精神科Q&A

【0761】うつ病が1年以上長引いているのですが、いまの治療を続けるべきでしょうか


Q: 40歳男性です。1年前に、初めてうつと診断されました。仕事も順調で、残業などは多かったのですがやりがいをもって仕事をしていたので信じられない気持ちでした。
しかし、1ヶ月の休暇をとり2週間目くらいにはからだが全く動かず、希死念慮を抱きもしましたが、1ヶ月で順調に回復し復職後も大きなプロジェクトを完了させました。

しかし、半年前に突然からだが動かせなくなり、うつの再発と診断されました。
当時のセクションは幹部候補なども多い多忙な職場でしたので年度末に異動を申し出て、治療に専念することとしました。それでいったんは良くなったものの、いちど残業をしすぎて2ヵ月後に再発してしまいました。それ以降はほぼ残業をせずに帰宅していたのですがほぼ2ヵ月おきに再発していました。記録をみますと、それ以外にも軽いからだのだるさで、うつという自覚なしに1週間ほど休んでおり、中2ヶ月に1〜2週間うつを再発する、という経過をたどっています。とくにうつになる際に、仕事上で問題があるといったことはなく、順調にきているのに突然に調子をくずします。

 主治医からは、「ラピッドサイクラー」といわれ、うつ自体が「内因性」のものだから、仕事とか気持ちとかの問題ではないように言われています。私自身は、うつが快方にむかう途中のゆりもどしで何回ががまんすればおさまるものだと思っていたのですが、そのような診断にややショックをうけました。しかし私の妻はその点に納得しておらず、(妻は保健師をしています)「1年以上回復せず薬もかえることなく、難しい症例だから仕方がないというような言い方はおかしいのではないか」といっています。(医師の元に妻も同席しました。医師は「あんたの奥さん苦手」といっています)現在処方されている薬はトレドミン朝夕各50ミリとミラドール50%1日0.2g、エリスパン朝夕各25ミリ、ピレチア1日0.2gです。最初はトレドミンとエリスパンでかわらずきています。ミラドールとピレチアは半年前に加わりました。

 前回受診した際、医師に、「三環系つかってみるのもひとつの手だけど、今の薬が体にあっているみたいだしな」と言われましたが、三環系は副作用がこわく断りました。現状通り粛々といまのとおりの薬物投与をつづけ、いつか再発をやむことを祈る以外方法はないのでしょうか。
それとも今の医師に違う薬をおねがいするか、他の医師の診察を一度うけてみるのもひとつでしょうか。ご教示いただけますと幸いです。


: あなたの受けている治療は不適切だと思います。このままでは治らない、とまでは言い切れませんが、非常に治りにくい状態が続くでしょう。

1年以上回復せず薬もかえることなく、難しい症例だから仕方がないというような言い方はおかしいのではないか

という奥様のご意見に私も全面的に賛同します。

それでいったんは良くなったものの、いちど残業をしすぎて2ヵ月後に再発してしまいました。それ以降はほぼ残業をせずに帰宅していたのですがほぼ2ヵ月おきに再発していました。記録をみますと、それ以外にも軽いからだのだるさで、うつという自覚なしに1週間ほど休んでおり、中2ヶ月に1〜2週間うつを再発する、という経過をたどっています。とくにうつになる際に、仕事上で問題があるといったことはなく、順調にきているのに突然に調子をくずします。

この経過を見れば、治療効果が満足に出ていないことは明らかです。そしてこれを「再発」と呼ぶか、あなたの当初のお考えのように「ゆりもどし」と呼ぶかについては、不十分な薬物治療が続いている状態で考えても仕方のないことです。まずはきちんとした治療が必要です。うつ病が長引く最大の原因が、不十分な薬物療法であることは、うつ病の医学部講堂にも、うつ病の相談室のp.64〜にも説明がありますのでご参照ください。

ここは当然三環系の抗うつ薬を使うべきところでしょう。そのチャンスはあったようですが、

前回受診した際、医師に、「三環系つかってみるのもひとつの手だけど、今の薬が体にあっているみたいだしな」と言われました

この医師の言葉は理解に苦しむところです。いったい何をもって「今の薬が体にあっている」と判断しているのでしょうか。ぜんぜん良くなっていないではありませんか。もし副作用がないことを「体にあっている」と表現するのなら、水を飲んでいても同じことです。いくら副作用がなくても、効いていなければ、薬も水も同じでしょう。

もっとも、三環系抗うつ薬を使わないのが、医師の方針なのか、あなたの希望されたことなのかがいまひとつわかりかねます。

と言われましたが、三環系は副作用がこわく断りました。

という記載があるからです。
もし副作用を心配して三環系抗うつ薬の治療を断ったのであれば、あなたは偏った医療情報に毒されているといえるでしょう。
SSRIやSNRIと三環系抗うつ薬を比べると、副作用の内容は確かに違います。けれども、どちらが副作用が強いとか弱いとかいうことはありません。これはきわめて重要なことで、うつ病の相談室のp.71〜にも書きましたのでぜひお読みください。

SSRIやSNRIが副作用が少ない、というのは、これらの薬を売り出すための売る側の宣伝戦略という要素が強いといえます。宣伝は決して悪いことではありませんが、宣伝として注がれる情報を鵜呑みにしていると、適切な治療を自ら拒否して病気が長引くことになりかねません。

それからもうひとつ、

主治医からは、「ラピッドサイクラー」といわれ

とのことですが、あなたはラピッドサイクラーではありません。ラピッドサイクラーとは、躁うつ病のひとつのタイプで、躁とうつの状態が非常に短期間に入れ替わるものをいいます。あなたはそもそも躁うつ病ではありませんから、ラピッドサイクラーという診断名があてはまることはありません。

以上、あなたの現在かかっておられる先生の治療法も説明も、間違っていると私は思います。あなたの奥様の意見のほうが正しいと思います。うつ病は治ります。ぜひ適切な治療を受けてください。そのためには他の医師にかかられたほうがいいと思います。

その後の経過(2006.10.5.)


精神科Q&Aに戻る

ホームページに戻る