精神科Q&A

【2255】楽しい気持ちがあるうちはうつ病ではないと思うのです


Q: 友人に心療内科か精神科を進められました。23歳女性です。ここ2ヶ月ほど思い悩むことが複数あり、同時期より体調が優れません。悩みは現在の恋人との結婚について自分の過去に受けた軽度の虐待自分の転職(将来の展望)と現在の雇用契約現在の業務内容に対する自分の不適合さ どれもひとつずつ個別で悩んでいるのではなく自分のなかで繋がった問題です。体調不良の状態として、気分の落ち込み(自分が社会に対して不要であるから生きている必要がない等) 動悸 息苦しさふとしたことで涙が出る 手足の強張りむくみがあります。 また家に居る、もしくは食事がとれる状態のときは満腹かそれ以上でないと不安です。食欲はあります。睡眠が少なくなると非常に不安で動悸と滅入り方が強くなります。 しかし自分は楽しむことが出来ます。食事も味があります。仕事である接客ができます。 病気ではないかと言われましたが楽しめるうちはまだ自分の頑張りと悩みを克服する強さが足りない甘えた状態ではないかと思います。ただ、もし心療内科か精神科にかかって体調不良、特に気分の落ち込みが軽減するならばと考え相談いたしました。よろしくお願いします。


林: この【2255】のタイトルである、楽しい気持ちがあるうちはうつ病ではない は、確かにうつ病かどうかを判断する場合の重要な指標のひとつです。「物事を楽しめない」、すなわち、正式な用語でいうと「興味や喜びの消失 --- アンヘドニア」は、うつ病と擬態うつ病を区別するための重要なポイントになります。
 けれども、うつ病であっても、物事を楽しむことが文字通りゼロといえるほど完全にできなくなるとは限りません。うつ病の極期には文字通りゼロになることがあるにしても、初期や回復期には、ある程度なら楽しめることも少なくありません。ただ、その人の本来の楽しむ気持ちは出てこない、少なくとも物事を謳歌することはできないというのが、うつ病の特徴的な症状です。ちょうど先月 (2012年5月) に私が出版した 名作マンガで精神医学 に、この事情を記した部分がありますので引用します:

前述の通り、快感喪失の「すべてに興味・喜びを失う」という、この「すべて」の判断が、臨床ではなかなか難しい。91ページに引用したクレペリンの教科書にあるような、あそこまで典型的な症状であれば誰にでも判断は容易だが、実際の臨床例では、完全にゼロとまではいえないことも多いので、その判断には専門的技量を要するのである。つまり、うつ病の人によくよく聞けば、ほんの少しくらいは楽しめることは稀ではない。しかしその質が、元気なときとはまるで違う。「謳歌」は決してできていないのである。うつ病が回復してきて、少しなら楽しめるようになったケースを紹介しよう。・・・


以上の通りですので、この【2255】の質問者の、

楽しい気持ちがあるうちはうつ病ではないと思うのです

というお考えは、理論的には誤りとは言えませんが、現実としては誤りです。質問者はうつ病の可能性が高いと思います。
さらにいえば、

病気ではないかと言われましたが楽しめるうちはまだ自分の頑張りと悩みを克服する強さが足りない甘えた状態ではないかと思います。

という考え方も、いかにもうつ病の人らしいものであるといえます。

もし心療内科か精神科にかかって体調不良、特に気分の落ち込みが軽減するならばと考え相談いたしました。

受診をお勧めします。

(2012.6.5.)


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