精神科Q&A

 【1328】うつ病の再発を繰り返す妻の不安感


Qうつ病との診断を受け、治療中の妻(40代前半)のことで相談させていただきます。

まず、これまでの経過の概略(私のメモと記憶を元に書いておりますが、何分、このような質問をすることになるとは思わなかったため、多少、不明確なところはあるかもしれません)を書かせていただき、その上で、お尋ねしたいことについて書きます。

X年8月〜11月

・「気分が優れない。憂鬱な気持ちになる。よく眠れない」という訴えが、1年くらい前から、何度かあった。しばらくすると落ち着き、いつものような妻に戻っていたが、くりかえされるので、医師の受診を勧め、8月末、近くの精神科を受診する。妻は専業主婦で小学5年と幼稚園年中の二児の母親。特に家庭内に大きな問題もなく、憂鬱になる心当たりもなかった。

・主治医から、「うつ病」との診断を受け、パキシル(量不明)を一日1回とマイスリー、ベンザリンの処方を受ける。入眠時にマイスリー、中途覚醒時にベンザリン。しかし、ベンザリンが強すぎ、翌日頭重感がひどいため、いろいろ眠剤を試した結果、マイスリーとベンザリンの同時服用となった。

・日によって波はあったが、全般的には症状が好転せず、かえって不安感が増長し、落ち着かず、一日中、足をさすったり、家の中を歩き回ったりしていることが多くなる。しまいには早朝より強い不安感を覚え「どうしよう、どうしよう」「私のせいで。みんなに迷惑をかけている」と同じことばかりしゃべり続け、誰かそばにいないと寝ていられない状況になった。また、思考力が著しく低下している様子が見られる。これは、投薬を始めてから出てきた症状のため、10月に入って、医師と相談しパキシルの服用を止め、代わりにコンスタン0.4rを就寝前マイスリーと一緒に服用することとした。徐々に精神的に落ち着き、家事や車の運転もできるようになっていった。その後、11月末に、薬の服用を中止し、治療を終了した。

・「あの3ヶ月は何だったのだろう」と思うくらい、その後の妻は、以前の明るい妻に戻っていた。

 その後、X+1年4月からは介護関係のパートの仕事も始め、生き生きしていた。「きっと、うつ病ではなかったのかもしれないね。」と話し合うくらいだった。7月からは家の建て替えのための引っ越し、仮住まいと多忙な日々もあったが特に問題もなく過ごしていた。12月末に新居が完成し、落ち着いた正月を迎えたX+2年1月、妻が再び「不眠とうつ病」を訴え始めた。

X+2年1月〜5月

・はじめは、残っていた眠剤とコンスタンを飲ませ、仕事のストレスもあるのかと、仕事もやめて様子を見ていたが改善しないので、1月末、再び前回と同じ医師に受診した。

・医師から、「うつ病」との診断を受け、スルピリド100r、コンスタン0.4rを1日3回+頓服+眠剤の処方を受ける。眠剤はこれまでの経験から入眠時にマイスリー、中途覚醒時にグッドミンという超短時間型で、合計5〜6時間程度の睡眠を確保することになった。2月に入ってスルピリド200rに増量。コンスタンを1日4回内服のペースで服薬していたが、昼間の不安感を訴え続けて午前中は家事もできず、ベッドの中にいることが多かった。(午後から夜は比較的安定)X+2年2月中頃からスルピリド300rに増量したが、不安感はさらにひどくなり、「どうしよう。どうしよう」「助けて、助けて」などとしゃべり通しで、そわそわして落ち着かず一日中動き通しでいたり、つらくなると自分の頭や胸を強くはたいたりようになった。家族もまいってしまい、緊急で医師の診察を受けたところ、「この状態なら入院した方がよい」と勧められた。期間を尋ねると3ヶ月程度とのこと。「子どもたちの卒園・卒業・入学式を控えており、なんとか入院しないですむことはできないか」とお願いしたところ、ワイパックス1rを処方され、「これを飲んで落ち着くようだったら、入院しないで様子を見ましょう」とのこと。早速家に帰って服薬し、入院の荷造りをしながら様子を見ていたら、みるみるうちに落ち着いていった。その日のうちに再受診し、改めてスルピリドを朝夕2回の200rに減量(乳汁が出る副作用があったため)、代わってアモキサンを朝夕2回の50r、ワイパックスを1日3回+頓服(1日5錠を限度に)、それでも落ち着かない場合はリスパダール1rとの処方を受けた。

・ワイパックスを飲み始めてからは、著しく不安感が減少し、回復に向かっていた。子どもたちの卒業・進学にかかわる準備や行事もなんとかこなし、4月にはほとんど以前と変わらない妻の笑顔が見られるようになった。リスパダールを飲むことはなかった。その後、スルピリドをさらに減量して、アモキサンのみにしワイパックスも頓服のみ。5月にはアモキサンも25rに減量。5月末には抗うつ病薬は終了し、不安を覚えたときのワイパックスの頓服と眠剤のみとなった。睡眠時間は5〜6時間で、それ以上長くはならないが、昼間うとうとしたりして補っているようで、元気そうに見えた。私自身も、「ようやくよくなってよかった。」と安心してしまったのだが.....

X+2年7月〜

・妻が7月半ばになって再び不安感を覚えるようになり、7月末の受診でアモキサン50rを再開。不安感は割と少なく比較的安定していたが、あまりやる気がでないと訴えることが多かった。8月上旬で75rに増量、8月下旬には100rに増量し、ワイパックスも1日3回〜4回程度の服用を続けている。しかし、8月下旬から意欲の低下とともに早朝から強い不安感を訴えるようになった。ワイパックスを飲むと、一時は落ち着くが、以前よりも持続せずに「身の置き所がない」と再びとりみだす様子が出てきた。医師に相談したところ、8月下旬からワイパックスの頓服(1日3回程度が原則だが、本当につらいときは5〜6回までよい)に加えて、メイラックス1rを就寝前に服用して様子を見ることになった。しかし、あくまでも抗うつ病薬でしっかりうつ病を治すことが第一で、次回の診察、9月の上旬の時点で、うつ病の改善がなければ、150rまで増量するかもしれないとのこと。

以上が、現在までの経過です。私は時間の都合がつく限り、妻と一緒に診察に立ち会い、家庭での様子などを主治医に伝えるようにしています。うつ病の再発もありましたが、主治医を信頼して、今後も治療を続けていきたいと考えていますが、セカンドオピニオンとして、以下の質問にお答え頂ければ幸いです。

(1) 妻のひどい不安感と落ち着きのなさは、うつ病の治療を開始してから現れるようになった(と私には思える)のですが、これはうつに起因するものでX年8月の時点で治療を開始しなくても、こうした症状は出てきたのでしょうか。

(2) うつ病の治療が完治すれば、不安感もなくなるのでしょうか。

(3) コンスタン(弱)→ワイパックス(強)、量も増加、効きめの持続も短くなるといった傾向が見られると思うのですが、治療を続ける限り、この傾向は続くのでしょうか。

(4) これまでのうつ病の再発は、まだ、完治していなかった。抗うつ薬の中止が早すぎたためでしょうか。

(5) 今後、症状が改善しても、うつ病の再発を防ぐためには、長期にわたって抗うつ薬を飲み続けなければならないのでしょうか。 

以上、長くなってしまいましたが、何とかして妻に笑顔を取り戻してやりたいし、「うつ病は必ず治る」と確信して治療を続けるためにも、先生のご回答やご助言をいただければと存じます。

多忙極まる中と存じますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。


林: 奥様はかなり典型的なうつ病だと思います。つまり、適切に治療をすれば治るということです。

そのように判断できる根拠は、症状・経過の全体もそうですが、初発の仕方、すなわち、

・「気分が優れない。憂鬱な気持ちになる。よく眠れない」という訴えが、1年くらい前から、何度かあった。しばらくすると落ち着き、いつものような妻に戻っていたが、くりかえされるので、医師の受診を勧め、8月末、近くの精神科を受診する。妻は専業主婦で小学5年と幼稚園年中の二児の母親。特に家庭内に大きな問題もなく、憂鬱になる心当たりもなかった。

このように、はっきりした原因もきっかけもない場合には、それだけでもほぼ確実にうつ病と判断できます。 (または、脳の他の病気ということもあり得ますが、この【1328】ではその可能性は低そうです)

(1) 妻のひどい不安感と落ち着きのなさは、うつ病の治療を開始してから現れるようになった(と私には思える)のですが、これはうつ病に起因するものでX年8月の時点で治療を開始しなくても、こうした症状は出てきたのでしょうか。

これはかなり難しい質問です。しかし結論としては、「うつ病に起因するもの」と考えるのが妥当だと思います。

X年8月の時点の不安感・落ち着きのなさだけを見ると、確かにパキシルを服用してから始まっており、しかもパキシルの中止によっておさまっていますので、むしろ副作用と考えたくなるところです。事実、抗うつ薬にはこのような副作用(つまり、不安などを抑えるのが本来の作用なのですが、なぜか逆に不安を高めることがあり得るのです。特に飲み始めによくみられます)がありますので、ここまでですと、パキシルの副作用という判断に傾きます。
 けれども、X+2年2月、さらには8月にも、パキシルの服用なしで同様の症状が出ていますので、ここまでの全経過をみますと、うつ病に起因する症状とみるのが妥当でしょう。
(但し、X年8月、X+2年2月、X+2年8月の症状が、それぞれ、パキシル、ドグマチール、アモキサンによる副作用という可能性も完全には捨て切れませんが)

(2) うつ病の治療が完治すれば、不安感もなくなるのでしょうか。

病的な不安感はなくなります。

(3) コンスタン(弱)→ワイパックス(強)、量も増加、効きめの持続も短くなるといった傾向が見られると思うのですが、治療を続ける限り、この傾向は続くのでしょうか。

ワイパックスを飲み始めた時点で、コンスタンを中止したのか中止していないのかという重要な点がメールには明記されていませんので、本来はこの質問には回答不能です。
ですが、一応ここでは、その時点でコンスタンを中止したものと仮定してお答えしますと、
コンスタン0.4mg4錠と、ワイパックス1mg3錠(〜5錠)は、はっきりと後者のほうが強いとは言い切れませんので、この(3)のご質問の主旨と思われる、「だんだん薬が強くなっている」には当りません。

(4) これまでのうつ病の再発は、まだ、完治していなかった。抗うつ薬の中止が早すぎたためでしょうか。

そうだと思います。

(5) 今後、症状が改善しても、うつ病の再発を防ぐためには、長期にわたって抗うつ薬を飲み続けなければならないのでしょうか。

一般論として、

抗うつ薬を飲み続ければ再発の確率は低くなる。
けれども
抗うつ薬を飲み続けなくても、再発しないことは十分にあり得る。

ということが言えます。そして、実際には、飲み続けるかどうかは、再発した場合の症状の重さや、それまでの再発の回数などによって決めるのが普通です。
また、再発予防という意味では、薬以外に、認知療法にも効果があります。

したがいまして、この質問(5)には一概には答えにくいのですが、あえてイエスかノーかでお答えしますと、この【1328】のケースでは、抗うつ薬を飲み続けるほうが望ましいと私は思います。
 私がそう考える理由のひとつは、この方は何のきっかけもなく発症(再発についてはきっかけの有無の記載がメールにないのでわかりませんが、もし再発にもきっかけがなければ尚更です)しているので、心理的な原因よりも脳内の原因のほうがきわめて大きいと考えられるからです。(本来は、「心理的」と「脳内」を二つに分けることは出来ないのですが、ここでは説明のため便宜的に二つに分けます)。そのようなケースでは、確実に再発を予防するためには、薬が必要と考えるのがやはり適切でしょう。

 

その後の経過(2008.5.5.)


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