精神科Q&A
【0553】単なる職場の人間関係のもめごとか、それとも病気か
Q: 私は30代後半の男性で、会社の小さな部署の責任者をしています。
部下の行動の意味がわからず悩んでいますが、「精神科Q&A」にお尋ねするような内容かどうかわかりません。
ただ、私にはこれらのことが「単なる職場の人間関係のもめごと」だけだとは思えないのです。
その部下(仮にF子とします)は、途中入社の32歳の女性で、これまでの経歴ははっきりしません。
私の部署に来てしばらくして妙なことを言い出しました。
「○○課のBさんが私だけを○○扱いしないんです!私には我慢できません。あなたやめるように言ってきてください。あなたはわたしの上司だからその義務があります!」
○○の内容がどう考えても仕事に関係ないことだったので、とりあえず、それは仕事とは関係ないので私が言いに行くことではない、離れて接したらどうか、と答えました。
すると、「あの人のやりたいようにするのを我慢しないといけないなんて!私はあの人の奴隷です!」
いつもとちがう顔つきと激しい口調にびっくりしました。ちなみにBさんは、人並以上に控えめで温厚な人柄だと思います。
それをかわきりに、社内のいろいろな人からうけた「しうち」について、次々訴えてくるようになりました。
言うことはほとんど似かよっていて、廊下で通りすがりに、扉の向こうで(鉄の防火扉等、試してみても普通には声が聞こえない状況)、会社の通勤用バスの中で、(かならず苗字を呼び捨てにされて)「聞こえよがしの悪口を言われた」と、「私はなにもしていないのにいじめをうけた」「逃げているのに追いかけてまで嫌がらせをされた」です。
そして、「理不尽なこととは断固として戦います」「どんどんやり返していきます。それが、わたしにとって重要なことなんです」といって行動を起こすため、いろいろな人といさかいが絶えなくなりました。
ある時、やり返しなどやめるようにいったころ、「私にやり返すのをやめろ、というのならかわりにあなたも自分の好きなこと(趣味などの楽しみ)をやめてください」と言われました。まったくわけがわかりません。
一見幼く善良そうな感じで、本人も自分は子供っぽいキャラクターだとしきりに印象づけようとするのですが、実際やっていることは「子供のようなよい人」から程遠いものに思えます。
(以後紛争状態の)Bさんは、バスを降りて同僚と話しながら歩いていると、F子が追いかけてきていきなり前に立ちはだかって言ったそうです。「あなたバスの中で私の悪口言ってたでしょう。許しませんからね。」目つきが違っていてとても怖かったそうです。
その反面、私には、Bさんは自分が逃げているのに追いかけてまで嫌がらせをするひどい人だと必死で訴えていました。
また別の人たちには、休憩しているといきなりやってきてすごい剣幕で言ったそうです。「さっきすれ違ったとき、あなたたち私が××だと言ったでしょう。謝ってください。」(××は、一般に差別用語と呼ばれている言葉です)
どんなに聞き違いだと説明しても、薄ら笑いをうかべながらがんとして聞こうとしなかったそうです。
また、別の部下は、廊下でいきなり、「F子って頭がおかしいわ」と言ったと怒鳴りつけられ、言った言わないの騒動になりました。上司がはいって長時間の話し合いももたれました。
ある部下によると、いつも何か言いがかりみたいなことを言ってくるんだけれど、それに腹を立てて怒り出すと、むこうは急に冷静になってふふんと鼻で笑っていて、躍起になっている自分のほうがおかしく見える、そうです。
また、F子ともめた別の部下(ああ、ほとんどの部下がF子ともめているのです)は、そのあと1年たっても書いた字が見つかるとすべてマジックで塗りつぶされています。きらいだといって、そこまでするものでしょうか。
あなたの行動もよくないのでは、と事実を突きつけても、「あぁ〜、それは・・・」と、非常に巧妙な屁理屈を並べてはぐらかしてしまいます。
もめた中の5人ほどは標的のようになり、避けていても繰り返しもめ続け、現在は私がターゲットで私に対して激しく敵意を表してきます。
最初のうち私は、延々と(軽く1時間以上)続く苛められ話の聞き役で、慰めたりアドバイスしたり、時には強く叱ることもありました。いざこざが引き起こされると、かわりに謝りに行っていました。
なんとか自分がうまく指導していかなければ・・と考えていたつもりでした。同じようなもめ事がしつこいように何度でもくり返され、そのたびに根気よくさとし叱りました(つもりでした)。
F子は、叱られるとそのたびに必死な顔で真剣に反省し、これからは改めることを小学生のように(?)「きをつけ」の姿勢をして「宣言」しにくるのです。
そのため、いつかわかってくれるのではないかと考え、何度も許せてしまったのかもしれません。また、子供や老人に対して非常に(過剰なまでに入れ込んで)親切な面も見ていたせいもあります。
あるとき私はついに堪忍袋の緒が切れ、もうこれ以上めんどう見られない、勝手にしろ、と言って怒鳴ってその場を立ち去ってしまったのです。
以後(もちろんそれだけが原因ではありませんが)、私に向かって激しい行動が繰り返されるようになりました。
「あなたの下で働けてよかった」は、「腐った上司、恥ずかしい上司、どーしよーもない人」になり、他のいじめをする人たちと「一緒になって最初からずっと自分をいじめてきた」(言うことをきくように)「おどしをかけられた」とまで言われました。
私が何か言おうとするものなら、超早口で捨て台詞を残してものすごい勢いで部屋からたち去っていきます。
ある時など、隣の部屋に逃げ込んでものすごい勢いでドアを閉め、何か大きな声で怒鳴りながらぐるぐると中を歩き回っていました。
このごろは朝から1時間近くどこにいるのかわからない状態で、帰ってきても奥の使っていない部屋に閉じこもって夕方まで時々しか出てきません。
中にいるのを知らずに開けた人の話によると、電気もつけず真っ暗な中、いすに座って入口の扉のほうをじっとにらんでいたそうです。(扉を開けたとたん、顔が向かい合う状況)
私が休むと、家に電話がかかってきます。「今、○○でもめています。私があなたの言うとおりにしただけだということを、出勤してあの人たちに説明しに行ってください。」
(私)「それは、一人ではできないということですかね?」
「いえ、そういうことではありませんので。仕事はちゃんとできてますから。さっさと来てください」
また、周りの人を「敵、いじめをする人」と「助けてくれる人、人柄のよい人」に組分けします。
前者が来ると、その場で何かされたわけでもないのに、「あれは人間性わるいですからねー」「質が悪い、質が悪い」「あー、まーた、たちが悪いのが来た、来た」などと大きな声で言います。
電話でわざと名指しで呼びつけていりもしないものをもって来させたり、来たらいやみを言ったりの嫌がらせもします。
が、後者の前では不器用だけれど正義感の強い人、いじめられ役、子供のような人、のように振る舞い、びっくりするほど一瞬でころっと態度が変わります。(これは境界性人格障害の特徴ということになるのでしょうか?)
腕組みをし足を組みイスにふんぞり返って私をばかにしていたにもかかわらず、一瞬で子供のような甘えた心配そうな態度に豹変したことがあります。
話の中で私から聞き出したいことができたらしいのですが、それまでは私を罵倒していたのに、突然、なんとか聞き出そうと子供のような声で甘えてくるのです。びっくりしました。
あまりにひどく色分けをするので、人間はみんな良い面と悪い面がある、どんなに良い人にみえても近くにいったら気にいらないところも出てくる、そんなもんじゃないの、といったことがあります。答えはこうでした。
「わたしにはそういうことは、あれ(手の平ぐっと突き出しながら)、ですので、そういうことを言ってごまかさないでください。」さっぱり意味がわかりません。
また、過去の(小学生くらいから)人間関係のトラブルを長時間にわたって聞かされることもたびたびでした。
軽く1〜2時間、間違えることも考えることもなくすらすらと独演状態で、繰り返し練習でもしているのかと思えるほどです。
上司にも相談しましたが、リストラの影響で半年ごとにかわってしまい、忙しいこともあってくだらないもめごとをきいてもらうのはなかなか難しい状況です。
正直言ってその人が何を考えているのか、何を望んでいるのか、さっぱりわかりません。
誘う女、と言うのは失礼かもしれませんが、相手にどうにかして自分に対してひどいことをさせ、それを今度は自分が相手に対して嫌がらせをする根拠にすりかえている様にも思えます。
自分がどういうことをしたからそういう結果になったんだ、ということはまったく考えないようです。
これらのことはたんなる「お悩み相談」の内容でしょうか。
いろいろな行動を起こすときのF子は目の色が変わっていて、恐怖感さえ感じます。
この状況で自分ひとりで対処しないといけないとしたら、私にはどんな対応が必要なのでしょうか。
人に頼ろうとする自分もいい年をして情けなく思いますが、はずかしながら冷静に考える力もない毎日です。 上司から、人間関係はともかく、仕事内容そのものについてははっきり注意をするように言われているのですが・・・
林: このF子さんは精神分裂病 (統合失調症)だと思います。単なる人間関係のもめごとの範囲ではありません。医学的な治療、具体的にはまずは抗精神病薬による治療が必要です。もちろん、あなたをはじめとする職場の方々の対応も大切ですが、それだけではとうていなかなか良い方向に持っていくことは期待できません。治療が必要です。
F子さんが精神分裂病 (統合失調症)だと判断する理由のひとつは、被害妄想です。特に、
廊下で通りすがりに、扉の向こうで(鉄の防火扉等、試してみても普通には声が聞こえない状況)、会社の通勤用バスの中で、(かならず苗字を呼び捨てにされて)「聞こえよがしの悪口を言われた」
あるいは
「さっきすれ違ったとき、あなたたち私が××だと言ったでしょう。謝ってください。」
というのは、かなり典型的な症状です。これは幻聴と解釈することもできます。精神分裂病 (統合失調症)の幻聴は、初期は「なんとなく悪口を言われている感じ」から始まることが多いものです。「すれ違いざまにひとこと何か言われる」という訴えもかなり多いです。(【0260】、【0328】、【0453】などをお読みください)。それが発展して、はっきりした幻聴になるというのが典型的です。F子さんも、現在はっきりした幻聴がある可能性もかなりあると思います。
また、F子さんには、通常では理解し難い異常行動もいくつも見られています。その背景には多くの場合思考障害があるものです。
朝から1時間近くどこにいるのかわからない状態で、帰ってきても奥の使っていない部屋に閉じこもって夕方まで時々しか出てきません。
中にいるのを知らずに開けた人の話によると、電気もつけず真っ暗な中、いすに座って入口の扉のほうをじっとにらんでいたそうです。
という奇異な行動は、いかにも精神分裂病 (統合失調症)らしい色彩のあるもので、何らかの思考障害の存在が窺われます。
また、自分にとってのいい人、悪い人を色分けするというのは、確かにあなたの指摘されるように境界型人格障害の特徴とされているものですが、ここまで露骨な形を取ると、かえって境界型人格障害らしくなく、F子さんの他の症状とあわせてみれば、やはり精神分裂病 (統合失調症)の一症状として理解できるものです。
おそらくF子さんは、何年も前にこの病気を発症していたのだと思います。治療歴もあるかもしれません。入社までの経歴が不明というのも、それを考えるとうなずけます。現在も治療を受けている可能性もあります。その治療が不十分だったり、また薬を処方されていても飲んでいなかったりすれば、このような症状になります。いずれにせよ、適切な医学的治療を受けなければ、改善は期待できません。
人間関係はともかく、仕事内容そのものについてははっきり注意をするように
という、あなたの上司からの指示は、会社という組織を考えた場合には正しいと思いますが、状況の改善にはつながらないでしょう。治療が必要です。