精神科Q&A
【2330】15歳からだんだん不適応になってきた、現在20歳の息子
Q: 50歳前半の父親ですが、息子のことで肉親、兄弟にも相談できずに妻と二人で悩んでおります。こちらのホームページみさせていただくまでは精神病など微塵も疑うこともありませんでした。
過去には児童相談所や県立青少年センター、県警付属の少年サポートセンターなどに相談(親のみ)に伺ったことがあります。
そこでは何れも、「思春期特有の感情であり、子供の気持ちをしっかりと受け止めてあげてください。親側も変わらなければ子もかわりませんよ。」といった内容のアドバイスを受け、家族協力しあいながら、できるだけ子供の立場に立った対応を心がけてまいりました。
家族状況は私と妻、長男、長女、祖父の5人家族です。
過去の流れを箇条書きにまとめます。
〜14歳
どちらかというとおっとりとした引っ込み思案タイプでしたが、家庭ではけっこう明るかったと思います。小学校のころから運動クラブに入っており中二の秋ころまで続けておりました。
15歳(高1)の頃
高校入学まもなく校則違反で担任とのトラブルを引き起こしたり、クラスメートとの人間関係がうまくいかず喧嘩をするなどで結局、学校を3ヶ月ほどで退学。その後は心身ともに荒れ果て、自販機荒らしやバイクの無免許運転、万引きなどを繰り返し、警察のお世話になったこともあります。
16〜18歳の頃
同じタイプ子達で高校を中退した不良仲間が家に出入りするようになり、生活パターンが絵に描いたような昼夜逆転となる。
16歳の4月に高校を再受験し入学。しかし、長続きせず不登校を繰返し一ヶ月で中退。
アルバイトをするが、そこでも同僚たちとトラブルで長続きせず。その後アルバイトと昼夜逆転の繰返し。
1年ほど続いたバイトもあるが、結局は自分自身が原因のトラブル(時間約束を守らない。勝手な行動をとる、職場で喧嘩をするなど)で解雇されたことも。
この頃から、イライラすると親に罵声を浴びせたり、物を壊したり、「こうなったのもお前たちせいだ!」などといって暴力をふるうなど、DV行動がエスカレートしていく。(しかしこの時点では骨折させるとか、外傷を負わせることはない。)
17歳頃からパチンコにはまりだし、もらったバイト代を2、3日で使い果たし、親に金をせびる日が結構続きました。
この辺までは思春期から続く親への憎悪感と自分自身の将来への焦燥感が積もり積もった結果ではないかと思っておりました。(勿論、親にも子育て上の責任はあると感じております。)
18〜現在
18歳の秋頃に思い立ったようにバイトに復帰するが、人間関係がうまくいかず3ヶ月ほどで退職。
その後は徐々に労働意欲が無くなり、昼夜逆転の引きこもり生活がはじまる。
3ヵ月ほど前には自営の仕事を手伝うと自分から進み出て、2日間一生懸命働いてくれたのですが、3日めには後戻りでした。
それから暫くして、祖母の幻惑(20年前に死亡、仏壇に写真あり)を見たといって夜中に大声を上げたり、自分の考えを否定されたり、自分の思うとおりに事が進まなくなると、ちょっとした事でキレて物に当ったり、私と妻に暴力を振ったりするようになりました。
時には「死にたい」などということを連発したりします。
あるときは、「店に行くと店員とかが、オレの顔をジロジロ見て笑っている。顔が変だからだ。」 などと被害妄想的なことを言うこともあります。
そして19歳の春頃から鏡で自分の顔をながめては
「こんな顔では外に出られやしない。」
「整形がしたい。」
「学校やバイト先でうまくいかったのは顔のせいだ。この顔で生まれてきたおかげで、オレは中学の時にいじめられ、バイト先でも顔のことを変な顔だと云われ、耐えてきたんだ。良い顔にさえ生んでくれれば、こんなことにはならなかった。こんな顔に生んだお前らが悪い。責任をとれ!整形させろ!」
などと言い出しました。
私としては不本意意だったのですが妻と相談の結果、先月、顔の一部の美容整形をさせました。
予想されたことですが、一箇所だけでは気にいらず、再び顔全体を整形するというようなことをいいはじめております。
とにかく最近、考え方が歪んできており、自分自身の誤った考え方を指摘されても聞く耳もたず、
「今までの自分の人生をメチャクチャにさせたのは苛めたクラスメートであり、職場の人たちである。然るにこの顔に生まれなければ苛められることはなかった。従ってこの責任の源は親にある。」
という誰が聞いてもおかしな考えの上にたっているのです。全て他人に責任転嫁する姿勢です。
このような状態ではいつか家族が崩壊するのではと、危機感を強く感じております。
今の息子の状態はやはり精神疾患なのでしょうか?
林: 息子さんは統合失調症だと思います。少なくとも「統合失調症圏」の精神病であることは間違いないでしょう。
その根拠は、思春期になったころから徐々に人格が変化してきたとみなせること、最近になって被害妄想や幻聴と解釈できる症状が見られること、また、顔を整形するという、醜形恐怖に一致する症状もあり、これも他の症状とあわせると、統合失調症圏内のものと判断できます。
「統合失調症圏」「統合失調症圏内」というやや曖昧な表現を使ったのは、現代の診断基準上は、この【2330】のケースは統合失調症とまでは診断できないと思われるからです。【2000】から【2078】で解説した、統合失調症の前駆症状、あるいは、ARMS等と呼ばれる状態であるということもできるかもしれません。
古典的な病名で、現在ではほとんど用いられることはありませんが、この【2330】のケースの初期の経過は、類破瓜病heboidophreniaと呼ばれるものにかなりよく一致しています。これはカールバウムKahlbaum (1828-1899)が記載したもので、次のような概念です。
欲動の異常を主徴とする青年期精神病。何かしら精神障害の遺伝負因を認めることが多く、幻覚・妄想など明らかな精神症状はないが、気分変化、社会や家庭における反抗、考えの偏りなど生活態度全般の障害を前景とし一部は犯罪に結びつく。・・・
(濱田秀伯著 精神症候学 第2版 弘文堂 p.400)
この【2330】のケースは、結局は幻覚・妄想がありますので、厳密には類破瓜病には一致しません。
しかし私の臨床経験では、カールバウムの類破瓜病に一致すると思われたケースが、その後何年も経過を見ると幻覚妄想が現われ、それまでの非行や反社会的な行動は統合失調症の前駆症状であったと判断できたことが複数あります。(【2334】もご参照ください)
この【2330】のケースの父親である質問者は、
この辺までは思春期から続く親への憎悪感と自分自身の将来への焦燥感が積もり積もった結果ではないかと思っておりました。(勿論、親にも子育て上の責任はあると感じております。)
とご自身の責任を感じておられます。
類破瓜病も、一時は誤った教育による「モラル精神病」であるという説が強かった時代もありましたが、のちには破瓜病に近縁の別種の疾患とされるようになりました。すなわちこれは現代の言葉でいえば統合失調症圏内の精神病ということになります。質問者は、息子さんの今の症状について、ご自身を責める必要はないと思います。これは精神病の一種です。
(2012.12.5.)