精神科Q&A

【0421】うつ病の発症から三年たったのですが、薬をやめる時期でしょうか


Q: 38歳、警察官です。四年前に昇進し、それまでの外回り中心の仕事から内勤兼務となりました。 転勤時、周囲も喜んでくれ、全く内容の異なる仕事をすることになり、仕事を覚えようと無我夢中で気がついたら1年経っていました。
 1年勤務して少々自分でも仕事がわかってきたかなと思い始めたころ、緊急で調査し報告しなければならない某プロジェクトを任され一人で奔走することになりました。
 しかし、徐々に、訳のわからない微熱が続いて体がだるくなり、一度風邪を引いたりすると2〜3日は確実に起きられなくなり、「本当に出勤して仕事ができるのだろうか」 と不安になったり、「自分一人が周囲の足を引っ張っている」という自責の念にとらわれるようになり、「自分がここに座っていること自体が罪悪である。」「おまえは足引っ張りだから消えろ」と言われているような気がし始めました。
 飲酒量もどんどん増え1日に350mlのビールを平気で1カートン飲んでやっと眠る有様でした。
 以前から、外出するときの鍵かけなど、2回も3回も不安になり確認するタイプだったのですが、それもますますひどくなり、一度出発してからもそのために戻るようになったりしました。
 たまに夢を見ると、「熊」に追い回され、追いつめられて死ぬ寸前で夜中に目を覚ますといった具合で、恥ずかしながら数十年ぶりに寝小便までしてしまいました。
 それからは、職場で仕事をしていても、「窒息しそうな息苦しさ」「電池が切れてしまったような脱力感」を感じるようになり、いたたまれなく仕事も手につかない状態になりました。
 結論から言えば全く自分の思いこみであったのでしょうが、全く仕事ができない状態となり、いたたまれなさがある日爆発し、当時の課長に相談したところ、大きな信用できる病院で診察を受けるように指示され、さらに内緒で通っていた精神科の先生の所に付き添ってくれ、相談の結果3ヶ月休養しました。この時点で、診断は、うつ病であると告げられました。
 復帰してからは、半年ほどかけて徐々に正規の仕事に戻り、「調子の悪いときには出勤してきているだけでも良いから。」と励ましをいただきながら、転勤するまでには、ほぼ通常の仕事ができるほどに回復していました。
 ただ、所用で東京に行ったとき、東京駅構内で自分が何をしているのか、どこに行けばいいのかわからなくなりかけ、パニックを起こし、家に電話をして妻から頓服を飲むように言われ難を逃れたことがありました。
 二年前に所属署を転勤した際、再び部門が変わり、自分でも「再出発だ」と思いがんばっていたのですが、1週間ほど絶好調で仕事をした後突然、波で来ていた鬱が大波でやってきて、家から出られなくなり、電話で休暇願を出す際、新しい上司から 「それは気の持ちようでおまえはさぼっているだけだ。」と言われて逆上し、普段自分で絶対にはかないような言葉をはいて上司とやり合ってしまい(ほとんど覚えていません)、それ以来脱力感と息苦しさが最高潮に達し、しばしば不安感から出勤できない状態が周期的に訪れるようになりました。
 結局、署の幹部と主治医の先生とも相談した結果1ヶ月ほど冷却期間をおくことになり、復帰直後は休みがちでしたが、現在は1ヶ月に1度くらいの割合で大鬱が来たときだけ、「風邪」などの理由づけをして休むことはありますが、何とかやっています。
 飲んでいる薬は
 ソラナックス0.8を朝夕食後
 パキシル20を2錠とアモバン10mg1錠を寝る前です。
 最初はデプロメールなどを飲んでいましたが、パニックに近い症状が出ると言うことで、東京駅での一件以来ソラナックスに変わりました。
 現在、自分では落ち着いている方だと思うのですが、発症から足かけ三年になろうとしています。
 自分では、ずいぶんと調子が良いように感じているのですが、主治医の先生に相談して薬をやめるべきなのでしょうか。
 また、発症から足かけ三年になりますが、こういう状態は難治性のうつ病といえるのでしょうか。



1. あなたはかなり良くなっていると思います。けれども、今はまだ薬をやめるべきではありません。
「1ヶ月に1度くらいの割合で大鬱が来る」
という状況は、まだ治っているとまでは言えません。薬をやめたら、悪化するでしょう。治療を続ける時期です。

2. あなたが難治性のうつ病と言えるかどうかについては、まず経過を振り返ってみましょう。

 うつ病の発症は、3年前だと思います。
「徐々に、訳のわからない微熱が続いて体がだるくなり、一度風邪を引いたりすると2〜3日は確実に起きられなくなった」
「本当に出勤して仕事ができるのだろうか」 という不安
「自分一人が周囲の足を引っ張っている」という自責の念
それに関連して、
「自分がここに座っていること自体が罪悪である。」「おまえは足引っ張りだから消えろ」と言われているような気がする
これらいずれもうつ病の発症時期の症状としてよくあるものです。
発症の前に
「緊急で調査し報告しなければならない某プロジェクトを任され一人で奔走することになった」
というきっかけとなる出来事があったというのも、よくあることです。
この時期に不眠のため飲酒量が増えたり
(「飲酒量もどんどん増え1日に350mlのビールを平気で1カートン飲んでやっと眠る」)
強迫症状が出たり
(「以前から、外出するときの鍵かけなど、2回も3回も不安になり確認するタイプだったのですが、それもますますひどくなり、一度出発してからもそのために戻るようになったりしました」)
というのは、必ずしも多い症状ではありませんが、いずれもうつ病で時おり見られるものです。
 
 その後精神科に通い、三ヶ月休養していったんは症状がなくなった。二年と少し前のことですね。ただ治療開始からよくなるまでの期間の記載がありませんので、この段階で治りにくかったのか、比較的すぐ治ったのかの判断ができないところです。もっとも、「内緒で精神科に通っていた」とのことですので、治療を受けにくい状況であったことは推測できます。それが経過に悪影響を大なり小なり与えたとは思います。
 
 そして二年前、部署が変わって再出発した一週間後に再発されています。このとき新しい上司が
「それは気の持ちようでおまえはさぼっているだけだ。」
と言ったのは、うつ病の人に対しては最悪このうえない対応で、これがその後のあなたの経過を悪くしたことは間違いないでしょう。
 
 そして一ヶ月休まれて復帰。
「復帰直後は休みがちで、現在は1ヶ月に1度くらいの割合で大鬱が来たときだけ、「風邪」などの理由づけをして休む」
という現在に至っています。
 復帰から現在までの期間は約一年ということでしょうか。一応そう解釈してみます。
 そして今のんでおられる抗うつ薬が、パキシル 40mg。
 以上が発症から三年間の経過ですね。
 
 ここで先に結論を言いますと、あなたは難治性のうつ病とは言えないと思います。
  
 まず、発症後少なくとも一回は、ほとんど治った状態になっておられます。薬の治療と休養の効果でしょう。この時点で、難治性うつ病の可能性は低くなります。
 そして復帰直後に残念ながら再発。
 いま「再発」と言いましたが、本当にこれが再発だったかどうかは実はよくわかりません。うつ病がいったん良くなってから、「ゆり戻し」のように一時的に症状が出てくることは比較的よくあるからです。
 そのときに無理をしないようにしていれば、切り抜けられることが多いのですが、あなたの場合、上司の心ないひとこと、
「それは気の持ちようでおまえはさぼっているだけだ。」
の影響が大きかったと思います。この結果、単なるゆり戻しが再発につながってしまったとも考えられます。
 そして一年後の現在。
 二度目に復帰されてからの一年間は、徐々に改善に向かってはいるものの、確かにすっきりしないという印象は否めません。もしかすると職場の環境も悪影響を与えているのかもしれません。しかし、ここは「徐々に改善に向かっている」という方をあなたとしても重視されて、あせらず治療を続けるべきだと思います。これまでの経過からいって、あなたのうつ病はこの先もっと良くなると思います。
 
 それからもうひとつ、難治性うつ病と判断するかどうかの重要なポイントとして、薬の量があります。つまり、十分な量の薬が処方されているかどうか。うつ病が長引く最大の原因は、薬が不十分であることはうつ病の医学部講堂で解説した通りです。
 パキシル40mgという量があなたにとって十分なのかどうか、そこまではメールの情報だけからは判断しにくいところです。
 いずれにしても、先に言いました通り、いまは薬をやめる時期ではありません。治療を続けてください。
 

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