精神科Q&A
【2051】夜窓を開けると、暗闇が部屋の中にゆっくりゆっくり入ってくるようなイメージに襲われます
Q: 20代男性です。小さな頃から、いろいろな違和感と付き合っています。ふとした瞬間に、自分が360度カメラから覗かれているような、家庭用ホームビデオに映っているリアルタイムの自分を見ている感覚が起きます。その時は大抵思考が停止しているか、逆に少しの物音も近くに聞こえるくらい感覚が研ぎ澄まされていて、自分が空気に包まれているかと言うか圧迫されているような感じがします。 最近は夜窓を開けると、暗闇が部屋の中にゆっくりゆっくり入ってくるようなイメージに襲われます。そのときもなぜだか感覚が研ぎ澄まされていて、自分以外の人間の一瞬先の言葉が読めたり、デジャブがいっぱいおきたりします。 頭の中は黒一色で「無」といった感覚でしょうか・・おでこから眉間にかけてが押されているような、盛り上がってきているような感覚がして、気持ち悪いのではなく、心地良いです。 その状態のまま眠りにつくと、必ずといっていいほど、とてつもなく広い真っ暗な海のど真ん中でプカプカと気持ちよく浮かんでいる夢を見ます。 小さな頃からずっと付き合ってきた感覚なだけに、もう慣れっこなのですが、自分のこの症状?はどのように分類されるのか気になってご質問させていただきました。
林: 解離の一種だと思います。
最近は夜窓を開けると、暗闇が部屋の中にゆっくりゆっくり入ってくるようなイメージに襲われます。
この体験は、自我の境界の崩れを反映しているという解釈が可能で、すると、統合失調症に特徴的な症状という見方もできます。これにそっくりの描写が、つげ義春の『夜が掴む』という作品に描かれています。私はある本にこれを、統合失調症の自我障害が描かれている作品であると書いたことがあります。
けれども、解離性障害でもこれに似た体験が見られることがあり、この【2051】のケースは、全体として解離の体験が認められていますので、統合失調症ではなく解離とみるほうが妥当でしょう。
ただしこの【2051】のケースでは、これらの症状によって生活に支障はほとんど出ていませんので、解離性「障害」とはいえず、数々の「解離の体験」があるというべきでしょう。ですから、
自分のこの症状?はどのように分類されるのか気になってご質問させていただきました。
このご質問に対する答えは、「それは解離と呼ばれる症状です」になります。
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解離性「障害」とはいえず、数々の「解離の体験」があるというべき。それがこの【2051】のケースですが、実はこういう人は多いのではないかと私は思っています。
先にご紹介した柴山先生の『解離性障害』には、
解離性障害の分類では、曖昧な「特定不能の解離性障害」と診断される症例が半数以上を占めている
と書かれています。(p.29)
「特定不能」とは、解離性障害の分類の中のどれにもあてはまらない、しかし、診断としては解離性障害である、ということを意味しています。「特定不能の解離性障害が多い」とは、解離の多彩な症状を示すケースが多いということです。今回の【2000】から【2078】の中で、解離性障害としてご紹介した多くのケースも、この「特定不能の解離性障害」にあたります。
一方、この【2051】のケースは、「特定不能の解離性障害」にさえあたりません。ただ、解離の症状があるとまではいえます。すなわち、「障害」とはいえないということです(ここでは、解離性障害の診断基準を満たすには至らないことを意味している)。
このようなケースが多いと考えられる背景には、この【2051】のように
小さな頃からずっと付き合ってきた感覚なだけに、もう慣れっこなのですが、
このように、症状はあってもご本人は特に困っていない場合がしばしばあることが指摘できます。
しかし他方、【2050】のケースのように、おそらく表面的にはそれほどつらい症状を体験しているようには見えず、場合によっては周囲の誰もその症状に気づいていないものの、実はご本人は深く苦悩しているという場合も、解離ではよくあるとも推定できます。
【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。
(2011.6.5.)