精神科Q&A

【1815】暴力的な兄は、病気か、性格か。私たちは最悪の馬鹿家族なのか。‏


Q: 被害妄想と幻聴、攻撃的性格の40代中盤の兄の症状についてお聞きしたくメールしています。 家族構成は兄(本人。無職)弟(高次脳機能障害でリハビリ中)母の3人です。メール送信者である私は近所に夫と子供で住んでおりまして、母の店舗付き住宅で商売をやっているので、日中はそちらにいます。 一番最近の出来事から書かせて頂きます。 2週間ほど前に、店舗営業中の昼下がりに兄が店舗奥の居間でギターを弾き始め、その音が店舗にも漏れ聞こえてきたので『今営業中だから、ギター弾くなら二階でやってくれない?』とお願いした所、間もなく興奮した顔で、裸足で店舗に飛び出してきて、『てめぇ、働いてるからって偉いと思うんじゃねぇぞ!!』と怒鳴り、本棚を倒し、仏壇を投げつけ、テーブル、イスも投げ飛ばし、足の踏み場がなくなるまで家の1階の部屋をめちゃくちゃにしました。止めに入った私は投げ飛ばされ、頭から落ちました。母がなんて事するんだと怒鳴ると、『重体にならない程度に投げたから大丈夫だ』と平然と答えていました。ものすごい興奮状態で暴れるのですが、なぜか店舗だけは手をつけませんでした。店舗を壊したら逮捕されるのを分かっているから、そこだけは荒らさないのだろうと思います。その後も暴れて、止めようがなかったので、110番通報し、警官に来てもらいました。 警官が到着すると。今までの興奮状態が嘘のように冷静を装い、『妹が暴れただけで、私は何もしてませんよ』と答えるのです。騒ぎが治まってしまっているので、ほどなくして警官も帰りました。 するとまた始まるのです。 この騒動の始まりと全く関係のない事を怒鳴り散らし出し、一方的に逆恨みしている長兄を一家全員ぶっ殺しに行くとか、隣宅の家主を殺すとか言って家を飛ぶ出そうとし、母と私で必死に止めました。 夕方になり、リハビリから帰ってきた弟と、私の娘に母が夕食(へとへとでしたので簡単なもの)を出して食べだした所、兄が娘の食事をひったくり、台所に投げ捨て、『こんな時にのんきに食ってんじゃねぇ!!!』と怒鳴りつけ、娘は号泣してしまいました。 それがきっかけで弟がこのやろう!と兄に向かっていってしまい、2回目の大暴れが始まってしまいました。 兄は弟の頭めがけて拳を振り出し、『てめぇの頭を一発ぶん投げれば、死ぬって分かっているんだ!!!』と叫んだので、母と私が二人の間に入り、兄を押しました。その弾みで兄は背中から窓に突っ込み、ガラスは割れ、背中にささり、かなりの出血をしました。兄は『告訴してやる!告訴してやる!』とわめき散らしてました。 2回目の110番をしました。 警官が到着すると、さっきまで下着姿で暴れていた張本人が速攻着替えをし、玄関の鍵を開け、『あ、どうも。ごくろうさまです』と警官を迎え入れるのです。 この変貌ぶりに恐ろしさを感じました。 以上が兄の直近の異常行動です。
今までの症状を時系列にそって書きますと 

18歳 大学受験の頃居間で家族が団らんしている所で願書を書き出し、(自分の部屋も机もあります)『俺が書いてるんだから揺らすんじゃねぇ!!』とどなる。他、理不尽な事で怒鳴り散らすようになる。 一人で精神科に通っていた。病名、飲んでいた薬等は不明。 

20代  大学入学直後、登校しなくなり、1年で自主退学。行かなくなった理由は    『みんなが俺の悪口をいっていじめる』 しばらくして、2つ目の大学に入学するが、ほとんど通学せず退学。理由は上記と同じ。     
3つ目の大学入学。途中通学せず。2年留年し、6年がかりで卒業。この時期、A病院精神科通院。主治医退職のためB大病院転院。病名、薬は不明。B大病院で診察中に暴れたらしく、その場で注射を打たれ、救急車で他県のC精神病院に強制入院させられる。しかしながら、統合失調症ではないと診断され、入院先から迎えに来る様電話が入り、母が迎えに行く。 

30代 前半は病院に通わず、引きこもり状態。半ば頃、D病院精神科受診。 しばらくして家族で主治医の先生に病状を聞きに行くが、病気ではないと言われる。家族が病気の症状だと思っているのはすべて単に性格的な物だという。ただ、本人にそれを言うと、病院に来なくなり家でまた暴れるだろうから本当の事は言っていないとの事。        この時期被害妄想、幻聴が酷くなる。 前述の隣の店舗の従業員が強盗殺人を計画していると訴える。寝ていると外で『この家だよ』『殺して放火すればばれない』などと相談していると言う。夜間、隣店舗の留守番電話に脅しの電話をかけたらしい。また、反対側の隣人に、上記隣人の事を『おかしい人だから気をつけるように』と言いに行ってしまった。     大型ゴミの無料回収車が家を乗っ取ろうとしていると言う。スピーカーから流れるアナウンス‘バイク、古タイヤ、冷蔵庫・・’を聞いて『家にあるものばかりだ。家はのぞかれている。』と言う。連日上記のような事を言って、家族が相手にしなかった所、警察に訴えに行った。他、娘が外で『今度イタリア旅行行くんだ!』と言っていた。金持ちだと思われて犯罪に巻き込まれるから言わない様しつけろと私が言われたり、あり得ない話が多数あった。  
  
40代  D病院からの紹介で個人病院に転院。(就職のため、土曜日しか来れないと本人が言ったらしい) 最初に書いた様に、家庭内暴力をはたらく。疲れ果て、私が警察に相談に行く。精神保健福祉法24条と33条を教えてもらう。今後また暴れたら110番して、24条通報を依頼する事、平行して、区の福祉課と相談し、33条入院を進める事。     この二つをアドバイスされました。

兄が暴れて家中めちゃくちゃになる事が過去に数えられないくらいありました。私も、家族も、暴れてはめちゃくちゃになる生活に疲れ果て、入院させるしかないという意見で一致していた所に、上記のアドバイスを頂きましたので、早速福祉課を訪れ、相談している所です。過去にはそんな兄にうんざりし、心の中で絶縁を誓った時がありましたが、病気を治さないことには兄本人も救われないし、何も解決しないと思い直し、兄の病気を治す為に具体的行動をしようと思いました。けれど、心に引っかかっている言葉があります。『病気ではない』と言ったあの言葉です。D病院の先生は病気ではないとはっきりおっしゃってました。その時は私も家族もそうなのかと思っていました。ですが、定期的に異常な興奮状態があり、日常的にあり得ない事や、逆恨みめいた事ばかり言う兄と生活をともにしていると、どうしてもこれのどこが病気じゃないんだと思ってしまうのです。何年も通院し、薬も飲んでいるのに(幻聴が酷いときは勝手に薬をやめていました)治らないのは誤診なのではないだろうか、ヤブ医者なのではないだろうかと先生を疑ってしまいます。

33条入院を進めながら、母が任意入院の為に兄を説得しだしました。すると兄は、素人の考えを押し付けるな、専門家の意見を聞いてからだと言うので現在の主治医に行こうとした所、今の先生は薬を出すだけだから前かかっていたD病院の先生に行くと言って聞かず、予約をとり、母と兄とで言ってきました。 先生には開口一番『いまさら何しにきたの?』と言われたそうです。あからさまに嫌な顔をされ、入院の相談どころじゃなかったそうです。 母は落胆していましたが、現在の主治医に相談するのが筋なので、これはしょうがない事かなと思いました。むしろ、兄に自覚させる意味で行って良かったと思いました。行かない事には『おれの主治医は○○先生(D病院の先生)だ!』と言って聞きませんでしたから。 
次に現在通っている個人病院の先生に相談に行きました。こちらには、あらかじめ区の保健師さんから事情を電話してもらってあり、保健師さんも『多分、相談に行った時には入院の受け入れ病棟も決まっていると思いますよ』との事でしたので、一歩前進出来ると期待して行きました。ですが、結果は期待はずれでした。主治医の先生が外来を持っている総合病院Eの入院施設を一度兄本人が見学に来て、気に入ったら入院すれば良いし、気に入らなければこのまま様子を見ましょうとおっしゃいました。私が33条使ってでも、すぐに入院させたいと言いますと、あからさまに怒った顔になり、『任意入院って形にした方が治りがいいのでそうした方がいいんですよ』と言われました。言葉を遮るように『では、そういう事で!』と話も聞かずに強制終了されそうになり、最後にこれだけは聞きたかった、兄の病名を訪ねました。『統合失調症です』主治医の先生はそう言いました。 
あまりにこちらの話も聞かず、一方的に打ち切られたもので(正味2分もなかったと思います)母が後日別のE病院に予約を取り、兄を連れて行きました。そこは精神科の緊急入院も受け入れている総合病院で、外来は基本的に紹介制ですが、予約の際紹介状がない事を告げ、病状の概略も説明した上で予約を受け付けてもらっています。ですが、予約の日、診察室に入るなり、いきなり怒鳴られたそうです。『あんたね、他の病院にかかっているなら紹介状書いてもらうのが常識でしょう!!』『おかあさん、病院ショッピングしちゃいけませんよ!!』等、ものすごい剣幕で言われ、そばに居た若い助手の先生は固まってしまっていたそうです。母は、『藁をもつかむ思いで来ているんです。ショッピングなんて、そんな余裕はありません!!』と言うのが精一杯だったそうです。 母はこのこの一連の出来事でふさぎ込み、元気がなくなってしまいました。もう病院行きたくないと言い出しています。 兄の病状が思わしくないのは明らかで、それを治す為に治療を受けさせるのが私たち家族の責任であり、病院行きたくないと落ち込んでいる場合ではないと思うのですが、行く病院行く病院で怒鳴られ、母もかわいそうだと思います。 私も、もう、どうして良いのか分からなくなってしまいました。 
(1) 兄は統合失調症なのか、病気ではないのか(私は統合失調症と思っている)
(2)入院させるべきなのか必要ないのか(入院させるべきと思っている) 
(3)(統合失調症なら)現在の主治医は治してくれるのかくれないのか(治してくれないと  思っている) 
(4)ただの性格だとしたら、定期的に暴れる兄をどうする事もできないのか。(死ぬまで続くのでしょう) 
(5)上記のように考え、兄の病気を治すためにと行動している私や母は、怒鳴った医者が言ったように最悪の馬鹿家族なのか。

もう、わからなくなりました。 林先生、正直に教えて下さい。私たち家族が馬鹿家族なら、そうだと言って下さい。病気でもなんでもないのに、大騒ぎする馬鹿家族だと。 何が正しいのか、どうすれば良いのか、もう、判断の軸がありません。 主治医を信じれば、平和な日はくるのでしょうか。 何年も通院しているのにまったく治る気配がありません。それは、もともと病気じゃないんだからあたりまえという事なのでしょうか。 どう考えて行動すればよいのか、教えて下さい。 兄の処方されている薬です。(1日の回数はわかりません) デパス1mgデパス0.5mgエビリファイ12mgジプレキサ錠10mgベンザリン錠 よろしくお願い致します。 乱筆乱文失礼致しました。


林:
(1) 兄は統合失調症なのか、病気ではないのか

統合失調症だと思います。暴れていても警官が来るととたんに大人しくなるという点などから、若干の疑いは残らないでもないですが、統合失調症であっても症状が極端に重くならない限りは、このように状況に応じて適切な行動を取ることは可能ですので、統合失調症の診断を否定する根拠にはなりません。そしてこのメールに記載されている症状の描写全体からは、統合失調症であると判断するのが自然です。
 ただ疑問が残るのは、D病院の先生が「統合失調症でない」と明言されていることです。一方、他の医師は「統合失調症である」と明言していることなどから、質問者はD病院の医師をヤブ医者ではないかと疑っておられます。実は元のメールには病院名が明記されているのですが、D病院の医師がそのような医師でないことを私は知っています。また、統合失調症であると明言したE病院の医師は、詳しい診察を行ったわけではなく、さらにはC病院でも統合失調症でないと言われていることもあわせると、メールの記載内容が統合失調症に思えるからといって、そのまま判断するのは疑問ということになるでしょう。
統合失調症でないとすれば、考えられる診断名は妄想性パーソナリティ障害 (妄想性人格障害といっても同じものを指します)か、統合失調症型パーソナリティ障害 (統合失調症型人格障害といっても同じものを指します)ということになります。D病院の先生が、

家族が病気の症状だと思っているのはすべて単に性格的な物だという。ただ、本人にそれを言うと、病院に来なくなり家でまた暴れるだろうから本当の事は言っていないとの事。   

とおっしゃっていたのは、この診断名であると判断していたのかもしれません。
そして、パーソナリティ障害だとすると、治療は統合失調症より困難です。そしてお兄様がパーソナリティ障害で、しかもこのように暴力などが大変な状態だとすると、D病院の先生の、

ただ、本人にそれを言うと、病院に来なくなり家でまた暴れるだろうから本当の事は言っていないとの事。  

という方針は、現実にそったきわめて適切なものであったと考えられます。質問者はD病院の医師をヤブ医者かもと疑っておられますが、逆に名医だったのではないでしょうか。
とはいっても、この時期に

この時期被害妄想、幻聴が酷くなる。

とのことですので、D病院の医師の治療は決してうまくいってはいなかったと判断できます。しかし、ご本人はD病院の医師を信頼していたということもあり(お兄様のようなケースから信頼を得て、通院を続けさせることは、それだけで高度な精神科的技術を要します)
E病院にかえたのは、やむを得なかったのかもしれませんが、D病院での治療を続けたほうが良かったかもしれません。

(2)入院させるべきなのか必要ないのか 

入院させるべきでしょう。
もちろん質問者が「入院させるべきと思っている」わけですから、メールの記載は、「入院させるべき」という結論に傾く方向にバイアスがかかっています。しかしそれを勘案しても、これは入院させるべきケースでしょう。けれども、

私が33条使ってでも、すぐに入院させたいと言いますと、

これは大変まずいやり方でした。
なぜなら、【1815】のようなケースでは、ご家族がいわば厄介払いの形で入院させたいと希望することがしばしばあるからです。その場合、ひとたび入院させてしまうと、家族は連絡を断ってしまい、「すべて病院におまかせしました」というような理由づけをして、治療への協力を一切拒否されることも少なくありません。【1816】もご参照ください。この【1815】の質問者のE病院での希望の表明のように、初診時に医師の提案に反して「とにかく入院を」と希望する家族は、そのようなタイプであると思われることは否定できません。病院としてはそういう患者・家族をそのまま受け入れるわけにはいきません。ですから、

あからさまに怒った顔になり、『任意入院って形にした方が治りがいいのでそうした方がいいんですよ』と言われました。言葉を遮るように『では、そういう事で!』と話も聞かずに強制終了されそうになり、

これはある意味当然のことです。非は質問者にあったといえます。(もちろん、そのときの具体的な言葉の使い方や、医師の姿勢にもよりますが)
E病院受診に至るまでのご苦労が伝わっていれば話は別ですが、初診時にそこまでは期待できませんから、「患者を病院に押し付けようとする家族」であると見られたのでしょう。
なお、

あらかじめ区の保健師さんから事情を電話してもらってあり、保健師さんも『多分、相談に行った時には入院の受け入れ病棟も決まっていると思いますよ』との事でしたので、

これが質問者の言動(すぐにでも入院させたいという希望の表明)の背景にあることは容易に想像されます。質問者としては、話が通っていると思っていたからこそ、入院希望を強く表明したのでしょう。結果的にはこの話が通っているというのは甘い判断でした。が、保健師からそのように伝えられれば、信用するのが普通ですから、連絡系統のどこに問題があったかは難しいところです。

(3)(統合失調症なら)現在の主治医は治してくれるのかくれないのか

それは私にはわかりません。

(4)ただの性格だとしたら、定期的に暴れる兄をどうする事もできないのか。

パーソナリティ障害だとしたら、統合失調症よりもむしろ治療は困難です。しかし「どうする事もできない」ということはありません。たとえば薬によって攻撃性を軽くすることは可能です。D病院の医師はそれを目指していたのかもしれません。
が、繰り返しますが、やはりこのケースはパーソナリティ障害ではなく統合失調症の可能性が高いと思います。

(5)上記のように考え、兄の病気を治すためにと行動している私や母は、怒鳴った医者が言ったように最悪の馬鹿家族なのか。

・「最悪の馬鹿家族」ではありません。
・しかし、質問者の方のこれまでの対応や行動に問題なしとは言えません。
・しかしその問題の背景には、お兄様の状態の難しさ・ご家族の長年の苦労があります。
・しかしその背景は、初診時には医師にはわかりません。初診時でなくても、また、医師以外に対しても、ご家族の苦労をお伝えするのは容易ではないでしょう。
・そして、世の中には、苦労を過剰に訴えたり、時には虚偽の申し立てをして、支援を得ようとする人々も少なくありません。そのような人々であると誤解されないような注意が必要です。

 

今回の更新(2010.10.5.)について

(2010.10.5.)


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