精神科Q&A
【0184】妹が病気を「錦の御旗」のようにしています。優しくすることと、甘やかすことは別だと思うのですが・・
Q: 30歳の妹が精神科で「うつ病」と診断され治療中です。私たち家族は、妹の事が心配なのは勿論ですが、妹に対する対処に苦慮しています。これまで私なりに何冊かの本を読んだりサイトを探したりしましたが、先生の著書擬態うつ病を最近になって読ませて頂きました。症状や言動を照らし合わせると、うつ病というよりも境界性人格障害の範疇になるのでは、と感じています。
妹は学生の頃から感情が不安定で、医者やカウンセラーにかかっていたようです。27歳で結婚したのですが、一年後に別れ、以後妹は両親と同居しています。離婚訴訟中です。子供はいません。
現在妹は、病気であることを「錦の御旗」のように振りかざし、かなりわがままな生活を送っているようです。仕事はしておらず、失業保険金と旦那からの送金(訴訟により止められたようですが)のみが妹の収入のようです。以下は、本人の具体的な言動です。
●実家に引き取る時の約束だった家事分担は守らない。起きられない、疲れたなどが理由。
●買い物に執着する。入ってくるお金は全て買い物に消え、洋服、アクセサリー類が多い。(ブランド品が多い)カードローンも出来てしまったようだ。
●勤めていた職場の退職慰労会に招かれた時、和服や帯を新調し華やかに着飾って行った。(うつ病と診断されて治療を開始してからのことです)
●母親に対し、「自分は兄に比べ、愛情を注がれなかった」と訴える。
●実家を出たがる。当然そのようなお金は無いので、「訴訟に勝ったお金で両親への借金を払い、マンションを借りて独立する」ことを強調する。(弁護士費用等も親からの借金)特に金銭面で地に足をつけた堅実な考えが出来ず、浮ついたことばかり言っている。これは症状が出た以降に限らず、健康な頃からそういう徴候があった。
●私に対しては、へつらうような態度を取ることが多い。私が実家に帰ると、とってつけたように家事を手伝ったり、「いい自分」を演じているのが伝わってくる。
妹のかかっているお医者さんは「家族の助けが大切」と言います。様々な本にも「家族によるケアが重要」と書いてあります。当然だと思います。私たちは、出来ることであれば何でもするつもりでいます。
ただ、日々の妹の言動からすると、「あたたかく見守ること」が本人のためになるとは一概に言えないように思えます。病気の症状としての言動だけではなく、多分に本人の性格的な要素も含まれていると思えるのです。私の考える限りでは、「人前での取り繕った自分」と「いわゆる本当の自分」とのギャップの蓄積が、今の症状の根幹にあるように思えます。特に母親は妹と顔を合わせている時間が長く、振り回されているような状態です。言動の全てを「症状」として容認し、見守ることは、結果的に本人のだらしなさを助長することになりはしないでしょうか。「症状」なのか「性格」なのかの見きわめが難しいです。私は、妹に対して優しくすることと、甘やかすことは別のことだと思うのですが、「心の病」を持った家族を抱える者として、心構えに欠けるのでしょうか。
林: まず、妹さんはうつ病ではないと思います。擬態うつ病(2007年3月、復刊されました)を読んで頂いたとのことですので、その理由はご理解いただけているものと思いますが、上にあげられたエピソードのどれを取っても、うつ病の特徴には一致せず、むしろ(ご指摘のように)性格の要因が強いと判断できます。ただ境界性人格障害と言えるかどうかまではこのメールからはわかりません。その傾向はあるようには見えます。
妹さんのために、家族によるケアが重要というのは正しいと思います。ただし、逆に、家族によるケアが重要でない病気というものは存在しませんので、「家族によるケアが重要」というアドバイスは、何もアドバイスしていないのと同じで、具体的にどうケアするかが問題だと思います。妹さんの場合にはどうするべきか。残念ながら、私には明確にお答えすることができません。これがうつ病の場合ですと、自然ないたわりという基本姿勢が常に正しいと言えますが、妹さんのようなケースには、(ご指摘の通りで)いたわってあたたかく見守るだけではうまくいかないでしょう。そうしますと時には厳しい態度も必要になるということになりますが、具体的にどの程度までそうするべきかということになると非常に微妙で、ここで適切なアドバイスをするのは不可能に近いと思います。
それは、精神医学がまだまだ未発達なためと考えるべきか、それとも性格の要因が大きい場合には、一般化すること自体が本質的に不可能で、個々のケースで対応を考えるべきものなのか。これも今の私にはわかりません。
と、これでは回答になりませんので、(無理を承知で)ひとつだけ言いますと、「許容範囲を設定し、違反に対しては厳しい姿勢で臨む」ということを原則にする方法もあります。これはある種の行動療法(というのは精神療法の一種ですが)の基礎でもあります。いずれにせよ、
優しくすることと、甘やかすことは別のことだと思う
というご意見には私も同意します。