精神科Q&A

【2071】成育歴を詳しく聴かなければ、統合失調と思春期の一過性の異常行動は見分けられないのではないでしょうか


Q: 30代女性です。林先生のサイトの統合失調症についてのたくさんのQ&Aを読ませていただき、統合失調の初期を判断することが非常に難しいことや、また、統合失調を発症する恐れが高くとも治療が必要かどうかを判断することもまた難しいことがわかりましたし、遺伝的要素が重要視されることなどもわかりました。 ただ、1件だけ納得のいかない回答がありました。それは「【1419】11歳の息子の奇妙な症状と被害妄想」です。 もしかすると、回答に書かれている内容は、質問者からの内容を全て載せているわけではなく、とても要となる部分を、個人情報保護などの観点で割愛せざるを得なかった…ということもあるのかもしれません。ですから、もしかしたら質問者のメールを全て開示して先生がご説明されたら納得がいくのかもしれませんが、とりあえず、【1419】の回答を読んだ限りでは、以下のような親子関係がある可能性があるのでは…?と思わずにいられませんでした。 

私はある家でお世話になったことがあり、その家の子がそんな感じでした。ただし、私から見て、おかしいのは子どもではなく、お母さんの方でした。お母さんは自分の感情を抑えることがとても下手で、簡単に言えば非常にわがままで人付き合いも下手で友人も少なく、何かあると子どもの学校や塾に乗り込んで大騒ぎすることもありました。家の中でもなにか気に入らないことがあると大声で泣き喚き、物を壊したり子どもを強く殴打することもよくありました。彼女は家での子どもの勉強をはじめとする行動に時間割を作り、分刻みで子どもをコントロールしていました。少しでも時間割から外れると激しく叱責され叩かれるので、子どもはいつもびくびくしながら時計ばかり見ていました。テレビ・漫画・ゲームは、目に悪いという理由で一切禁止です。子どもは、回答例の子どもと同じように「(学校や塾の)皆が自分を嫌っている」と言っていましたが、これはお母さんがしょっちゅう「○○すると嫌われる」などと言って刷り込んだせいと思われました。お母さんは学校や塾でも当然嫌われており、そういう場合の常として、他の親は自分の子どもにそういう家の子どもとのつきあいをしないように言いますので、その子どもが嫌われている(悲しいことですが)という事実もあります。そもそも、テレビも漫画もゲームも一切させられていないので、友達の話題にも入っていけません。そんな状況では、子どもが学校や塾に行きたがらないのもごく自然なことに思えます。 するとまたそれについてお母さんに叱られる、叩かれるという悪循環になっていました。また、その子どもは言動もまとまらないのですが、それは何を言ってもお母さんに怒られるという恐怖と緊張感からであると思われました。ところがお母さんはそれを理解せず、「きちんと自分の意見が言えないこの子は、頭がおかしいんじゃないか、精神病なんじゃないか」と言っていました。
あまりに酷い家庭環境なので、児童相談所に連絡をしようと思ったことも何度もありましたが、その結果子どもが一層傷つくことになりはしないかとか、他人がそこまでやっていいのだろうかとか、などと迷っているだけで結局行動に踏み切れませんでした。

以上が、【1419】の回答を読んで、あらためて思い出されたことです。【1419】の方にも、これに似たような事実があったのではないかと思えてなりません。表面にあらわれた症状だけからは決して診断はできず、成育歴の詳しい確認が必要なのではないでしょうか。


林: 実にもっともなご指摘です。ありがとうございました。まさにこの【2071】の質問者のおっしゃる通りで、本来はこのように、成育歴などの確認が必要で、それが精神科の正しい診断手順です。そして、成育歴などにこれといって問題がないのに統合失調症を思わせる症状があれば、統合失調症の可能性はとても高まります。
 しかしこれもまたご指摘の通りなのですが、メールによるQ&Aではそこまでの情報が得られるとは限らず、また、仮に得られた場合でも、掲載にあたっては個人情報保護の観点からカットせざるを得ないという事情もあります。
 ご指摘の【1419】については、サイトに掲載した内容以上のことは、そうしたものがあるかないかを含め、開示はいたしません。が、各種のことを勘案しても、【1419】の回答そのものには誤りはないということだけはお伝えいたします。


◇ ◇ ◇

この【2071】のご指摘は実に適切なものです。とはいえ精神科の診察ではこのご指摘内容は本来なら常識なのですが、昨今では表面的な症状のチェックにとらわれ、成育歴を含めたその人の全体像をみるという作業が軽視されているという憂うべき傾向があります。この傾向が、心の病の膨大な偽陽性(擬態うつ病や今回のテーマである統合失調症の初期など)を生んでいるといえます。表面的な症状の項目だけを見れば、たとえば解離性障害を統合失調症と誤診する可能性はきわめて高いといえます。境界性パーソナリティ障害をうつ病と誤診する可能性についても同様です。


【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。


(2011.6.5.)



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