精神科Q&A
【0401】家内が、薬の副作用で苦しんでいますが、医師から「この薬が命綱」といわれ、服薬を止めることも、減らすこともできないものと、悩んでいます
Q:
50歳の家内は、1年半ほど前から、幻聴が発症し、高じて自殺未遂にまで至りました。その後、服薬治療を続けたおかげで、現在では幻聴はほぼ消失(換気扇などのモータ音を聞くと多少残っている)し、10カ月ほど経過しています。
幻聴が軽快し、精神的に落ち着いたのは良かったのですが、服薬開始後、様々な副作用が出現しています。苦しいながらも、なんとか対処していただき現在に至っていますが、いまなお、主にはパーキンソン症状と歯槽膿漏で苦しんでいます。主治医の先生は、歯槽膿漏は副作用ではないとのご判断ですが、経過を見る限り、元々の原因が薬(リスパダール)にあるということが払拭できません。つまり、筋肉の硬直からきているものと考えます。
実際、一時歯医者で通院治療をおこないましたが、軽快するどころか、ますます悪化している現状です。今や、全部の歯がグラグラになっており、筋肉の硬直から口もほとんど開かなくなっています。
加えて、パーキンソン症状による精神的つらさ、身体の震え、夕刻になると腹部がパンパンに膨れ上がるなどの症状もあり、まともな生活ができない状況になりつつあります。
現在の処方は、1日につきリスパダール1錠、アキネトン6錠、睡眠薬2錠です。
過去には、インプロメン、セレネースといった薬も試していますが、副作用がひどくてリスパダールに落ち着いています。リスパダールも当初3錠から始めましたが、とても副作用が強いので、現在のように1錠になって、10カ月程度が経過しています。主治医の先生は、とても副作用の出やすい患者だとの認識をお持ちのようです。
そこで、質問なのですが、本人はこのまま服薬を続けると、身体がぼろぼろになって行くようだ、と心配し、落ち込みも激しいのですが、現在の服薬を続けるしか方法がないのでしょうか。また、歯槽膿漏との因果関係はどうなのでしょうか。
例えば、リスパダールを3日に1回あるいは、1週間に1回でも抜くことで少しでも減らす方法はないかと相談もしましたが、「これが命綱」「非常に危険」とのご判断から困難なようです。何とか、現状を改善するヒントなりがいただけるとありがたいのですが、よろしくお願いします。
林: 大変お困りの様子ですが、改善のヒントはあります。
その前に現状を分析してみます。
一般に、薬の効果と副作用とのバランスは難しい問題です。それはどんな病気の治療薬でも基本的には同じです。ただし普通は、副作用が強い場合は、いったん薬を中止して様子を見るという手段を取ることができます。薬を中止して、もし症状が悪くなったら、副作用の出方を見ながらまた薬を再開するわけです。
ところが、妄想を持つ病気(たとえば精神分裂病)の場合、薬を中止してもし症状が悪くなったら、本人が病識を失い(つまり、自分は病気でないから薬を飲む必要はないと言うようになる)、治療を再開できなくなることがあります。そうなると、たとえば【0280】、【0380】のような苦労をすることになるかもしれません。ですから、副作用が出ているからといって、そう簡単に「いったん薬を中止する」ことは出来ないのです。奥様のように自殺未遂の病歴がある場合には特に慎重にならざるを得ません。他害の病歴がある場合も同様です。
主治医の先生が、「これが命綱」とおっしゃっているのはこのあたりの意味を含んでいるのだと思います。
奥様の精神症状が完全に良くなっているのであれば、それでも薬を止めてみるという方法も考えられますが、奥様の場合はまだ明らかに症状が残っていますので、薬を止めたら元のような状態に戻ってしまう可能性が大きく、止めることはとうていお勧めできません。
ところで奥様の現在の状態ですが、筋肉の硬直をはじめとするパーキンソン症候群(これはパーキンソン病ではなく、パーキンソン症候群です。薬が原因とはっきりわかっている場合、パーキンソン病とは言いません)は、間違いなくリスパダールの副作用でしょう。
歯槽膿漏については難しいところです。
口の硬直によって歯がグラグラになり、その結果歯槽膿漏になったのであれば、二次的な副作用といえるでしょう。けれどもこの三つに因果関係があるとはっきり確かめるのは非常に難しいので、何ともいえないでしょう。
ご承知のことと思いますが、リスパダールはパーキンソン症状は非常に出にくい薬です。セレネースなどと比べると、この点は本当にいい薬です。そのリスパダールでこれだけ重いパーキンソン症状が出ているとなると、確かに「非常に副作用の出やすい患者」、もっとはっきり言えば、「例外的に副作用の出やすい患者」と言えるでしょう。
さて、改善のために試みるべき方法としては二つあります。
第一は、他の非定型的抗精神病薬に変えてみることです。それでも同様であれば、もうひとつの方法は電気けいれん療法です。
現在の日本での電気けいれん療法のやり方は、症状が重い場合や薬が効きにくい場合に施行し、改善したら薬物療法に切り替えるという方法です。奥様の場合は、ある程度定期的に行うことを考慮していいケースだと思います。米国などではこうした方法を取ることもありますが、日本ではほとんど見かけません。しかし、奥様のように薬が非常に使いにくい、というより薬を飲んでいたら本当に身体がぼろぼろになりそうですし、そうならないまでも生活に多大な支障がありますので、考慮していい方法だと思います。