精神科Q&A
【1756】うつ病だといって20年もやりたい放題の生活をしてきた弟
Q: 40歳の弟のうつ病についての質問です。林先生の『擬態うつ病』と『それは「うつ病」ではありません!』を読ませていただきました。実は弟は20代の頃から自分で精神科に通いうつ病と診断され、当初は両親も兄弟もそれを信じて治療をすれば良くなるものだと思い、だらだらしていても特に何も言わずに見ていました。そのうちに大学も休学し家でゴロゴロと過ごし、一点を見つめてボーッとしていたり、落ち着かないと言って部屋の中を行ったり来たりして、かと思いきや「今は躁だから」と言って好きなインターネットで自分のHPまで作って夢中になる事ができ、好きな歌手のコンサートなどはいつも楽しそうに出掛けて、さすがに両親も口を出すようになりました。その後多額の借金問題や女の子にストーカー行為をしたり(本人はストーカーとは全く思っていません。)出会い系サイトで痛い目に何度もあい、借金も両親に片付けさせて、謝りはするものの、数日後にはテレビを見て高笑いしていたりで両親も呆れて就職などを勧めたりしましたが、「もっとうつ病を理解してくれ」とか「プレッシャーになる事はいわないでくれ」と訴え始めました。時にはキレて物に当たり壁に穴をあけたり食器を割ったり、刃物を振り回したり・・・・その度に私は両親に「甘やかしているから、腫れ物に触るような態度はやめて、言う事は言わなきゃ」と言ってきましたが、父は事なかれ主義で母は昔から人に強く言えないタイプで、ましてや毎日一緒に生活している両親には言いにくいらしく、その間に借金を繰り返したり、狂言自殺を繰り返し、他同じ様なことを何度も繰り返している内に気が付けば20年近くの歳月が経ってしまいました。私は両親が可哀相でいつも何とかしてあげたいと思っていますが、仕事も家庭もありますし、なかなか行ってあげられない状態です(でも一緒に生活している両親の弟への甘やかす態度が変わらなかったら変わらないきもするのですが)。
ここ5年位で弟はとてもひどい状態です。私は薬害ではないかと思いました。波がありますが大量の薬を服用しているので目がうつろで、呂律は回らず口は半開き、トイレ(小)にとても時間がかかり周りを汚し、猫背ですり足で歩き誰が見ても普通ではありません。でも相変わらず、そんな状態のままコンサートへでかけたり、車を運転したり、他人に迷惑を掛けないか心配です。私は弟の事をただの怠け病で心が弱いだけで、自分をウツだと勘違いして病院もそう診断するしかなく、薬を処方しているのではないか、など疑問に思い林先生の書2冊を購入しました。その内容はとても衝撃でした。誰もが心の病と思っていたうつ病が実は脳の病だったなんて・・・。10年くらい前にインターネットの精神科医の相談サイトに弟のことを相談した事があります。その時に弟は人格障害の疑いがあります。と返事がありました。その時はそれについて詳しく知らず、色々調べたりしましたがあまり理解できませんでした。今回読んだ2冊と先生のHPに境界性人格障害(境界性パーソナリティ障害)の事がとてもわかり易く書いてあり、弟にあてはまる事が多数ありました。本に書かれている「9つの項目」で酷似している事は以下の通りです。 弟は、
1.見捨てられることを恐れています。両親(特に)父にとても依存しており、どこに行くにもついて行きたがります。父の発言をとても気にします。昼間も両親の居る居間で寝たりテレビを見ています。
2.父の事を尊敬していますが、ある日突然、父に暴言を吐いたり、ハサミを投げて怪我をさせた事もあります。その後は必ず誤ります。
3.自分がどういう人間なのかもわかっていません。
4.何度も狂言自殺をしました。今から自殺する宣言をしてから薬を大量に飲んだり、わざわざ目の前に来てからコードを首にまきつけたり・・・。
5.金の浪費、過食、異性への執着もあります。
6.感情は不安定です。現に通っている精神科で「躁鬱病」と診断されています。
7.いつも虚しいと母に言っています。
8.普段はおとなしいのですが、突然些細な事で怒ります。小学生の甥に手をあげたこともあります。その後も落ち着いてから大体誤ります。
9.幻覚をみた事が数回あります。寝床に蛇が入ってきたと大きな声で両親の元にきたり、天井にウチワくらいのクモが居るなど・・・・
境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)の特徴に、とても当てはまる事が多いです。やはり境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)でしょうか? もしそうだとしたら、今の治療はやめた方がいいでしょうか? 薬も飲まない方がいいのでしょうか? このままでは自分たちがノイローゼになりそうだと両親は言っています。今通っているお医者様に境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)ではないかと相談するのも先生の考えを否定するようで気が引けます。
林: 弟さんがうつ病でないことは確かだと思います。質問者は私の本をお読みいただいたとのこと、この【1755】のケースは、それは「うつ病」ではありません! のケース14と共通点があります。すなわち、うつ病でないのにもかかわらずうつ病と診断され、うつ病としての無駄な治療を長年受け続けた結果、自分が「うつ病患者である」ことが一種のアイデンティティのようになってしまい、もはや生産的な人生を送ることが困難になってしまっているというパターンです。擬態うつ病の大きな弊害の一つといえます。
そして、この【1755】のケースは、質問者のご指摘の通り、境界性パーソナリティ障害の可能性は大きいです。
今の治療はやめた方がいいでしょうか?
今の治療内容が不明ですので、回答できません。(本人に医師が「うつ病」と告げていたとしても、実際には「うつ病」と診断しているかどうかはわかりません)
薬も飲まない方がいいのでしょうか?
わかりません。薬の内容が不明だからです。
しかし、副作用がかなり出ているとすれば、処方内容を見直す必要はあるでしょう。
このままでは自分たちがノイローゼになりそうだと両親は言っています。
このままでは希望はありません。
今通っているお医者様に境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)ではないかと相談するのも先生の考えを否定するようで気が引けます。
そんなことを言っていていいのでしょうか。ご家族の病状の改善よりも、医師の機嫌を重視するのですか?
遅きに失した感は否定できませんが、今からでも、診断と治療方針を見直すべきだと思います。いくら遅くても、何もしないよりははるかに優ります。