精神科Q&A
【0572】うつ病に加えて朝からお酒を飲んでいる夫に電気けいれん療法を受けさせたいのですが
Q: 41歳の夫とは3年前に結婚しました。結婚してすぐに、夫はうつ病を発症し、私はその後すぐに妊娠・出産をしましたが、結婚以来夫はまったく働きません。うつ病の病院にも通って薬を飲んでいますが、全然効き目がなく、毎日朝からお酒を飲んで家の中にうずくまってため息ばかりついています。私はずっと働いて、赤ちゃんを夫に見てもらっていましたが、自分は結婚に向いていなかったとか、包丁で胸をついて死にたいとかずっといっています。彼は27歳の時も2年間うつ病をはじめて発症して酒びたりで実家にうずくまっていたそうです。私自身、今具合を悪くしたので、夫には何とか働いてもらいたいので、本人も承諾しているので、是非電気ショック療法(電気けいれん療法)を受けさせたいのですが、どこの病院で受けられますでしょうか。一度近くの大学病院にかかった時は、そんなことしなくていいと断られました。しかしそれから2年経ち、私達はもう限界です。なんとかスムースに電気けいれん療法を受けられるいい病院はないものはないでしょうか。
林: お困りの様子はお察しいたしますが、あなたの考え方は間違っていると思います。
本人も承諾しているので、是非電気ショック療法(電気けいれん療法)を受けさせたい
とのことですが、治療法というものは、家族としてぜひ受けさせたいとか、本人が承諾しているとかの理由で選ばれるものではありません。「好きな治療が適切な治療とは限らない」というのは当然のことで、こちらにもお書きした通りです。
あなたのメールの内容を見ますと、あなたのお考えとして、
うつ病が長引いている → 電気けいれん療法に期待
と短絡的に結びついていると思います。電気けいれん療法に限らず、そのような姿勢では適切な治療を受けることは出来ません。まずあなたのご主人の現状に対し、何がもっとも適切な治療であるかを冷静に考える必要があります。
現在までの状態は、
結婚以来夫はまったく働きません。うつ病の病院にも通って薬を飲んでいますが、全然効き目がなく、毎日朝からお酒を飲んで家の中にうずくまってため息ばかりついています。
とのことですが、この文章からは、
(1) まずご主人が本当にうつ病かどうかが不明です。約3年間いまの状態が続いているということになりますが、もしよくもわるくもならず3年間続いているとすれば、どちらかというとうつ病とは考えにくいです。
(2) 仮にうつ病だったとすれば、薬はまず効くものだと考えるべきです。「全然効き目がなく」とのことですが、処方されている薬とその量が不明ですので、はたして適切な薬物療法を受けておられるかどうかがわかりません。うつ病が長引くもっとも大きな原因は、抗うつ薬の量が不十分であることは、うつ病の相談室のp.64以下や、うつ病の医学部講堂に書いたとおりです。
(3) ご主人がうつ病かどうかはともかく、アルコール依存症であることは間違いないでしょう。
毎日朝からお酒を飲んで家の中にうずくまってため息ばかりついています。
という状態では、うつ病の治療よりもまずアルコールをやめる、すなわちアルコール依存症の治療を優先すべきです。うつ病にはアルコール依存症が合併しやすく、その場合はまずアルコールをやめなければうつ病の治療効果は期待できないことは、うつ病の相談室のp.87以下にお書きしたとおりです。
ご主人がうつ病かどうかは不明ですが、今まずすべきことは、アルコールを断つことです。「毎日朝からお酒を飲んで家の中にうずくまってため息ばかりついています」が、3年間ずっと続いているのだとすれば、単にアルコールを断とうとしても難しいでしょう。アルコール依存症の治療を受けることを考えるべきです。
メールには、大学病院を受診して電気けいれん療法を頼んでみたら、
そんなことしなくていいと断られました
と書かれていますが、その際に別の治療法を勧められたのではないでしょうか。
最も適切な治療をお勧めしても、自分(または自分の家族)には、別のある治療しかないと固く信じていて、アドバイスを受け入れようとしない方は時々いらっしゃいます。それでは治るものも治りません。現状を冷静に把握し、適切な治療を受けることを考えてください。
なお、私のサイトではいかなる治療機関の紹介も行いません。理由は【0019】に記載したとおりです。