であってもあり得ることですので、この経過から診断が何であるかを明言することはできません。ですから結論はこの回答の冒頭に申し上げたとおり、
「あなたにとって、リスパダールとルボックスの両方が必要なのか、それともどちらか一剤が必要なのかは、現時点ではわかりません。ですから今後は信頼できる精神科の先生に、慎重に薬物の調整をしていただくべきだと思います。」
ということになります。

なお、

リスパダールを出しているヤンセンファーマという会社のHPで、リスパダールとルボックスのようなSSRIを飲むと、強迫性障害に効くという海外の報告例がありました。

とあなたが書いておられるように、強迫性障害に対し、リスパダールとSSRIの併用が効果的であるという研究論文はいくつもあり、また私の患者さんの中にもこの併用で初めて症状が消えた強迫性障害の方が何人かおられます。(いずれの方も、それまでに色々な抗うつ薬を試み、どれも無効であったのですが、リスパダールの併用によって著明に効果が見られました)
 ですから、この併用は強迫性障害の治療として十分試みる価値のあるものだと思います。
 ただし注意すべきことは、あなたがお読みになったのは「リスパダールを出しているヤンセンファーマという会社のHP」だということです。つまり、そこに紹介されている海外の報告例そのものは中立な研究であっても、HPで取り上げるのは宣伝を目的としているということです。実際には、あなたがお読みになった報告例のほかに、リスパダール以外の抗精神病薬とSSRIの併用が有効だったという報告例や、逆にリスパダールの副作用で強迫性障害が発症したという報告例さえあります。詳しくは参考文献をご参照ください。



精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る