精神科Q&A

【1397】アナフラニールを服用したところ躁転しました(【1328】その後)


Q【1328】うつ病の再発を繰り返す妻の不安感でお答えいただいた者です。その後の妻の病状について、大きな変化(入院→アナフラニールの服用に伴う躁転)がありましたので、その概略を述べさせて頂き、先生のご意見をいただきたいと存じます。

X+2年9月
 不安感が続き、症状が改善しない。アモキサンを150rまで増量するが、変化なし。不安感による取り乱しを押さえるため、ワイパックスを一日に5〜6錠、リスパダール0.5 mlを2回程度服用しなければならなかった。それでも、かなりつらい様子で、だんだん安定剤が効かなくなってきている感じが見て取れた。
 中旬に入院。アナフラニールの投与開始。当初は不安も押さえられ睡眠時間も増え、いい方向に向かってきたように感じたが、ふらつきなどの副作用を調節するために睡眠薬を調整したところ睡眠の持続ができなくなったためか、鬱症状が悪化。不安は比較的少ないのだが、表情の変化に乏しく、不安焦燥の強いうつから、何にもする意欲が出ないうつへと変化したような印象。
 月末には「死にたい」という言葉やタオルで自分の首を絞めたりするような行為が出始めた。翌月2日個室に移動。電気けいれん療法の適用も視野に入れた治療方針となった。

X+2年10月
 10月3日は朝から本人曰く「すっきりした感じ」で、午前中の電話でも、「今日は調子がよい」と言い、夕方の面会でも笑顔が見え、歩く姿もこれまでの方をすぼめ、背中を丸めてとぼとぼと歩く姿から、背筋を伸ばして歩くスピードも速くなった。会話も長く続き、ぎこちなさはあるものの表情も堅さが和らぎ、素直に感情が表れるようになった。
その後も多少の波はあったが、睡眠も安定し、不安感・憂鬱感もなく、他の患者さんと談笑したり、TVを見たりすることもできるようになった。
 この頃の処方(1日量)
アナフラニール150mg
ワイパックス 3mg
アモキサン 50mg
デパケンR錠200×2
リスパダール 1mg(就寝時)
ベゲタミンA 1錠 (就寝時)
テトラミド 30mg(就寝時)
ユーロジン  2mg(就寝時)
フルニトロゼパム 2mg(就寝時)
下剤

 中旬には大部屋に移動し、その後も安定した状態が続いたが、間もなく薬疹が出たため、下旬にはデパゲン・リスパダール・ベゲタミンを中止。その後も、うつの症状は出なかったが、やや「テンションが上がりすぎている」様子が見られ、主治医から「躁転の疑いがある」と告げられた。月末にはアナフラニールを100rに減量し、様子を見ることにした。

X+2年11月
主治医からは、今しばらくの入院を勧められたが、家庭の事情もあり上旬に退院。自宅や実家で休ませることにした。しかし、中旬頃から再び、睡眠時間の減少と不安感が出てきて、アナフラニールを150mgに増量するが、朝から不安感と落ち着かなさをワイパックスとリスパダールの頓服で我慢しながら横になって過ごし、夕方から落ち着いて、就寝までは穏やかに過ごせる日が続く。就寝後も途中で目が覚めてしまうがワイパックスやリスパダールを追加してのみ5〜6時間程度の睡眠はとれていた。
月末の診察でアナフラニールを200mgに増量、頓服はリスパダール水薬0.5 mgとレキソタン。就寝時にリスパダール1mg追加となった。

X+2年12月
月初めから、不安感憂鬱感が感じられなくなる。表情も明るくなる。家事なども少しずつこなせるようになるが、ややハイペースだったり、話が止まらなくなったり、食材などを買い込みすぎたりする様子が見られ、穏やかに過ごすように注意しなければならなかった。睡眠時間はずっと6時間程度が続いた。上旬の診察でハイテンション気味の妻の様子を伝えたところ、アナフラニールを150mgに減量。ハイテンションな時にはリスパダール水薬の頓服で様子を見ることになった。その後、下旬まで安定していたので、主治医と相談の上、就寝時のテトラミドを中止した直後から、突然、鬱にダウン。不安感と憂鬱感はそれほどでもないが、何もやる気がせず、日中は横になって過ごし、夕方からはやや気分が良くなって夜は安定して過ごせる日々が続く。ダウンした直後からテトラミドを再開したが、1月上旬までその状態が続いた。

X+3年1月
上旬の診察で、鬱状態が改善しないことを伝え、アナフラニールを200mgに増量。併せてリチウムを200mgから開始。そのころから、鬱状態が改善してきたが、数日続いたかと思うと、午前中鬱気味になる日が続いたり、ハイテンションでやたら動きたがる日が数日続いたりと、波があった。その間、リチウムは600mgまで増量。ハイテンションの日は、リスパダールを頓服で服用。アナフラニールを125mgまで減量したが、月末からまた鬱にダウンしてしまった。

 この頃の処方(1日量)
アナフラニール200mg→175→150→125mg
ワイパックス 3mg
リスパダール 0.5mg(ハイテンション時頓服)
レキソタン  5mg(不安時頓服)
テトラミド 30mg(就寝時)
ユーロジン  2mg(就寝時)
フルニトロゼパム 2mg(就寝時)
炭酸リチウム 200mg→400→600mg
下剤

X+3年2月
先月末から鬱にダウンしたのを受けて、再びアナフラニールを175mg増量。1週間ほどして鬱状態が改善してきた。リチウムは800mg間で増量(下旬の血液検査で0.84)したが、中旬から再びテンションが上がり気味になってしまったため、アナフラニールを150→125mgへと減量。睡眠時間も7時間程度で安定し、穏やかに過ごせる日が多くなった。

X+3年3月
しばらく安定した状態が続いた(先月下旬から2週間)が、再び鬱が出てきてしまい、アナフラを150→175mgへと増量する。午前中は鬱が強くベッドに横になっているが、多少の波はあるものの夕方から夜にかけて落ち着く日が続いている。睡眠時間も7時間程度はとれている。

(質問)
1 非常に鬱とハイテンションの波の変化が激しいように思うのですが、家内は躁うつ病な のでしょうか。それとも、アナフラニールによって、軽躁状態が出現しているのでしょ うか。
2 今のリチウムを服用しながら、鬱や軽躁状態の出現に合わせてアナフラニールの量を 調節するという治療方針で、徐々に波が落ち着いてくるのでしょうか。

良くなったと思ったら悪くなることの繰り返しで、妻も「いったいいつまでこんな日が続くのだろう」とこぼしていますが、「大丈夫。必ず治るのだから、今は、ゆっくり休もう」と声をかけ、できる限りの家事を私や両親、子どもたちでサポートする毎日です。
先生のご回答やご助言をいただき、これからもがんばっていきたいと思います。多忙極まる中と存じますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。


林: 抗うつ薬でのうつ病治療中にハイテンションになることは時にあります。その場合、抗うつ薬による一時的なものか、あるいは元々が躁うつ病であったのかの判断はなかなか難しいもので、本当の決め手は経過を見る以外にありません。ということは、その時点では判断できないということです。
 ただ私としては、ごくごく一時的なハイテンションは別として、一定期間そのような状態が続く人は、まず間違いなく躁うつ病であるという印象を持っています。その根拠は、その後長期間にわたりフォローアップすると、大部分の人が躁うつ病と確定診断できているからです(実際にはフォローアップできない人もいますので、その人たちがどうであるかはわかりません。しかしフォローアップできた人に限っていえば、例外なく躁うつ病であることが判明しています)。
 私と同じような印象を持っている精神科医も多いので、これはほぼ正しい判断であると思います。けれども、証明することは困難なので、「有力な印象」という表現にとどまります。

この観点からこの【1397】の方の経過を見ますと、躁うつ病である可能性がきわめて高いと言えます。そうなると、アナフラニールを継続しているのはどうかという疑問も生まれますが、【1328】からの長いうつの経過を見ますと、主治医としてはなかなかアナフラニールの中止には踏み切れないというのはよくわかります。私の経験上も、長引いたうつがようやくよくなりますと、たとえその時点で躁うつ病の疑いが出てきても、思い切ってすぐに抗うつ薬を中止することはしにくいものです。(そうしているうちに、激しい躁状態になってしまい、もっと早く抗うつ薬を中止すべきだったと後悔することも時にあります。これを結果論とすべきか、それとも優柔不断だったとすべきは難しいところです)

以上を背景として、質問項目にできるだけ簡潔にお答えしますと、

1 非常に鬱とハイテンションの波の変化が激しいように思うのですが、家内は躁うつ病なのでしょうか。それとも、アナフラニールによって、軽躁状態が出現しているのでしょ うか。

躁うつ病だと思います。

2 今のリチウムを服用しながら、鬱や軽躁状態の出現に合わせてアナフラニールの量を 調節するという治療方針で、徐々に波が落ち着いてくるのでしょうか。

アナフラニールは、本当は中止したいところです。しかしこのような経過における抗うつ薬の処方はかなり微妙ですので、症状に応じて微調整するという主治医の先生の方針に従うのが最善でしょう。

その後の経過(2010.8.5.)


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