精神科Q&A

【2009】中学以後、友達が一人もできなくなった私は統合失調症でしょうか


Q: 19歳の男です。突然ですが自分は統合失調症なのではないかと思っています。精神科を受診するかどうかを決めるために相談をさせていただきます。 私は小学5年生ころまでは問題のない生活を送っていました。しかし、突然、原因もなく、6年生の後半くらいから明るく振る舞うということができなくなり、もともとはかなり友達が多いほうだったのに、中学生時代では友達がほとんど一人もできずに一人で過ごしました。(しかし、ほぼ無遅刻無欠席でした) そのときの症状を具体的に言うと
・ どうやって自然に歩いたらいいかがわからなくなり、強ばった歩き方をする。
・ 誰かのことを好きだとか大切だとか思うと、その人が拷問・虐殺されるイメージが自分の意思に関係なく浮かぶことがある。(かなりのストレスになります)
・ 自分は女子に嫌われ、いじめられているのだと思い込み、部活をやめてしまった(実際はむしろ好かれていました) 
・ 一時期、自分の性的な思考が覗き見されているのでは?という考えがよぎることがあった。(しかし、そのたびに、感じた直後に、そんなわけがないと否定します) ・せっかく我が家に遊びに来てくれた友人に向かって「俺のことが嫌いなんだろ!帰れ!」と追い返してしまったことがあった。後悔しています。 
・ 何か考えると、意思に関係なくそれに対して否定的な考えが浮かぶことがよくありました。中学校一年生のときがピークで、かなり強い苦痛がありました。ずっと強制的な自問自答をしている感じで、幻聴ではありませんでした。否定的な考えが浮かぶのは、自分の天の邪鬼な性格に起因するものだと思っていました。
・ 友人とうまくコミュニケーションがとれなくなり、友達をほぼ全員失ってしまった。 
・ なにか自分に不利益なことがあると、ごく軽い嘘言癖のような癖がでる。 
・ 自分の性的衝動を病的に憎む 
・ 自分は醜いのだと思い込み、何度も鏡を見て、自信喪失する。 
こんな感じです。そのせいなのか、高校時代でも友達を一人も作ることができず、高校三年生のときには強めのいじめに遭いました(いじめは担任の先生も確認したことであり、被害妄想ではないです)。 しかし、うちの両親は厳しいため、不登校は許されず、三年間ほぼ無遅刻無欠席でした。ですが、私は耐えきれず、高校三年の終わり頃に首吊り未遂をしました。 
今は大学二年生ですが、友達ができ、環境が昔より良くなったせいか、統合失調症的な症状もかなり改善されています。 ただ、醜形恐怖もあって、自分は他人に対する優越なしに愛されることはないという強い確信があり、一日に何時間も勉強にのめり込んでいます。また、先に挙げた統合失調症的な症状も、極々軽くなったものの、依然として残っています。(でも、自然に治る病気ではないですよね) 勉強のせいでほとんど時間がとれず、あまり精神科には行きたくないのですが、ようやく得た数少ない友人に迷惑をかけたくもないので、林先生にご相談させていただきました。 私は統合失調症でしょうか?精神科を受診する必要はありますか? お忙しいとは思いますが、どうかよろしくお願いたします。



林: 統合失調症のごく初期、または前駆症状だと思います。

突然、原因もなく、6年生の後半くらいから明るく振る舞うということができなくなり、もともとはかなり友達が多いほうだったのに、中学生時代では友達がほとんど一人もできずに一人で過ごしました。

これは生活レベル低下にあたります。
 このような経過の場合、これをいじめによると訴える人も少なくありません。現にいじめが存在することももちろんありますから、判断には十分な注意が必要ですが、仮にいじめが存在したとしても、「いじめ」は、「明るく振る舞うということができなくなった」ことの原因ではなく結果であることも、実際にはしばしばあります。

一時期、自分の性的な思考が覗き見されているのでは?という考えがよぎることがあった。(しかし、そのたびに、感じた直後に、そんなわけがないと否定します) ・せっかく我が家に遊びに来てくれた友人に向かって「俺のことが嫌いなんだろ!帰れ!」と追い返してしまったことがあった。後悔しています。

これは妄想のような考えです。そして、この【2009】のように、自分しか知りえないはずのことが知られているというのは、統合失調症にかなり特徴的なものです。

何か考えると、意思に関係なくそれに対して否定的な考えが浮かぶことがよくありました。中学校一年生のときがピークで、かなり強い苦痛がありました。ずっと強制的な自問自答をしている感じで、幻聴ではありませんでした。

これは【1329】などでもご説明した、両価性の色彩がある症状です。
両価性そのものは、前駆症状の疑い項目にはありませんが、項目のなかの奇妙な思考に含まれると解することができます。

自分は醜いのだと思い込み、何度も鏡を見て、自信喪失する。

醜形恐怖の色彩がある症状です。醜形恐怖が統合失調症の初期症状として表れることがあることは、【1369】などでもご説明した通りです。
醜形恐怖も前駆症状の疑い項目にはありませんが、項目の中の奇妙な思考や知覚の乱れに含まれると解することができます。

私は耐えきれず、高校三年の終わり頃に首吊り未遂をしました。

自殺や自殺未遂は、統合失調症の初期にしばしば見られます。
そういう統計的なことよりさらに、この【2009】の「首吊り未遂」が統合失調症的だと私に感じられる理由は、【2009】の質問者がこの自殺未遂を、他の症状といわば同列にさらっと書いておられることです。自殺未遂といっても多くの手段がありますが、首吊りは完遂率の非常に高い危険な手段です。にもかかわらずこのようにあっさりと表現しておられるのは、いかにも統合失調症的という印象を禁じ得ません。【2009】の方は未遂に終わって本当によかったと思いますが、このような場合に、あっさりと自殺を完遂してしまうことが、統合失調症の方にはあり得ることです。統合失調症の人は、そうでない人と比べて、死生観が違うと考えざるを得ないことも少なくありません。
 前駆症状の疑いがある場合、将来統合失調症になる率は20%から40%というデータがあると【2007】でご紹介しました。この率を意外に低いとみるか、十分に高いとみるか。それが偽陽性問題ですが、この問題を考える際には、統合失調症は突然に自殺してしまうおそれもある、つまり命にかかわる病気だという認識を持つことが必要です。【2007】の方は

死ぬほどのことでもなし、病状が今以上に確実に悪化するという危険がないなら私は病院に行きたくないのです。

と書いておられましたが、「死ぬほどのことでもなし」というのは、必ずしも正しくないのです。


◇  ◇ ◇

【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。


(2011.6.5.)


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