精神科Q&A
【0763】境界型人格障害の社員に、会社の健康管理室としてはどう対応すべきか
Q: 私は企業の健康管理室に勤務しております39歳の看護師です。弊社の社員(30代・女性 )の対応についてご相談したくメールいたしました。
私が彼女(Jさん)とかかわるようになったのは1年2ヶ月ほど前からです。最初は、ダイエットの相談ということで来たのですが、過食はストレスも影響するという話から、Jさんの人間関係、結婚、妊娠の悩み相談となっていきました。
Jさんは、私の推察するところ境界型人格障害ではないかと思います。そう推察する根拠としましては
*リストカットの癖がある。
*過食の傾向がある。
*依存心が強く、見捨てられることに過敏に反応する。(職場の同僚の話によると食事の誘いを断っただけで逆上するといったことが多いそうです。)
*他人の評価がころころかわる。(ほめると罵倒の繰り返し)
*仕事中に時々倒れる(意識、バイタルに以上はなし)←上司とトラブルがあると始まります。
*「自分でもうコントロールできない」と泣きじゃくりながら、健康管理室に飛び込み「私がしっかりしなきゃ」「おこらんといて」等大声で泣き叫ぶこと2時間
*あちこちで自分の都合のよいうそをつく←職場同僚の話
以上のような症状があります。
私からは、リストカットの事もあり心療内科の受診を薦めましたが、1年前に1度受診したきりで、その後定期的な治療はしていません。
実は、1年前Jさんは、妊娠・結婚し(このときもすったもんだあったのですが)半年ほど前から産休。育児休暇に入ってしばらく職場を離れていました。
休暇中は2度自分から来室し2時間近く舅、姑、現夫の連れ子の悪口(悪態をつくといったほうがいいでしょうか)を話して帰るという状況です。
そのJさんから復帰したいという申し出があり、対応をいかにするか頭を悩ませております。
職場復帰するまでには、専門家の治療をうけるよう指示しましたが、「子供をみてくれる人がいない」との理由で受診できてはいないようです。
弊社では、育児休暇明けは職場が変わることが慣例となっておりますが、これまでのJさんの状態が管理職内にひろまっており、どこにも引き取り手がないのが現状です。(前職場は、さんざんな目にあっておりますので引き取り拒否です。)
引き取り先の件は、労務に苦労してもらうとして、私が悩んでおりますのは、受け入れ先が決まった際、職場にどう説明するかです。看護師には守秘義務がありますので安全配慮義務上の理由がないかぎり、個人のプライバシーに関することを話すことはできません。
これまで彼女は様々なトラブルを起こしてきましたが
懲戒の対象になるようなトラブルではなく所謂「とてもこまった社員」です。
【0651】にもありましたように、新しい職場で「悪者」をつくらないために またJさんのために職場のモチベーションを下げないためにチームでJさんへの対応を統一することが望ましいと存じます。
しかしプライバシー保護の観点から、どうのように話をもっていけばよいのか頭を悩ませております。
ご多忙な中、大変恐縮ですがご指導いただければ幸いです。
林: 企業の健康管理室のスタッフ、あるいは産業医という立場の方々は、このように患者さんご本人と会社の間のジレンマに悩まれることは多いようです。
私が悩んでおりますのは、受け入れ先が決まった際、職場にどう説明するかです。看護師には守秘義務がありますので安全配慮義務上の理由がないかぎり、個人のプライバシーに関することを話すことはできません。
という、あなたのお悩みはもっともです。
ここには絶対の正解となるような対応法はないと思いますが、何が適切な対応かを考えるうえでは、
何が本人の利益か。
がまず第一でしょう。それから場合によっては、
安全配慮義務上の理由
の内容を、どこまでの範囲と解釈するかにもかかってくると思います。
つまり、Jさんの新しい配属先に対し、この方への適切な対応法を専門家であるあなたが説明することが、ご本人の利益にもなり、また逆に説明しないことが、職場の安全にマイナスになる(「職場の安全」の範囲をどこまでと解釈するかが問題になりますが)ということが、合理的に判断されれば、説明は是非ともするべきだという結論になるでしょう。
具体的な手順としては、配属先のしかるべき人物にある程度の説明をすることが色々な点で望ましいことを、あなたからこの方にまず説明することでしょう。その時点でいかなる説明も絶対に拒否された場合は、残念ながらどうすることも出来ません。逆に同意が得られれば、あとはあなたの説明のテクニック次第ということになるでしょう。
いずれにせよこのケースは、あなたが如何に適切な行動をとっても、万事円満解決になるとは到底思えませんので、多少なりとも状況にプラスになればよいというある程度は開き直った姿勢が必要だと思います。
(なお、ここは現場の医師に相談するというのが本筋ですが、メールの内容から、そちらには精神科医は勤務されていないと推定してお答えしました)