精神科Q&A

強迫性障害に対する抗精神病薬と抗うつ薬(主としてSSRI)の併用に関する研究論文


Archives of General Psychiatry. 2000 Aug;57(8):794-801. 
A double-blind, placebo-controlled study of risperidone addition in serotonin reuptake inhibitor-refractory obsessive-compulsive disorder.
McDougle CJ, Epperson CN, Pelton GH, Wasylink S, Price LH.

セロトニン系に作用する抗うつ薬にリスパダールを併用することによる強迫性障害への効果を最初に証明した論文です。なおこの論文ではセレネースの併用も有効であったことが示されています。

この後、同様の効果を示した論文はいくつも出ています。もっとも最近のはこれです。

Journal of Clinical Psychiatry. 2005 Jun;66(6):736-43. 
Risperidone and haloperidol augmentation of serotonin reuptake inhibitors in refractory obsessive-compulsive disorder: a crossover study.
Li X, May RS, Tolbert LC, Jackson WT, Flournoy JM, Baxter LR.

上記の二つはいずれも、抗うつ薬にリスパダールまたはセレネースを併用することによる効果を示したものですが、それ以外に、セロクエルやジプレキサの併用の有効性も示されています。代表は以下の2つです。

Journal of Clinical Psychiatry. 2005 Jan;66(1):73-9. 
Quetiapine augmentation in obsessive-compulsive disorder resistant to serotonin reuptake inhibitors: an open-label study.
Bogan AM, Koran LM, Chuong HW, Vapnik T, Bystritsky A.

Journal of Clinical Psychiatry. 2000 Jul;61(7):514-7. 
Olanzapine augmentation for treatment-resistant obsessive-compulsive disorder.
Koran LM, Ringold AL, Elliott MA.

一方、逆に、リスパダールなどの併用(または単独使用)が、強迫性障害を悪化あるいは発症させるという研究もいくつかあります。これはそうした研究の総説(相互比較して検討したもの)です。

Journal of Affective Disorders. 2004 Oct 15;82(2):167-74. 
Do antipsychotics ameliorate or exacerbate Obsessive Compulsive Disorder symptoms? A systematic review.
Sareen J, Kirshner A, Lander M, Kjernisted KD, Eleff MK, Reiss JP.

 なぜ同じ薬なのに逆の作用を呈することがあるのでしょうか。一見不思議なことのようですが、どんな薬でもそういうことはあり得ることです。その説明は、薬の作用メカニズムから始めなければなりませんので省略しますが、実地上の結論からいうと、併用する抗精神病薬(たとえばリスパダール)の量によって、強迫性障害を悪化させるか改善するかが決まるようだということです。ですからもし併用によって悪化した場合は、直ちに併用を中止するのではなく、逆に量を増やしてみることを考慮する必要があると言えます。

 また、統合失調症と強迫性障害は、普通は全く別の病気であるのにもかかわらず、治療薬がこのような効き方をするというのも一見不思議なことです。おそらくその背景には、統合失調症の脳にみられるドーパミン系の変調と、強迫性障害の脳に見られるセロトニン系の変調の、何らかのバランスによって症状が形成されるというメカニズムがあると考えられます。【0595】【0880】のように、統合失調症か強迫性障害かの診断が難しいケースがあるのは、このような事情によるものなのでしょう。



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