精神科Q&A

【2053】幼少時から頭の中に4人の友人がいた。最近は自分の考えていることが溢れ出すのが怖いため部屋の窓を開けることができない


Q: 18歳女です。以下の症状に苦しんでいます。・人が怖くひきこもり常に無気力・イライラや恐怖が湧きあがると嘔吐なしの過食をしてしまう・車がしょっちょう私を轢き殺そうとしてくる・ちょっとした机の角や壁を触らずにはいられない。触らないと気になり、引き返して触ってしまう・自分や人の服を踏んだり、落としてしまうとその服の持ち主が死ぬと思う・私以外の人間は皆私を監視するために生み出された監視員。私に近い人間ほど幹部の監視員。
・通行人も監視員。私が通り過ぎる瞬間ヒソヒソ声で私の悪口を言っている。だから私はipodとマスクが手放せない・私は幼少時から頭の中に4人の友人がいたが、私のことを一番好いていてくれた友人が最近嫌なことばかり命令してくるようになった・この世界が空虚なものに思う時もあれば、混沌としたまがまがしいものに思う時もある。・物には八百万の神様が宿っていて、物の感情が宙にうねって見える・家の周りを近所の男がぐるぐる回っている・私以外の人間がぽっと出てきたようにしか思えない。神様に年齢、性格、容姿、立場を設定され私を監視するために生み出された・自分の考えていることが溢れ出すのが怖いため部屋の窓を開けることができない・音が怖い・死にたい、死ななければならない。リストカットをしている。 
 以上の症状です。御覧のとおり、妄想が支離滅裂なものです。以上の症状が酷い時と落ち着いている時を繰り返しています。この文章を書いている今は結構落ち着いています。私は小・中・高校と虐めを受けており、堪え切れなくなった1年程前に心療内科を受診しました。その時医師から貰った診断名は「適応障害」で、ロナセンという薬を処方されました。そのまま通院していればよかったのですが、本で「適応障害」は明確なストレス因子があり生じるものと読んだことがあり、私はその因子を「学校」だと思ったので卒業と同時に、医師の許可なしに通院と投薬を止めてしまいました。ですが最近また精神的に辛くなり精神科の思春期外来を受診しました。現在通院して1ヵ月になりますが、何の診断名もついていません。MRIでは何の異常もありませんでした。心理検査では怖い絵?を見た瞬間泣き出してしまい、途中で放棄してしまいました。 お聞きしたいのは適応障害は放っておくと何か別の病気になり妄想が出てくるのか?ということです。それとも今の私の症状は適応障害が悪化したものなのか? 元々空想家な自分が構って貰いたくて病気を演じているのか? です。是非林先生のご意見をお聞かせ下さい。


林: 
・私は幼少時から頭の中に4人の友人がいたが、私のことを一番好いていてくれた友人が最近嫌なことばかり命令してくるようになった

「幼少時から頭の中に4人の友人がいた」という点は、【2052】でご説明した「想像上の友人」を思わせる症状であることと、

・ 自分の考えていることが溢れ出すのが怖いため部屋の窓を開けることができない

これは【2051】でご説明したことと非常によく似ています。
【2051】、【2052】のケースはいずれも解離と判断できますので、するとこの【2053】も解離の疑いありという見方もあり得ますが、【2051】でご説明したように、「自分の考えていることが溢れ出す」というのは、むしろ統合失調症に特徴的ともいえます。
そして、この【2053】のケースには、統合失調症を思わせる症状がいくつも見られています。特に目立つのは

・ 人が怖くひきこもり常に無気力
・ 車がしょっちょう私を轢き殺そうとしてくる
・ 私以外の人間は皆私を監視するために生み出された監視員。私に近い人間ほど幹部の監視員。
・ 通行人も監視員。私が通り過ぎる瞬間ヒソヒソ声で私の悪口を言っている。だから私はipodとマスクが手放せない
・ 音が怖い
・ 物には八百万の神様が宿っていて、物の感情が宙にうねって見える
・ 家の周りを近所の男がぐるぐる回っている・私以外の人間がぽっと出てきたようにしか思えない。神様に年齢、性格、容姿、立場を設定され私を監視するために生み出された


これらはそれぞれ、被害妄想的な過敏さ、妄想のような考え、超自然的・神秘的思考、生活レベル低下にあたり、統合失調症にかなり特徴的な症状といえます。
また、

・ ちょっとした机の角や壁を触らずにはいられない。触らないと気になり、引き返して触ってしまう
・ 自分や人の服を踏んだり、落としてしまうとその服の持ち主が死ぬと思う


これらは強迫に分類される症状ですが、統合失調症のごく初期や前駆期には強迫だけが目立つことがあること、この【2053】のケースにはこれ以外にも統合失調症らしい症状がいくつもあること、強迫の内容に奇異なニュアンスがあることなどから、強迫性障害ではなく、統合失調症の症状であると判断できます。

以上の症状です。御覧のとおり、妄想が支離滅裂なものです。

と質問者はおっしゃっていますが、これらは支離滅裂とはいえず、むしろ、統合失調症に典型的なものばかりであるという共通点があります。
したがってこの【2053】は、解離ではなく、統合失調症であると判断できます。

堪え切れなくなった1年程前に心療内科を受診しました。その時医師から貰った診断名は「適応障害」で、

とのことですが、

ロナセンという薬を処方されました。

ロナセンは抗精神病薬ですので、この時の医師は【2053】の質問者を統合失調症と診断していたか、少なくとも統合失調症の疑いが強いと考えていたと思われます。
 にもかかわらず「適応障害」と診断された理由としては、
1. 診断が確定できないので、とりあえず適応障害と伝えた
2. 統合失調症と伝えることで、ショックを与えることを避けた
のいずれかが考えられます。
どちらも実際の臨床では合理的な理由といえますが、

本で「適応障害」は明確なストレス因子があり生じるものと読んだことがあり、私はその因子を「学校」だと思ったので卒業と同時に、医師の許可なしに通院と投薬を止めてしまいました。

というように、「適応障害」という診断名を告げられたために、ご本人が自ら治療を中断してしまったという経緯を見ますと、当初から「統合失調症」と伝えるべきだったとも考えられるところです。
けれども、「統合失調症」や「統合失調症の疑い」と告げられたために、治療を拒否するというケースのほうが実際には多いと思われますので、この【2053】のケースで「適応障害」と告げたのがよくなかったというのは結果論にすぎないといえるでしょう。

いま「結果論」といいましたが、決して取り返しのつかない結果になったわけではありません。

最近また精神的に辛くなり精神科の思春期外来を受診しました。

とのこと、今回はぜひ治療を受け続けてください。


◇ ◇ ◇

ひとつ前の【2052】で「想像上の友人」についてご説明しました。それは、「幻聴 = 統合失調症」と単純に考えることによって、統合失調症という偽陽性診断が増えることへの注意の意味を含んでいますが、「想像上の友人」のように見えても、統合失調症のことはあるというのがこの【2053】です。そもそも解離よりも統合失調症のほうがはるかに多く、また、多くの方が、「自分は統合失調症ではない」「自分の家族は統合失調症ではない」という結論に飛びつき、その結果治療が遅れる傾向がありますから、やはり幻聴があれば統合失調症の可能性を第一に考えるべきと理解するのがいいでしょう。


【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。


(2011.6.5.)


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