精神科Q&A

 【1418】12歳の娘に、統合失調症の前駆症状が見られるようなのですが、発症を予防するにはどうしたらいいでしょうか


Q:12歳の娘について相談させていただきます。 中学入学と同時に引越しをしたため、同級生に知っている子が誰もいない状態で、この春から中学生活をスタートしました。 引越しが決まった昨年夏ごろには、新しい人間関係が出来ることを楽しみにしているふしすら見られた娘ですが、今年に入り、学校の社会見学で観光地を回った際、運動が苦手な娘は、グループの友達が走っていくのについてゆけず、知らない人ばかりの中に取り残されるという体験をしました。 「知らない人に囲まれるのが怖い。怖いというよりは不快だった。」と話していましたが、だから出かけたくない、というよりは、「私はもっと知らない人たちの中に出て行かないとやばいんじゃないか」というようなことを言っていました。 入学が近づくにつれ不安を口にしながらも、「イヤになったら帰ってきたらいいんだよね」と自分を励ましながら通い始めた中学でしたが、程なく「知らない人に囲まれていてしんどい」「怖いというより不快」「言葉は悪いけど、ゴキブリに囲まれて過ごしているような気持ち」といい始め、学校へ行けなくなってしまいました。 対人恐怖、という言葉が頭に浮かんだのですが、林先生のページを拝見していますと、「視線が怖い」「どう見られるか不安」ということが書かれています。娘の訴えはむしろ「自分のことを知らない人がテリトリーの中に入ってくるのが不快」という感じで、少し違うようにも思います。 また、休み始めて1週間が経った頃「家が怖い。自分の部屋は大丈夫だけど、廊下の暗いところから視線を感じる」という訴えもありました。こうなってくると、むしろ統合失調症の前駆症状のようにも思えます。 娘の父(私の夫)と娘の曾祖母(私の祖母)が統合失調症ですので、娘は家族歴がない人に比べれば統合失調症発症の可能性が高いということになるかと考えております。 娘が発症しないか、気がかりでならないというほどではありませんでしたが、夫と祖母を見ていて、早期発見・早期治療・治療の継続がいかに大切かについて痛感しておりましたので、常にその疑いはどこかに持ちながら娘の成長をみて参りました。 

現在までの娘の様子は、保育園時代から、運動はあまり好きではなく、走り回って遊ぶよりも、生活遊び(ままごとなど)が好きで、殊に人形遊びは、人形がなくともあらゆるものを擬人化(擬動物化)して世話をするなどの遊びをする子供でした。 また、見立てが好きで、食パンを食べていてもたびたび私を呼び「おかあさん見て!鳥!ここが目」と言うようなことが日常的にありました。これは現在でも時折あります。 保育師の先生からは「ちょっと自分の世界に入り込んでしまう感じがして心配」「大人の顔色を見すぎる感じがする」と言われたこともあります。親から見ていても、両親ともに威圧的なところがあるので、やや萎縮した印象を受けることもあります。が、一方で、のびのびと子供らしく自分の要求や希望を述べることがない、というようなことはありません。 2歳ごろから、好きなアニメーションのキャラクターがいるかのように振舞って遊ぶことが多かったのですが、(小動物などがポケットに入っているといい、実際に声をかけてポケットから取り出し、頬ずりしたりなでたりする)この頃は、むしろ子供らしい想像力を娘のひとつの力と感じ、ほほえましく嬉しく見ておりました。 これが、長じても続いており、現在は既成のアニメーションや物語の枠を超えて、自身が作り出したキャラクターや世界にイマジネーションを広げているようです。そしてそれらのことを、まったく臆する様子もなく母親である私や友人、周囲の大人たちにも話します。 ひとつは、意図的にタイムスリップを行う少女が出てくるアニメに、年長時代から5年以上も熱中しており、8歳ごろから、眠ると必ずその少女がタイムスリップした先(戦国時代)へ行くのだといいます。これは現在でも毎日必ずそうだと申します。 もうひとつは自身で作り上げたと思われるキャラクターで、果物や野菜をモチーフとした身長20cm程度の大きさのキャラクターが多数おり、一つの世界を作り上げているようです。それらのキャラクターが、「こちらの世界」へ度々訪れているばかりでなく、娘自身が、上記戦国時代の夢の中で眠ると、その世界へ行けるのだと話しています。これも、9歳ごろから現在まで続いています。

それらの中で、非常に気になることが起きたのは8歳のときでした。娘が生まれた時からともに暮らしてきた犬が9月に、猫が翌年3月に、半年のうちに続いて亡くなった上、当時一緒に暮らしていた20歳の女性が家を出ることになったその日の夜、パニック状態(と呼ぶのが正しいかよくわかりませんが)に陥ったのです。 はじめは、学校の友達(保育園から一緒の特定の友達)私の悪口を言う、という話から始まり、次第に、それが「皆で悪口を言う」「殺される」「殴られる」という訴えに転じ、今まさにその子供たちから手を掛けられて引っ張られたり殴られているといって、呼吸を荒くして泣き出したのです。 気分を変えるためにと思い、後ろから抱いてやり、娘の好きな楽しいアニメーションを見ながら床についてみましたが、一見眠ったように見えたので私が離れ、布団に横にしようと思うと、再び呼吸を荒くして目を覚まし、泣きながら恐怖を訴えるのです。 このような状態が1週間ほど続きました。 娘が申すには、犬を亡くした9月頃から半年間、このような状態に悩まされていて、子供たちが「人に言ったら本当に連れて行く」(殺す)と脅すので、母親である私にも話すことができなかった、あの日はお母さんがいるときに初めてあの状態になったのだ、というのです。 学校でも、仲良しの友達が自分に足をだして転ばせ、馬鹿にしたような顔で「大丈夫ぅ?」とにやにやするというのですが、娘はこれを「でも○○ちゃんがそんなことするはずないし、それは本当のことじゃないんだっていうことはわかる」と言います。 これらの状態は、次第に娘を脅す子供たちの中に娘の味方をする子が現れ、その子を娘が我が家にかくまうと言い、夢の戦国時代のヒーロー(アニメキャラクター)が守ってくれるようになったなど、物語的に終結してゆきました。

さすがにこのときは、夫の主治医に相談し、小児専門の精神科医の面接を受けましたが、「ややデリケートな子なので、すこし丁寧に見てあげてほしいが、現在の状態は、治療や検査が必要とは感じない。統合失調症のような印象も今のところは受けない」との所見でした。 その他にも、時折どきりとする訴えをしてくることがあります。 ある時は「見知らぬ少女が心の中に入り込んできて、彼女は”血”を好む子、誰かが傷ついて血を流すのを見たいと思っている。それがとてもイヤ。自分もそのうちに同じように思うような気がして怖い」「ときどきその子が自分の外側に出てくることがある」「自分が誰かを傷つけるんじゃないかと思ってイヤ」と訴えた時があり、これもいつしか消失していきました。 また、10歳の終わりごろには、なにかイライラしたり悲しかったりして、ふと気づくと腕に噛み付いているのだ話し、実際に私や学校の先生の前でも腕に噛み付いて見せたりすることがありました。噛み付くと落ち着くのだと言っているのが、リストカットをしていた友人の言と重なり、闇雲に禁じても問題が解決するわけでもないしと思い、お母さんはとても心配しているということだけを伝えておりました。これも数ヶ月ほどで徐々に消失していきました。 他にも娘の内的世界を垣間見せる話は数々ありますが、これらのこと「消失していった」と書きましたのはあくまで「訴えが消失した」というだけのことで、実際娘の心の中で何が起こっているかは知る由もありません。

現在は娘の中には多数の人間が存在していて、男の子や女の子双子など、ほとんどが娘の年齢に近い人格のようです。これらが時々表にでて、自由に振舞うこともあると話していますが、困っているとか相談とかいう様子ではなく、楽しんでその様子を話している状態です。ですので、いわゆる解離性同一性障害といったような状態ではなく、前述のファンタジーの延長のように感じています。 その他に気になることをいくつか書きますと、父親は子供嫌いで、子をもうけることも、しぶしぶというのに近かった状態です。それでもごく幼い頃は和やかな親子関係が見られたのですが、2、3歳ごろからは娘が父親にアプローチをしても冷淡な対応をすることが多くなっておりました。 統合失調症の診断を受けた5年前からはほとんど会話がなくなっていました。この1年、父親の回復と娘の成長のためか少し会話が戻って来ていますが、夫から娘への言葉かけは8割苦言、注意という状態です。 また、娘はかつては人と接するのは好きで、初めての人の中に入っていくことも、親から離れることも平気だった時期は短くありませんでした。8歳の時初めて4泊のサマーキャンプに参加しましたが、ホームシックもなくこの上なく楽しんで帰って着ましたし、小4、小5の夏には母親である私の学生時代の友人のお宅(300km程度離れた)に2週間以上もホームステイさせて貰ったのも、楽しい体験だったようです。

そんなこんなで、1年ほど前から精神科の受診を考えながらも、この春までは本人はいたって楽しんで生活していたので、受診しそびれておりました。本人にも、精神科に行ってみないかと持ちかけていますが、夫の主治医のところなら行ってもいいが、他の先生はちょっと・・・と言っていること、夫が働けませんので、私が簡単に仕事を休めないことも受診しそびれている理由です。 夫の主治医に診てもらえれば一番いいのですが、自分は小児の発達について専門でないので、小中学生を診るのにはふさわしくない、他の医者を受診するように、と薦められております。 まずは来週母親だけでスクールカウセラーと面接する予定になっておりますが、現在の状態は急ぎ受診が必要な状態なのでしょうか。もし受診をするとしたら、やはり小児の発達が専門の精神科医(?)に診てもらうべきなのでしょうか。 林先生のお考えを伺えればと思います。 


林: 詳細かつ具体的に娘さんの経過をお書きいただきありがとうございました。質問者の鋭い観察眼と洞察力が随所から読み取れるメールだと思います。それだけに、私の回答も、通常以上の自信を持ってすることができます。そしてその回答は、残念ながら良いものではありません。すなわち、娘さんは、統合失調症の可能性が高いと思います。

そのように判断する理由は、端的に言って、ここに書かれているどの症状も、統合失調症の自我障害の性質を持っているということです。統合失調症 患者・家族を支えた実例集 のCase27にお書きしたように、子どもの場合、まだ自分の内的状態を言葉に表す能力が不十分なため、統合失調症の診断は困難なことが多いものです。そんな中で子どもの統合失調症を診断する決め手になり得るのは、その症状に、自我障害(特に、自己と他者の境界の崩壊)の性質が含まれているかどうかということです。その意味でこの【1418】のケースは、子どもの統合失調症の可能性がかなり高いと言わざるを得ません。遺伝歴が濃厚なことも、その判断を支持する情報です。

統合失調症に限らず、病気には早期診断・早期治療が重要であるのは言うまでもありません。ただし、「早期診断」の中には、必ず偽陽性(つまり、その病気の「疑い」があったものの、結果的にはその病気ではなかったというケース)が含まれます。そして統合失調症の場合、偽陽性の段階で早期治療をするのは、結果的に統合失調症でなかった場合、本人へのダメージは無視できません。(統合失調症の早期発見・早期治療を巡る問題については【1190】をお読みください)

しかし、この【1418】のケースは、偽陽性の可能性はかなり低く、今の時点で統合失調症であると考えてほぼ間違いないと思います。

ただしそうは言っても偽陽性の可能性はゼロとは言えませんので、現実的な対応としては、【1190】の回答の最後にお書きした通り、「信頼できる先生を見つけて、その先生に長期にわたってかかる。薬をいつ飲むか、そもそも飲むか飲まないかも、その先生と相談しながら決める。」のが最善でしょう。
そしてこの場合、小児専門の精神科医であることは理想といえば理想ですが、今の日本には小児精神科医はきわめて少ないという現実がありますので、ことさらに専門家にこだわる必要はないと思います。

現在の状態は急ぎ受診が必要な状態なのでしょうか。

その通りです。そして長期的に通院を続ける必要があります。

 

その後の経過(2009.6.5.)


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