精神科Q&A

【1953】帰国後も薬をきちんと飲み、夫の統合失調症は安定しています(【1502】のその後)


Q【1502】日本にない薬で安定している統合失調症患者の帰国と薬の変更 で相談させていただきました30代女性ですが、このたび夫と共に来日いたしました。今回はその後の経過についてお知らせいたします。 
前回は、日本で認可されていないSolianという薬を服用している夫が日本で働きたいため、どういった薬を日本で服用すべきかということをお尋ねしました。それに対する先生の御回答の中に、スルピリド sulpiride (商品名ドグマチール)スルトプリドsultopride (商品名バルネチール)ネモナプリドnemonapride (商品名エミレース)のご示唆がありましたが、その後アリピプラゾール aripiprazol (商品名エビリファイ) が日本で認可されたことを知り、主治医と相談してエビリファイを試してみることにしました。 以前も申し上げました通り夫の症状はすっかり寛解しておりましたので、ソリアンを最低量(一日200mg)服用し、それと同時にエビリファイを2.5mg服用し始めました。2.5mgでは全く問題がないように見えたのですが、5mgに増量した途端に非常に強い副作用が出ました。特に不眠の症状が強く本人が非常に苦しみ、その結果精神状態も悪化して一時的ではあるものの、突然統合失調症の症状が出始めました(被害妄想、独り言、自分が汚いように感じられるため頻繁な手洗い・シャワーなど)。そのため、主治医の判断でエビリファイの服用をとりやめ、一時的にソリアンを増量することでこの時期を乗り切りました。これが半年前のことでした。 この後、日本でもソリアンを服用するか、エビリファイへの薬の変更に再度チャレンジすべきか本人とも話し合ったのですが、本人がソリアンの影響で20kgほど太り、また勃起障害に悩んでいることから、これらの副作用が比較的少ないとされるエビリファイに薬を変更したいという気持ちを示したので、再度薬の変更を試してみることにしました。そのため二ヶ月ほど前からエビリファイ5mgの服用を開始し、今回は睡眠薬も処方されたので、不眠にも比較的対処しやすく10mgを経て、15mgまで増量しました。しかし10mgで一度安定したように見えた不眠症状が、15mgでまた非常に悪化し、再度本人の精神状態も不安的になったため、主治医の判断で服薬を10mgに減量しました。 それでも不眠及び不安定さ(頭がはっきりしない、常に不安な気持ちでいる、日本に行くとの決断に迷いが生じる、ひどい時には不安感から大声で泣き出す等)が続き、更に来日前のストレスも加わったことから、主治医も多少の危機感を抱いていたようでした。しかし、来日直前に処方された睡眠薬(Temesta 2.5mg)が以前のものより強く効いたこと、また、エビリファイの増量と共に断薬していたソリアンを毎晩200mgずつ服用し出したことで、じょじょに不安定さが消え、同時に本来の夫の性格がまた戻ってまいりました。これが帰国直前までの状況です。

現時点で来日してまだ1週間ですが、本人は数日前より意欲的に仕事を始め、時々はテメスタを服用していますが、夜もちゃんと眠れています。これには来日して夫自身がほっとしたことも大きいと思いますが、とにかく症状が消え、本人の状態がまた安定したことに私は非常な安堵感をおぼえております。 今は朝エビリファイ10mg、晩ソリアン200mgを服用し、夜眠れなければ、あるいは中途覚醒してしまう場合には上述のテメスタ2.5mgを1錠または半錠服用していますが、主治医からは今後少しずつソリアンを減量し、エビリファイを15mgまで増量するようにと言われています。ソリアン及びエビリファイは元の主治医に多めに処方されましたので、あと2か月分ほどはゆうにありますが、私としては近々日本でも精神科医にかかり、今後の方針について相談したいと思っております。また、元の主治医は(来日前に時間がなかったこともありますが)かなりのハイペースで薬を増量していった感がありますので、私としては今回はエビリファイを微量ずつ(できれば1mgから1.5mg単位で)増量していきたいと考えています。 私も帰国ぎりぎりまで働いておりましたので、精神的に不安的な夫を励まし、不眠につきあいながら万事遺漏なく引越し準備を行う必要があり、今回はかなりの綱渡りでしたが、何とか全てうまくいったようでほっとしております。ただ、統合失調症にストレスは禁物なのに夫が自ら望んだとはいえ、結果的に予想していたより大きなストレスを抱え込んでしまったことには傍から見ていて忸怩たる思いになりました。他方でこういったことが多々あっていいとは申せませんし、あくまで過信は禁物ですが、家族と主治医の支えがあり、薬が患者本人に合ったものであれば、ある程度のストレスも乗り切れるものなのかもしれないなとも思いました。

今回私が何度も薬を全てやめたいと言い続けてきた夫をなだめ励まし、夫を心配して服薬に反対する義母を説得し、主治医を信じながらここまでこられたのは、ひとえに林先生のおかげです。林先生のサイトを何度も読み、毎月更新される精神科Q&Aを読み、実例を知ることで服薬の重要性を頭にたたきこみ、何があっても夫に薬を服用させ続けてきたからこそまた穏やかな日を迎えられるようになり、先生には心から感謝しております。これまでは私も知りませんでしたが、夫には私に出会う前に何度も服薬をやめ、そのたびに症状が悪化し、精神病棟に(強制?)入院させられるという過去がありました。ソリアンは夫の症状に非常によく効き、服用後1時間ほどで症状が消えますので、症状が出たら薬をのめばいいと夫は考えていたようです。しかし夫は症状が出てもそれに全く無自覚なので、服用のタイミングが自分ではつかめず、毎回入院に至るまで症状を悪化させていたのだと思われます。(ここだけの話ですが、服薬を続けなければ夫はいずれ廃人になっていたのではないでしょうか。)それが服薬を持続するようになってからは、症状も抑えられ安定した日々を送っております。 今回は、前回からの経過を御報告すると共に、他の方々にも統合失調症があってもどうにか頑張っているケースがあるということを知っていただきたく、メールを差し上げた次第です。また、その後どうなったかとの御報告をしたいと思いますが、その時にまた林先生にいい御報告ができることを願っています。先生のサイトからは私たちだけではなく、多くの患者やその家族が寛解や治癒への手がかりを得ていると思われますので、どうぞ今後もサイトの運営をお続けになってください。


林: 経過のご連絡をいただきありがとうございました。海外生活から帰国することは、生活が激変するということですので、薬の変更以前に、帰国自体が統合失調症を再燃させる原因になり得るものです。そこをスムースに乗り切れたのは、質問者の細心の心遣いの賜物だと思います。

夫を心配して服薬に反対する義母を説得し、

この一文からは、統合失調症のご本人だけでなく、ご家族の病気についての理解が全く不足していることが読み取れ(それは実によくあることです)、

夫には私に出会う前に何度も服薬をやめ、そのたびに症状が悪化し、精神病棟に(強制?)入院させられるという過去がありました。

このような過去は、そのご家族の無理解が主因であったと容易に想像されます。

そんな状況の中、中途家族(という言い方は不適切ですが、「病気が発症した後に家族となられた方」という意味です)の質問者が皆様を説得し、適切な治療の継続に持って行くことは大変なご努力であったとお察し申し上げます。

帰国というイベントをスムースに乗り切れたのは事実ですが、ここで安心しすぎず、これまでのご方針を慎重に続けられることを願っています。


(2011.2.5.)


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