精神科Q&A
【0801】15年間、入退院を繰返している姉
Q:
私は35歳の男です。私自身は仕事のため実家からは遠く離れて暮らしているのですが、実家の妹は中学3年の受験前に統合失調症と診断され、30歳の現在まで入退院を繰り返しています。最近また調子が悪く、家族みんなが、疲れ果てています。
妹の場合、調子が悪くなるたびに本人自体のレベルが下がっていると主治医に言われました。また、入院してもかえってレベルを下げるだけだといわれました。
それは私達も感じているのですが、現実には、母も、父も、下の妹(20歳)も、安心して眠れない状態が、もう3ヶ月ほど続いています。
妹は、お金にとても執着していて、自分の年金(1ヶ月7万円弱)をお小遣いとして使っているのですが、渡せばすぐに使ってしまうのもわかっているので両親は日割りにして渡していました。でも、お金がなくなると発狂して親に次の年金から前借をして、何回も続くので両親がダメだと言うと夜中警察に電話をして「お金がもらえないので、自殺する」と言って家までこさせ、警察に言われしぶしぶ両親もお金を渡すことを何回も繰返しています。お金といっても千円か二千円なので、警察の人もそれで気がすむのなら渡したら、とすすめるのですが、家族からすれば幾度となく繰返されるので、金額の問題ではなく、困り果てています。
そのほか、以前入院中に知り合った人にお金を借りたり、無銭飲食して電話で母にお金を要求し、母が注意するとまた「自殺する」と警察に電話したり、キャッチ販売で高価なバッグや服を買ってしまったりします。この調子だとどこかに多額の借金を作りかねないのでは?と家族みんなが考えています。何か対策はないものでしょうか。
暴力すれすれのことも何回もあったようです。自分の思い通りにいかないと、椅子を振り上げたり、包丁を持ち出したりするのです。家族は本気ではないと信じているようですが、恐ろしいことが起こってしまったら、と考えると、私も心配で仕方ありません。しかし、私自身が実家に帰るのは不可能な状況です。
高齢の両親と下の妹ではとても見られる状態ではないので主治医に相談しても「他の患者に影響があるので、入院させられない。短期入院ではただのその場しのぎでもっとレベルを下げるだけなので、後は長期入院しかない。」と言われてしまいました。
でも、長期入院もそこの病院ではさせられないらしく、自分たちで入院先を探さなければいけないようです。両親も長期入院は可哀想とためらっていたのですが、次、何かあったら仕方ないと決断したようです。しかし、姉が入院を拒んでいるので長期入院は無理なんでしょうか?
このままでは、家族全体が壊れてしまいます。
林:
妹の場合、調子が悪くなるたびに本人自体のレベルが下がっていると主治医に言われました。
統合失調症(精神分裂病)の経過は、非常に良いケースから非常に悪いケースまで様々ですが、この方のように、徐々に人格のレベルが下がっていくこともあります。もともとこの病気を一つのまとまった概念としたのはドイツの精神医学者のクレペリンですが、クレペリンは「早発性痴呆」と名づけ、何回か症状の再燃を繰返すうちに、人格のレベルが下がっていくという経過が典型的であるとしました。現在では決してそのようなケースばかりではないことがはっきりしていますが、だからといってそのようなケースが無くなったというわけではありません。残念ながらこの【0801】のケースは、悪い経過の例といえるようです。(もっとも、受けておられる治療内容が不明ですので、はっきりしない点はあります。しかし、適切な治療を受けても人格のレベルが下がっていくケースがあることも確かです)
このような経過の場合には、非現実的な希望は持たず、現実の問題に対処していかざるを得ません。そのために活用すべき法律・福祉・医療があります。
この調子だとどこかに多額の借金を作りかねないのでは?と家族みんなが考えています。何か対策はないものでしょうか。
これに対しては、成年後見制度というものがあります。ご本人には金銭の管理が不能、あるいは困難であることを法的に認めてもらうことができます。そのためには医師の診断書(通常の診断書ではなく、成年後見のための特殊な診断書です)が必要です。
姉が入院を拒んでいるので長期入院は無理なんでしょうか?
医療保護入院という制度があり、ご本人の同意がなくても入院は可能です。【0092】や【0178】をご参照ください。もっとも、入院そのものは可能でも、長期入院が可能かどうかは何ともいえません。【0781】でも触れましたが、現在の日本では、精神科の長期入院は悪とされているからです。その背景には、過去、精神障害者を漫然と長期入院させることが多かったことへの反省があります。ですから現在は、「短期入院 = 善」「長期入院 = 悪」という単純化された考え方が主流になっています。これは総論としては正しいと私も思いますが、現実には長期入院が必要な方もいらっしゃるという事実は否定できません。
なお、妹さんに関して、成年後見制度や医療保護入院の手続きの実際については、保健所に相談されるのがいいと思います。
このようなケースを持たれたご家族の苦労は大変なものがあるとお察ししますが、ご本人にとってもご家族にとっても最善の状態が得られるように、今ある制度を最大限に活用されることを願っております。