精神科Q&A

【1503】年配の医師と若い医師の信頼性比較


Q:  33歳の女です。私は3〜4年前から不眠・気分の落ち込みが出現し、県内にある国立病院の精神科を受診しました。当時院長先生(60歳ほど)に外来でみていただき、うつ病とのことで、ルボックス100mgを処方されていました。服薬を始めてからも気分は良くなったり悪くなったりを繰り返し、一進一退という状態でしたが、院長先生は「あせらずにゆっくり治していけばよい」と言ってくださいました。私は院長先生を信頼しておりましたので外来通院しておりましたが、定年退職されるということで、若い先生(30歳前くらいで、指定医?をとるために頑張っているとおっしゃっていました)に担当が変わりました。数回は同じ処方が続いたのですが、ある診察日に先生から「気分がわけもなくハイになったり、浪費してしまったことはありませんでしたか?」と聞かれました。このように聞かれたことは初めてだったので戸惑いましたが、よく思い出してみると、今までも調子の良い時は、友人の都合も考えず深夜に電話をかけたり、使わないブランド物を多数購入したということが数回あり、そのことを先生にお伝えしました。すると先生は「うつ病というよりは双極性障害、いわゆる躁うつ病または気分変調性障害の可能性が高い。そうであれば治療方針は変わってくる」とおっしゃいました。その日からルボックスを徐々に減らしながら、デパケンRというお薬を新たに処方されました。現在はルボックスは0になり、デパケンRが800mg処方されています。血液検査もしていただいて、血中濃度もちょうどよいと言われました。薬が変更になってから今までの気分の落ち込みがうそのように改善し、夜もぐっすりと眠ることができるようになりました。(不眠時の頓服としてマイスリー10mgを処方されていますが使用していません)先生に診断・治療方針が変わった理由をおたずねしたところ、「躁うつ病は疑ってみなければ診断は難しいものです」と言われました。現在の主治医は人当たりも良く、私は信頼しているのですが、経験で言うと数倍〜数十倍あると思われる院長先生の診断が覆ったことにややとまどっております。精神科の領域ではこのようなことはよくあるのでしょうか。若い先生のほうが的確な治療ができるということも多いのでしょうか。林先生のご意見をお聞きしたくてメールいたしました。今後の治療はこれでよいのか等、アドバイスいただければ幸いです。


林: 二人のうちどちらが良い先生か? 良い医者とは? 良い病院とは?
よく聞かれる質問です。答えは常に単純明快です:
治す医者が、良い医者です。治す病院が、良い病院です。それ以外の基準はありません。
 したがって、この【1503】のケースでは、若い方の先生が、良い先生です。それは、この先生が若いからではなくて、この先生の治療によってあなたの症状が著明に改善したからです。若いとか年配とか、そんなことは何の関係もありません。

回答はここまでにすべきで、以下は蛇足ですが、宣伝を兼ねて解説を続けます。

先生に診断・治療方針が変わった理由をおたずねしたところ、「躁うつ病は疑ってみなければ診断は難しいものです」と言われました。

その通りです。今月(2009年1月)発売の、躁うつ病 患者・家族を支えた実例集 にもお書きした通りです。(と自著をここで引用するのは宣伝です)
というのは、躁うつ病のうつ状態(うつ病相ともいいます)と、うつ病の症状は、事実上区別がつかないからです。ですから、その時の症状からはうつ病に見えても、よく話しをお聞きすると、実は躁病相が過去にあり、正しい診断は躁うつ病であることは少なからずあります。この【1503】もその例になります。はじめの主治医の年配の先生は、あなたの過去にあった躁病相を見落とし、うつ病として治療していたためになかなか回復せず、あとの主治医の若い先生は、慎重な問診により躁病相を確認し、躁うつ病としての治療に切り替えたために、著明に回復したのです。

但し、

若い先生のほうが的確な治療ができるということも多いのでしょうか。

そういう一般化はできません。この【1503】ではそうだったということにすぎません。

経験で言うと数倍〜数十倍あると思われる院長先生の診断が覆ったことにややとまどっております。

経験が生きることもあれば、新しい知識が生きることもあります。それはどんな領域でも同じことです。


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